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話し合いの場所はのじゃ子を封印していた組織の跡地。
無駄に広く無駄に手入れの整った庭園、風情のある日本家屋。そこの座敷を借りて面々が集まり情報を聞かせてもらう。
今回集まったのは綾香、のじゃ子、よし子さん。
オセアニアからキッドマンとテイラー氏。
そして突発的ゲストの神居。
以上の7人。
話し合いと言っても大したことはしない。各方面から情報をもらいそれを整理して、俺が方針を決める。参加者が特に意見を言い合うことはない。生憎組織という体をなしていないので俺が方針を決めればそれで終わる。
まずは大明神である綾香が概要の説明を始めた。
「潤からローズマリー・キャロルの帰国に関して何か裏があるんじゃないか、ということで情報を集めたんだけど。単刀直入に言えば潤がいうような何かが起きるという確証は得られなかった。政略結婚や人体実験なんて聞こえたけどどれも怪しいね。噂、というよりは冗談のようなものでしか聞かなかったよ。その噂もずっと前から出ているものだしね」
「私たちの方にも何も。特に怪しい動きは見られませんでした。報告を受けた人物の死亡は確かに最近でしたので身内の不幸ということも嘘とは言えないでしょう。もっとも私たちのスパイは懐に入っていませんから隠されているという可能性も否定はできませんが」
どうやらキャロル絡みで何か起きているという情報は得られなかったらしい。それはオセアニアでも同じとのこと。綾香もキッドマンも何かが起きるとは思っていない様子。
だが、そんなことは無い。絶対何かがある。
けれど始めから確かな情報を得ることに期待はしていない。
情報の流出は何処の組織も注意している。ポッと出の集団に嗅ぎつけられるようなヘマはしないだろう。寧ろ簡単に尻尾をつかめたならばそれこそ怪しい。
「分かりました。今後も情報収集をお願いします。ただこちらは当事者ではなくあくまで傍観者。無謀をして下手に駒は減らさないでくださいね。スパイとか使わなくていいですから」
「わかっているよ、潤」
「私たちも構わないが。その程度の情報でいいのか?」
「情報なんてものはあくまでも武器の1つですから、絶対ではないんですよ。あるに越したことはありませんがその扱いも面倒ですからね。中途半端に潜り込んでも中途半端な情報しか手に入りません」
何事も中途半端が面倒なのだ。
完全に信用できる情報なら欲しいがそんなモノ簡単には手に入らない。下手に間者を紛れ込ませても相手に都合のよい情報をつかまされることもある。騙しているつもりが良いように転がされているなんてこともある。
ならば弱者は弱者らしく情報を集めるべきだと俺は思う。
表に出てくるようなものをかき集めればいい。あとはそこから裏読みすればいい。
勿論裏読みで完全に推測できることはないだろうがそれはどんな情報でも同じこと。
今回に関して言えばそれらしい陰謀は簡単に掴めなかった。
となれば情報を完全に遮断しているという事。そうする必要があるという事。
勿論何もないということも考えられるのだがそれならば偽情報として流しても問題はない。そうしないということはそうできないという事。
情報を得られなかったというのも1つの情報だ。
そう考え込んでいるとキッドマンが問いかけてきた。
「斎藤殿はどのくらいの確率で何か起きると予想しているんだ? 私たちの情報としては何もない可能性が高いと判断するのだが」
「確率論で言えばそうなんでしょうが、少なくとも自分は絶対だと思っています。これはあくまでも個人的な勘というか予感みたいなものなので証拠はありませんが。説得が難しいなら最悪の状況を想定して動くべきってところでどうでしょうか」
「確かに。起きてからでは遅い。空回りで終わるならそれはそれで重畳、だな」
「最悪を想定して動く、と言っても自分たちに出来ることは少ないですから警戒を厳にしてうまく立ち回るしかないわけですが」
俺たちは所詮弱小組織。何か情報をつかんでも出来ることは少ない。
国外に出たキャロルには何もすることも出来ないし帰ってきた後問いただしたり検査することも出来ない。
出来るのは精々主人公様に告げ口をするくらいか。
それはヒロインの一員でもある神居に任せるとしよう。
あとは巻き添えであっさり死なないように気を張るくらいだ。
死ぬときはどうせあっさりと死ぬだろうが。
取りあえずこちら側の皆様には各自で体調を整えておいてもらうことにする。
今更の指示ではないので各方面が納得していると大人しくしていた神居が口を開いた。
「斎藤は何が起きると思っているの?」
「情報が有りませんからあくまでも可能性、というよりは妄想に近いですが」
神居の疑問は他の人たちも感じていたようなので一通り可能性を提示することにした。
ありきたりなのがキャロルが外部組織に狙われ日本に戻って来れなくなること。
その目的はいくつも考えられるので置いておくとして大部分はヒロインという交渉カードを手に入れることにあるだろう。
これで俺たちが被る面倒は主人公様に巻き込まれること。
だがこれだけなら特に気にすることはない。結局は主人公が突貫するだけなのでこちらはお膳立てをするだけでこちらの被害は少なくて済む。
一番厄介なのが主人公の背後組織が何かを企んでいること。
主人公を手厚くしているがそこには何か目的がある。そしてそれは常人に理解できないものである可能性が高い。
この手の物語としては背後組織には主人公にさせたい『何か』がある。それは純粋に世界の覇権を手にしたい、なんてもので終わらないだろう。その為には主人公に強くなってもらう必要がありその為にはある程度の犠牲を見込んだ試練を作りかねない。
ヒロインが揃ってきた今、更なる試練が発動される可能性は高い。ヒロインを使って竜泉寺を窮地に追いやる。それも多大な犠牲が起きる可能性のある窮地にだ。そこで竜泉寺の進化を促す。
そういった試練が仕組まれる可能性がある。
そしてそれが起きた場合被害を受けるのは周りの人間だ。
試練から逃げるのは容易ではない。あらかじめ準備しておいても巻き込まれる可能性が高い。そしてその試練に立ち向かうにはそれなりの準備しておかなければあっさりと死ぬ。
準備しても死ぬときは死ぬが。
「もっとも、可能性だけで言えば何もない可能性が高いんですがね」
そうはぐらかしてみたが俺はキャロルが帰ってきたらその試練が始まると予感している。
神居は俺の言い分に思うところがあったのか納得して見せる。他の面々はそこまで危機感はなかったが一先ず理解は示していた。誰も面倒事には巻き込まれたくはないのだ。