12-2
翌、月曜日。
竜泉寺の証言通りキャロルは身内の不幸があったので暫く帰国することになり数日学校を休むことになった。既に日曜のうちに日本を出ているとのこと。
クラスメイトは大騒ぎ。元々住んでいた国に一時的に帰るだけとはいえ落ち着かないのだろう。
キャロル派閥の男子などすすり泣いていた。その派閥はクラスや学年を跨いでいるらしくかなりの男子が泣いていた。阿呆すぎるだろうに。
どうやら知らされていたのは竜泉寺だけだったらしい。早乙女や九重、神崎は驚いていた。
驚いていないのは竜泉寺以外では俺と御幸くらい。
俺は竜泉寺から情報が流れてきただけだし御幸もその流れで回って来ただけなので知らされていたわけではない。
もっとも喜ばしいことではないので態々広める必要はなかったとも考えられる。
身内の不幸で海外に行く、なんて自慢すれば不謹慎すぎる。それにキャロルは自国に帰るだけなので自慢も何もない。
だから帰国を知らされていた人物が少なくとも問題はない。
けれど、処理班系登場人物としては色々と考えさせられる。
特に神崎も驚いているところを見ると何とも嫌な予感しかしない。
何処でどのように何が起きるか全く不明だが取りあえず警戒だけは怠らないようにしよう。
竜泉寺に聞かされた時点で嫌な予感がしていたので既に綾香には依頼してある。
すぐに成果があるとは思えないがオセアニアさんも含めて少し相談しておく必要かもしれない。竜泉寺の周りの面倒事となればおそらく規模が阿保らしい。俺1人ではどうにも出来ないだろう。
一応警戒して一日を過ごしたが特に何も起きなかった。
何かがあるならキャロルが帰ってきてからだと思ったが油断するわけにもいかなかった。
だが放課後、意外な人物から動きがあった。
「斎藤、潤、少し話があるが、いいかな」
主人公のお姉さまとなっている神居サンだ。
神居はレオインの中では新参者で転校してきてから日が浅いためあまり面識はない。
会話をしたことがないわけではないが転校と同時期に俺もごたごたに巻き込まれ竜泉寺と距離を置いたので神居との関係性は友人の友人程度でぎこちない。おそらく2人きりで会話したことは無い。
ここで態々俺に関わりを持ちに来る理由は無いはず。面倒なので断ってもいいのだがよそで面倒の臭いがする今の状況では情報が欲しいので合わせることにした。
神居の目的は分からないが少なくとも人前でできるモノではないことくらいは分かるので場所を変えた。店に行くのも面倒だし外は寒い。という事で図書館で会談することになった。
神崎がこそこそとつけてきているのは把握していたがまく必要もなかったので見逃すことにした。
図書室にはストーブが置かれているのでそれなりに暖は取れる。
と言っても隅にまで届くわけではないので適当に人が少なく温かいところに陣取った。
「それで、何用なんです?」
素直に真正面から問いかけると神居の気が張るのが分かった。そしてすぐには答えず俺を観察するようにじっと見据えてくる。
真正面からにらまれて落ち着かなかったが最近会った面倒な人立ちよりは生ぬるいので何とでもなる。
俺が何もしないでいると神居はため息をついた。
「分かっているでしょう。お母様の事よ」
そう言われて、すぐには理解できなかった。
理解できなかったがそれを素直に言えば面倒になるのは目に見えているので平然とした様子で考える。
神居は確かどこかの非合法組織で超常的な力と科学技術を組み合わせて作られた試験管ベイビー。その非合法組織を主人公様が壊滅したおかげでモルモットから人間に変わることが出来た。
そんな神居の母親、か。
単純な遺伝的な親という事ではないだろう。試験管で作られたという事は元となる精子や卵子も人工的なものだろう。
となると自分を生み出した親という意味で母親だろう。
確か実験を取り仕切っていたのは副所長。
非合法的な組織の副所長となると、あれだ。
「ああ、のじゃ子の事か」
「のじゃ、こ?」
「あ、いや、何でもないです」
ついこぼれた言葉に怪訝そうな表情で反応する神居。
この手の人種はモルモット扱いに対して嫌悪は無く寧ろ自分を生み出してくれた人物に敬意や信愛を抱いていることが多い。下手なことを言うと面倒になるので誤魔化しておく。
あなたの母親は現在女子高校生を妻に持つロリなコンのイケメン医師に対して修羅場要因となっています。なんて口が裂けても言えなかった。
もっともそんな昼ドラ的な展開にはなっていないだろうけれど。
神居の目的は理解した。
神居にとって俺は敵対していたとはいえ母親を串刺しにして攫って行った謎の男だ。
敵意や悪意はあっても好意は無いだろう。よくよく考えてみるとこの接触は遅いかもしれない。主人公様がいるとはいえ配慮が足りなかったかもしれない。
一先ず反省は置いておくとして問題は神居の出方だ。
「そのお母様を神居はどうしたいんですか。身柄を渡せとでも?」
「いえ、そこまでは要求しない。ただ、お母様の安否を確認させてほしい。周りがどう思っても私には大切な人だから」
やはりというべきか。非合法非人道的な実験で多くの命を遊んでいたはずの相手なのに敵意や嫌悪がない。寧ろ普通に慕っている。
色々と人間味を見てしまっている俺としてはあののじゃ子にそこまで敬意を示す必要があるかな、素直に思ってしまうが他人の印象など主観によって違うのだろう。
取りあえずのじゃ子に会わせるくらいなら問題はない。見られて困るようなことはあまりないし、のじゃ子には呪術を使っていない。
面倒なのはやはりのじゃ子の科学者としての側面ではなく人間としての側面を見た時神居が普通でいられるかだ。とはいえ親子の感動の再開を演出するつもりは無いのでどうでもいいと言えばどうでもいい。
ただ折角のご対面時にリアル子どもを暴露されそれが人妻女子高生からの略奪愛とかだとちょっとエグい。関係のない俺からすればかなり熱い展開なのだが。
そんなふざけた思考は置いておくとして神居をどう考えるか。
神居は単なる被害者。研究所の一員ではあったけれどどこかの組織に所属していたわけではない。
レオインの中ではしがらみも少なく自由の利く立場にある。
それは俺にとって一番好ましい相手でもある。
下手に組織に触れていると色々面倒に巻き込まれる可能性がある。
だが神居の場合俺が面倒に巻き込むだけでこちら側に何か無い。神居個人の話に巻き込まれることも考えられるが、モルモット上がりの神居ではたかが知れている。
こちらの協力者あるいはスパイと出来れば最良だが伝手だけでも構わない。
問題は脳筋や戦力外の様に内面がポンコツでないことなのだが、そのことは後から確認すればいいだろう。
「分かりました。では会わせるとしましょう。今日この後から予定はありますか?」
「この後すぐに?」
「ええ。まあ問題があれば後日でも構いませんが」
「いえ、構わないわ。連れて行って」
神居をこちらの本陣に近づけるのはかなりのリスクだがことが起きる以上安全ばかり選んではいられない。場所も既に見抜かれているので隠す必要性も今更ない。態々場所を整えるのも阿保らしい。
それにキャロルのこともある。
今は出来るだけ多く情報を集めたい。綾香たちと相談することもある。そこに連れて行けばあわよくば神居を巻き込めるかもしれない。のじゃ子が粗相をしなければ、だが。
一先ず神居を連れて北陸へと向かうことにした。




