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テイラー氏の買い物にも適当に付き合い俺は一先ずレベルを80くらいにした。
本当なら今すぐにでも全てを揃えたいのだが一度に買うのも面倒なので一先ず諦めた。
それに正直何を持っていたのか全て把握していないし、前は普通の高校生だったので気になってはいたけれど買えなかったものもある。
それぞれの新刊が出来たらと気になった時にその都度集めることにした。
自由に気ままにレベルがあげられるとなるとは、夢が広がるな。
一先ず買い物が落ち着くと日も沈み始めたので早い時間だがテイラー氏と夕食を取ることにした。
場所は回転寿司店。
綺麗な顔の人との食事なのだからもう少し考えるべきところなのだろうがテイラー氏の希望なので仕方がない。
もっとも希望がなければ面倒なのでファミレスに入っていただろうけど。
生憎俺にはそういう見栄は無い。
当然支払いもテイラー氏持ち。
一応そこそこ年齢が離れているので子どもが背伸びするのも逆にダサい。
というよりノリでハマーを買える人にとって今の回転寿司の値段など小銭もいいところだろう。
店内に入ると半分以上日本人の血を引く似非外国人が回転寿司にテンションが上がりかなりうっとおしかった。
早い時間ということもあり食欲も空腹感もそれ程なかったので数皿で満足してしまった。
一方テイラー氏は高いテンションのまま食べ続け30皿近く食べていた。
可愛らしい顔つき華奢な体型には似合わない大食漢だった。
数皿で終えた俺としてはかなり暇だったので後半嫌がらせを兼ねて雑学をテイラー氏教えた。
例えば鮭は白身魚で本来身は白く養殖のモノは身を紅くするためのものを混ぜているとか。
例えばタラバガニは正確にはカニではないとか。
例えばエビの尻尾はゴキブリの羽と同じ成分だとか。
例えばそもそもカニやエビは節足動物なので昆虫や蜘蛛、百足と同系統の生き物だとか。
例えば節足動物の中カニやエビ以外は殆ど虫とよばれるとか。
当然テイラー氏の食欲は減退することになったが、何よりだ。
そんなくだらないやり取りがあり食後。
気分が沈んだテイラー氏が復活してしばらくしてテイラー氏がもじもじと切り出した。
「斎藤は、良かったの? その、れ、竜泉寺くんを待っていなくてさ」
麗人の様な顔つきで乙女の様にもじもじされると何だか面倒だ。
そういう乙女らしさを自分に向けられたら男として喜ばしいところなのだが残念ながら向けられているのは俺ではない。
それにこの手の人間はかなり面倒だと経験則で知っている。
彼ら彼女らは周囲がどうであってもポジティブに受取り何か自分に不都合があればすぐに周りにその責任を押し付ける。
俺は協力しない。本人にはその気がないからやめた方が良い。何があっても自分の責任賭して行動しろ。
そうやって事前に念押ししたのにいざ実際に失敗すると俺にの所為だと攻め立ててくる。
俺が他の子を贔屓にしているから自分は上手くいかなかった。
俺がもっとうまく言わなかったから失敗した。
全てお前の所為だ。
そんな意味不明で理不尽に晒されたのは数え切れないほどある。
ホント安全なのは主人公様の見える範囲だけでその周りなど見るに堪えない現実ばかりだ。
そんな若干のトラウマがぶり返したので面倒であることを強調するようにため息を吐いてから答える。
「別に大丈夫ですよ。自分はあれと予定もありませんから。それに何人かは残っているので自分はいらないでしょう」
「そ、そう」
「気になるなら他人を使うのではなく自分で行動すればいいじゃないですか。悪いですが自分はそういうの手伝いませんからね」
「そ、そんな」
少し顔が赤らみ困惑を浮かべた綺麗な顔で迫られるが面倒でしかない。
綺麗な顔に迫られただけでいちいち気にしないし慌てない。
勿論その圧に負けて安請け合いなどしない。
何故テイラー氏が竜泉寺についてこだわるかと言えば昨日助けられたとのこと。
これから住むことになる街を知ろうと探索していたところ複合商業施設で男たちに絡まれてしまったらしい。
物質変換を失った今テイラー氏は女顔の華奢な男性でしかないので複数の男に囲まれてしまえば抵抗できない。
女と間違われているなら男であると告白して何とか逃げようとしたが、それはそれで別方向の趣味を刺激してしまい逃がしてもらえず困っていた。
そこに竜泉寺がやって来たという。
当然、始業式前であるためテイラー氏と竜泉寺に面識はない。それでも竜泉寺は困っているからというだけで救い出して見せた。
そして助けられた後テイラー氏が男の娘であると伝えても取り乱すことなく寧ろ
「可愛らしくてその顔好きだけどな。それに困っている人を助けるのにそんなことは関係ないだろ?」
などと微笑まれてしまったという。
流石主人公。
擬きくんとは格が違う。
そんな訳でテイラー氏は現在竜泉寺にぞっこんなのだ。
「そ、それに、私はべつにれ、竜泉寺くんに浮ついた気持ちなど。ただ助けてもらった手前私の命は彼のものでもあるわけだし、彼は私の生徒でもあるわけだし」
そうもじもじして見せる姿は乙女でしかない。
物質変換を奪った時は俺の事を神の様に崇めていたというのにちょろいというか何というか、感情の軽い人なのだろう。
擬きくんにもあっさりなびいていたし。
別に崇め奉られたいわけでもないのでどうでもいいけれど。
但し竜泉寺の妾にするのは断固としてしない。
何故なら正妻方がこの上なく面倒だから。
正妻を助ければ周囲からチクチク理不尽に晒され、周囲を助ければ正妻から真正面から理不尽に晒される。
ホントこの位置どうにかならないのかな。
憂鬱が思考を鈍らせてしまったのか、どうでもいいついでに気になったことがありつい考えもなしに聞いてしまった。
「そう言えばテイラー氏の場合竜泉寺に対してはどういうスタンスなんですか? 普通に自分が乙女としてという事なんですか」
「確かにああいう青臭い感じの子に御姫様扱いしてもらえるというのも悪くないけれど、私としては健気に頑張る子を上から押さえつけて泣かせるのも悪くないと……何でもないよ?」
……うん、この辺は男子高校生にとっては未知の領域だ。
レベル80程度ではどうやら理解できないらしい。
理解できてないよ?
「それでオセアニアさんの方針は定まったんですか?」
一応テイラー氏はオセアニアさん家の交渉人なので気分転換ついでに尋ねる。
何も聞かなかったかの様に。
高野山では下っ端しかいなかったので正式な協定は取り付けられていない。
あの場にいたキッドマンは何とかすると言っていたが上層部がどうなるかは分からない。
重要ではないが今後にも関わることなので確認しておこう。
乙女になっていたテイラー氏だが真面目な話題になったことを理解して切り替える。
「え、あ、と、はい。私たちはあなた方に協力させて頂くことになりました。ですがあくまで協力であって傘下に入るわけではない、という事でお願いしたいとのことです」
「体裁としては妥当でしょうね。国家的な組織が1人に負けたとなればいろいろ大変でしょうから。ま、表向きはどうでもいいので構わないですよ。細かいのは綾香の方に回してあるんですよね」
「はい。既に綾香様からは了承を内々にもらっています。後は斎藤の了承を得るだけだと」
「ならそれで構わないですよ。具体的な内容は後で確認しておきます」
事務的なモノは全て綾香に任せている。
俺自身の要望はそちらに預けているので交渉面で俺の言うことは無い。
精々出来上がったものに目を通すくらいだろう。
俺は義務や義理で生きているわけではないので気に食わないことがあればどうせ無視して無理を通すだろうし。
勿論、綾香が上手くやらないあるいは俺に反旗を翻すということもあるだろうがそれこそ無理を通すので考えても仕方がない。
オセアニアさんも表向きに出来ない何かを持っているだろうしそれはお互い様なので気にしない。
表向き、その場しのぎ、そういったことがあろうと現状で問題なければそれでいい。
それにしても綾香は様付で俺は呼び捨てなのはどうなのだろうかとか思ったりしないでもないがまあ許そう。
別に敬意や名誉で生きているわけでもないし。
その後は適当に買い物を続けて平穏な一日が終わった。




