13-1
週が明けてキャロルは普通に登校してきた。
表向き葬式に出席しただけなので特に何かが変わるわけではなかった。いつものように主人公様のヒロインとして姦しい。クラスメイトもそれを普通に受け入れていた。
強いて言えば、本来であればキャロルの本国での生活を聞きたいところだけれど身内の不幸という事なのでクラスメイトの殆どは遠慮していたくらいだろうか。
ほとんどの人間が何でもない様にキャロルは受け入れられていたが俺はかなり警戒を強めた。
キャロルは正直それほど強い存在ではない。伊勢谷ランクで言えば、戦闘力こそSだが総評でAAA+。所詮は一般レベルで超えられない壁を越えられていない。
実際にのじゃ子たちと戦った後とは言え俺でも何とかなる相手だった。
しかし、今のキャロルの気配はかなりヤバい。
単純な力の増大だけでも危機感を煽るのだがそれだけではなく気配が何とも嫌な感じがする。
普段は直情的でポンコツ美人、愛される天然生物のような雰囲気なのだが今はどこか高慢ちきで本物の社長令嬢みたい。いや、本物の社長令嬢なんだろうけれど。
兎も角、キャロルは帰ってきたけれど今まで通りとはいかないらしい。
問題はそれに気付いている人間が少ないということだろう。
気付いているのは早乙女くらいだろうか。
ただ早乙女はどちらかといえば直感型で他人に説明するのは得意でない。キャロルが可笑しいと気付いても誰かに伝えるのは難しいかもしれない。あるいはキャロルがどうであれ興味がないのかもしれない。
早乙女は竜泉寺にしか執着がないようだし。
後は、神崎も知っているだろうがあれは真っ黒側なのでカウントしても仕方がない。
さて、この情報をどうするか。
当然どうもしない。竜泉寺に伝えるなんてことはしない。
何故なら面倒だから。
どうせこの後何かしらの出来事が起きてそこに竜泉寺は突っ込んでいく。
キャロルの異常がザマス眼鏡たちの思惑なら竜泉寺が其処から弾かれることはまずない。主人公が物語に介入するのならば問題なく終わるだろう。主人公様でどうにもならないなら誰にもどうにもできない。
ならば俺が何かをする必要はない。
生憎キャロルにどんな災いが降りかかったとしても俺には関係ない。
一応顔見知りだがそれ以上の情はない。キャロルの為に自分の命が掛けられるかといえばそんなことは無い。勿論彼女1人の為に大多数を犠牲にするつもりもない。
よって俺はこのことを静観することにした。
いつものように主人公たちのから騒ぎが続き、動きがあったのは2日後。
昼休みの時間帯にどこぞの組織から襲撃があった。幸いというべきか襲撃者の目的は学校ではなかったので俺やクラスメイトに被害は無かった。
煙が上がったのは学校から離れた街のどこか。竜泉寺の自宅の方向だった。
しかし、その襲撃を襲撃と理解出来ているのは少数だけ。いつものようにクラスメイト達は視界に爆炎が入っているはずなのに気付いていない。
そういった超常的な何かが働いているのだろう。
その異常事態に気付いた竜泉寺、キャロル、早乙女、九重は駆けだしていった。
正確にはキャロルが1人勝手に学校を飛び出して竜泉寺が早乙女を連れて出て行った後を九重が付いて行った。
それをクラスメイトはいつもの事かと見送った。
そして、当然の如く俺も見送った。
いやほら、襲撃者の目的が襲撃地とは限らないだろ。派手なのは陽動で別に目的があるかもしれない。ならばみんながみんな現場に行く必要はないだろ。
と、そんな御託を並べるつもりは無く単純に関わりたくない。
「あなたは向かわなくていいの?」
傍観者を決め込んでいると神居が少しばかりの敵意を込めて問いかけてきた。この場合敵意というか棘の様なものだろう。まあ呑気にしてればそうなるか。
とはいえそんなものはどうでもいいので気にしない。
「主役方が自ら出向いたんですよ。態々自分まで行く意味はないでしょう」
「でも、これはあなたが言っていた何かの始まりなのでしょう?」
「そりゃ、まあ、そうでしょうね」
流石の神居もこの状況の可笑しさに気付いているらしい。
竜泉寺は世界で最も重要な人物の1人。となればその周り多くの勢力が混在しておりその監視網は絡み合っている。
そんな中でひとつの勢力が周りにバレずに動くなんてまずできない。
それに、仮にひとつの組織が竜泉寺に襲撃を掛けていたとしてその襲撃がこれほど小ぢんまりしているとは思えない。もし本気で竜泉寺を狙っているのならもっと大々的な襲撃になっているはず。
今の竜泉寺をどうにかしようとするなら小細工では無理だ。
とするとこの襲撃は各勢力があえて見過ごしたモノ。
純粋な襲撃以上の意味があるということ。
この先竜泉寺に何かしらがあるということ。
勿論唯のネズミが入り込んだという可能性もあるだろうが、今更そんなことは無いだろう。
仮にネズミでも主役様なら簡単に駆除できるだろう。
いずれにしても俺には関係のないことだ。
「神居こそレオチャンについていかなくてよかったんです? あれは絶対物語の中心に向って身を危険にさらしますよ」
「ええ、私も追いかけるよ。でもあの爆炎が陽動かもしれないから学校に問題がないことを確認しないとね。私は他の子より戦闘力がないからこういうことが仕事なのよ」
「へえ。じゃあここに結界を張っているのは神居ですか」
「残念ながら私はそんなに有能じゃないのよ」
可能性は少ないだろうが陽動だと面倒なので神居の警らに付き合うことにする。
流石に学校で何か起きてしまえば逃げることは難しい。俺1人が助かるなら訳ないのだが周りを見捨てて逃げたという事が主人公様にバレれば面倒この上ない。
仮にそうなっても逃げるだけなので問題ないといえば問題ないのだが面倒は出来るだけ減らしたい。
校内を隈なく散策してみたが特に異常は見られなかった。いつものように取り立てて何もない学校。主役がいなければ何も起きない普通の学校なのだ。
結界はかなり強く張られているようでテイラー氏は街の異変に気付いていなかった。
当然他の生徒たちが気付いているはずもなく平穏そのもの。テイラー氏は一応手駒ではあるのだけれど面倒なので何も伝えなかった。
気になるとすれば神崎が消えていたことだろう。まあ委員長様は竜泉寺の背後組織の末端なので色々と走り回っているのだろう。
もしかすると結界を張るのを手伝っているのかもしれない。
一先ず学校内の安全を確認するとクラスに戻る。
「それで斎藤はこの後どうするつもりなの?」
神居に尋ねられて少し真面目に考える。
物語の進行は主人公に任せればいい。
問題は主人公様がしっかりと物語を完結させることが出来るのかという点。創作物は創作だから上手くいくのであって現実はそうそう甘くない。誰もが桶狭間を起こせるわけでもないという事だ。
ただ、竜泉寺零王という人物は数少ない起こせる側の人間だと思う。
けれどその先がどこに繋がっているかは分からない。大団円で終わるのか志半ばで倒れるのか、物語が全てハッピーエンドとは限らない。
面倒事は主人公様が何とかしてくれるかもしれないがそれも絶対ではないという事なのだろう。
「取り敢えずは様子見です。レオチャンが何とかするというならそのまま放置。レオチャンが二階級特進するならそれはそれで仕方がない。ただ、面倒が周囲に波及するなら対処する、ですかな」
結局、面倒事に巻き込まれてしまった以上立ち回らないといけないらしい。
ただ竜泉寺を前面に押しての主人公頼みだった今までよりは随分とマシになったモノだ。
そんな俺の回答に神居はげんなりして見せる。
「そう。分かっていたけれどあなたってレオのこと嫌いなのね」
「まさか。嫌いではないですよ、好きでもないですが」
さて、外から聞こえてくる騒音も次第に小さくなってきた。主役様方が物語の締めに入ったのだろう。所詮は小さな小競り合い。1時間もかからずして終わってしまうモノだ。
すべてが終わってからでは状況の把握も難しいだろうからそろそろ行くとしよう。
そう思った時だ。
「斎藤くん。竜泉寺くんは何処に行ったの?」
1人のクラスメイトに問いかけられた。
「それにマリーさんも乙女ちゃんも九重さんも。それになんで街では煙が上がっているの。それなのになんでみんな気付かないの」
「美咲!? 何故、あなたに見えているの!!」
声を掛けてきたのはヒロインの中で唯一一般人である御幸。そして何故か結界の効果を受け付けていないようで現在の異常さに気付いているらしい。
勿論これは異常だ。
御幸は本当に唯の一般人。御幸から発せられる雰囲気は他のクラスメイトと大差ない。それなのに結界で守られている以上を感知できるというのは可笑しなことだ。
そして、神居は迂闊すぎる。
御幸が状況を知ることが出来るのは確かに驚くべきことなのだろうけれどそれに反応して見せるのは御幸の違和感を事実だと証言しているようなモノ。
そして御幸もヒロインの一員なので主人公の危機を知ってしまえば首を突っ込みかねない。
適当にはぐらかせて誤魔化せばよかったものを。
神居の反応で自分の感覚が正しいと理解した御幸は面倒にも詰め寄ってくる。
「やっぱり、斎藤くんと神居さんには見えているのね。わ、わたし、私もっ」
無能なヒロインほど面倒なものは無い。意思だけあっても無意味。
構うのも面倒なので妖気を使い気絶してもらう。
「殺して、ないでしょうね」
「そんなことしませんよ。そもそもあなたが動揺するから悪いんですよ。適当にはぐらかせばよかったものを。よくそんなので生きてられますね、ゆとりですか」
かなり面倒な状況だが一先ず御幸は後回しだな。何の力も持たない御幸が結界の効果を受けないことはかなり面倒なのだがそれを今考えても仕方がない。
一先ず保健室で扱ってもらうとしてその後の処理は神崎に任せるとしよう。あちらさんも御幸が首を突っ込むことは望んでいないだろうし。
やれやれ、かなり面倒な状況になって来たモノだ。
とはいえ嘆いていても仕方がないので少しは頑張るとしよう。




