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2-2


 結局ボルトダッシュする必要はなかったのだが学校に着く前から面倒事に引っかかった。



「そ、そのネコ。私に抱かしてもらっていいだろうか」



どうしてこうなる。いや、順当か。



 ダメ生物さんを頭に装備して登校していると珍しく九重に出くわした。

 主人公とヒロインの気配はなかったはずなのだがと思ったが九重の姿で納得した。


 顔の半分以上を包帯で隠され見えているのは左目と口元くらいという酷い有様。加えて左腕はギプスで固定され歩行まで厳しいのか松葉杖を携えている。

 見るからに虚弱な九重から発せられる気配は平時の100分の1以下に感じる。今の俺では対面してようやく気付ける程度しかない。


 そんな何処かのチルドレンのようなあり様の九重は男装で男勝りなのだがある種の御約束として少女趣味である。

 その為見てくれだけは可愛らしいダメ生物さんがどストライクのようだ。



「しかし悠希ちゃん、その格好でどうやって抱くのさ」

「いや、大丈夫だ。右手なら動かせる」



 そう言って九重はぐっと右手をグッとアピールするのだがその動作で別のところを刺激したのか腹を抱えて呻く。

 何やってんだろこの子。流石は脳筋か。



「悠希ちゃん大丈夫か? そんなに具合が悪いなら学校くらい休めばいいのに」

「いいや、大丈夫だ。こ、これくらいなんともないさ。それにこれくらいできなければ」



 大丈夫とは言うものの自分の声が響いているのか声を出すだけでも苦痛な様子。顔色も良くないのでどう考えても大丈夫ではない。普通に重体患者だ。


 ヒロインとは言え女の子なのだからもう少し身体を大事にすればいいのに、とは思うのだがそこはやはりヒロインなのだろう。面倒なことだ。



『じゅんじゅん、どうしてこやつはじゅんじゅんと同じ格好をしているのだ? 確か日本では男女で服装が違い女性はセーラーというひらひらの卑猥で萌え豚御用達の服装を強いられていると記憶していたはずだけど』



 それ明らかに偏った見方だし。

 あと萌え豚とか言うな。いろいろ大変だから。詳しく知らんけど。



「この人は女の子なのに男ものの服装が好きっていう性癖なんですよ。だから下着もトランクスとかボクサーとか男用を穿く変態さんなんです。ボクっ娘とか俺っ娘とかああいう一種だと思ってくれれば幸いです」

『なるほどなー。日本の文化ってすごいねー。流石だねー』



 いや、それを日本文化と思われると非常に困るのだけれど。



「だ、だれ……が……」



 ダメ生物さんと会話していると漸く復活したのかブツブツとつぶやく。



「だれがへんたいかぁぁぁあぁああああ」

「ふぉごぉ」



 うずくまった状態からのまさかのアッパーカットである。

 勿論そんなものを受けると思っているはずもない俺はガードも避けることも流すこともなく真正面から受け止めそして吹き飛ばされる。我ながら漏れる雑魚っぽい悲鳴に苦笑いである。


 それにしてもこれだけ力があれば確かに大丈夫だろうな。

 そんなことを、軽く宙を舞いながら、思っているとカッカッカッとうざったい笑い声が頭に響く。



『言ってなかったけどボクの声は君にしか聞こえないからね。他の人間には精々にゃーとしか聞こえないだろうよ。その猫の鳴き声はキミには聞こえないけど』



 やはりか。やはりそういう仕様か。

 俺も迂闊だった。あまりにも普通に聞こえるものだから普通に返答を、それも普段のチヤに接する様な口ぶりで返してしまった。よくある話なのに。



「わ、わたしは別に変態なぞではないのだ。た、ただあんなフリフリして色々な肌を晒す様なぽわぽわした服装なぞ、わ、わったしには着れないだけでそんな性癖など。そ、それに下着はトランクスではなく普通のボクサーだし時にはちゃんとした可愛らしいものを………」



 不運にも、というか俺の所為だが、変態認定された九重はぶつくさいい訳を呟いている。

 その格好は先程までの痛々しく弱った少女ではない。別の意味では痛々しいけど。


 尋常ではない、どこかのジムの会長でもいればスカウトされそうなあアッパーカットをくらったわけだが俺も普通の人間ではないので早々に立ち直る。



「悪かったって。それにしてもその状態でそんなことをして大丈夫か?」

「ひゃうぅう」



 ぶつぶつと呟いている九重の意識を引き戻そうとの肩を軽く触れると可愛らしい悲鳴を上げ身悶える。

 あ、ごめん九重。勿論わざとです。



『やーいやーい、じゅんじゅん女の子虐めてるーいっけないんだー』



 何こいつマジうざい。完全に楽しんでござってかなりうざい。

 というかこいつこんなキャラだっけ。さては人の苦労を楽しむタイプの輩だな。実に面倒だ。


 しかしそんなのはどーでもいい。仕返しくらいいつでもできる。覚えておれ。


 取りあえず今は九重さんをどうにかしなければならない。何度も言うが高校生の朝というものは時間がないのもでこれ以上グダると普通に遅刻する。

 ま、遅刻したところで、というところだけれど。


 今の状況からすると九重さんの容体というか状態というかそっちの方が色々と危うい。勝手に騒いで勝手に致命傷を生み出しかねない。

 この状況で九重を放っておける訳もなく、いやまあ放っておいてもいいんだけど。俺のヒロインじゃないし。歩けるにしてもこんな状態で歩けば遅刻するのは目に見えている。


 ならば取れる行動は少ない訳で折角なので無難で王道でこちらにも益のある行動を取る。主人公様もいないので偶には調子に乗ってもいいだろう。



「悪いな悠希ちゃん。少し我慢してくれ」

「な、なにを? ちょ、お、おまえ、何をする」

「何をって御姫様抱っこだよ悠希ちゃん。それにしてもごめんね、相手がレオちゃんじゃなくてさ」

「な、ばっ、か。なんでそこで竜泉寺が出るんだ。別にあいつは」



 言葉で抵抗するものの顔は桜色に変わり、その後ばつの悪そうな表情に変わる。しかしそれは決して俺が御姫様抱っこをしているからではなく竜泉寺を思ってからだろう。

 流石主人公様。実に忌々しい。


 まあレオちゃんのヒロイン、略してレオインだし仕方がない。

 男としては自尊心を削られるのだがそんなのは気にしない。

 野郎に抱っこされているというのにネコに御執心とか気にしない。

  

 そんな感じでいつもの道を歩き、いつものように学校に登校した。




 結果から言えば相当恥ずかしかった。

 普通の高校に女の子を御姫様抱っこで登校すれば普通の結末である。


 周りから色々な視線を集め注目され囁かれる。抱えているのが大怪我していたのである程度はマシだが二度としないと誓った。クラスメイトからの冷やかしも多いに面倒だった。

 やはり調子に乗るものではない。


 本来であればもっと騒ぎになりそうなものだが一過性のもので終わった。そこはやはり主人公の居る学校ということなのだろう。

 所詮俺が友人Aで噂になっても「誰それ?」で片付けられたとか思いたくない。別に噂になりたいわけじゃないので良いけど。



 九重を教室に届けると竜泉寺はやはり欠席だった。

 加えて早乙女もキャロルも神居もやってこなかった。

 御幸は安定の留守番だった。

 御幸は定番通り一般人なのだ。


 因みに理由は全員不明で無断欠席。もっともいつもの事として誰も教師さえも気にも止めなかった。強いて言えば取り残された御幸が心配していたくらいだろうか。


 あとはふくれっ面で恥ずかしがっていた九重にそのことを聞くと何処か陰りのある笑みで誤魔化すということがあったくらいだろうか。



 そんな訳で本日も平常運転である。




 因みにダメ生物さんは懐かれたと適当に言ったら案外受け入れてもらえた。

 そしてネコスキーどもに良いように可愛がられていた。

「人間なぞ愛嬌をふりまけばいちころにゃ」とはチヤさんの言葉だ。



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