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10-6


 初めての本気を出してしばし。

 8つの蓑虫が出来上がった。というか作ってしまった。


 だが、後悔も反省もするつもりは無い。

 俺は悪くない。



 幸か不幸か連中は阿呆すぎて処理することはさほど難しくなかった。


 まず9人もいるのに誰も共闘しなかった。

 自称同一遺伝子の兄妹こそコンビネーションを取っていたが他は必ず一対一。相対している間に生まれる隙をついてくるようなこともなかった。

 一応ゲーム的な回復役がいたので待機中に傷を癒してもらうことはあったがそれだけ。戦闘中には回復もなかった。


 次に戦闘がいちいち仰々しい。

 対すると態々名乗りあげるし、その内容は酷い中二病。それも宣う輩が30代を超えているような奴ばかりだから尚酷い。

 そして順番があるのか戦闘が一定時間過ぎると別の人物に変わり再度名乗りあげてくる。

 2度目の登場でも同じ口上を述べる。

 そこまでするなら複数考えておけよ。


 極めつけは態々自分の能力を説明してくれる。

 自分の力はどうだとかこの武器はどうだとかべらべらしゃべってくれる。

 嘘でも混じっているのかと一応疑うのだが何一つ嘘偽りがない。あまりにも素直な子たちに疑った俺が可笑しいのかなと思うほどだ。



 彼ら彼女らの能力は本来かなり面倒なものだ。上手く連携し俺を倒すことに集中されればどうなっていたか分からない。少なくとも余裕はなかっただろう。ちょっと絶望していたかもしれない。


 しかし相手が態々一対一の状況を作り出しそれぞれ能力の作用や原理を聞かされれば対処は難しくない。それなりの魔力を消費したが無傷で事を終えてしまった。



 相手の口上など無視。順番など無視。不意打ちだまし討ちも当然使った。


 綺麗ごとでは世界は変えられないのだ。


 というか登場人物が阿呆すぎてちょっぴりイラッとして暴走してしまった感がある。

 何度も刀でザクザクして呪術を厳重にかけ物質変換で生み出した極太蜘蛛の糸で拘束までしてしまった。これはかなりの無駄だ。恐らく蓑虫8人は2日は動けないだろう。

 おかげで俺の魔力もカツカツだ。

 でも後悔はしていない。



 何故9つではなく8つなのかと言えば常識人が1人混じっていたからだ。

 苦労性の回復役、山田さん。見た目年齢30代後半でくたびれたサラリーマンの様な方だ。

 戦闘を見守る立場になっていた中二病どもに良いようにこき使われていた。戦闘能力は一般人に毛が生えた程度なので下に見られていたのだろう。


 一応呪術をかけたが無抵抗宣言を頂けたので蓑虫化まではしなかった。蓑虫の処理もお願いしたかったし、堕天使のバハムートとか名乗る奴らとかと一緒にしては可哀想という判断だ。




 阿呆どもを処理してちょっとした満足感とやり過ぎた事に対する自己嫌悪で気が沈む。

 蓑虫化は後悔していないが必要以上に消耗してしまった。ここがピークではないというのに。


 やってしまった感の中どうしようかと悩んでいるとそれがやってくる。



 身の危険を感じると同時に時間が伸びる。しかし、その伸びた時間でも出来たのは飛んできたものが人の脚、誰かの蹴りなのだと理解するだけだった。


 ろくに思考も出来ず威力を受け流せずに吹き飛ばされる。体力もすり減っているので上手く受け身も取れず木々の中に叩き込まれる。

 アニメのように何度も地面を跳ね転がり木々をなぎ倒しながら太い幹にぶつかってようやく止まる。

 体中に切り傷擦り傷が刻まれ蹴りを受けた右腕は拉げている。体の中にもダメージが入ったようで吐血する。呼吸も上手く出来ない。



 阿呆9人との戦闘で受けた以上のダメージを一撃で叩き込まれた。

 それも気持ちが萎えてしまうほど大きなダメージ。それ以前に生命的にも危険な状況に近い。

 それでも意識ははっきりあり焦燥感に駆られなかったのは幸いというべきか不運というべきか。


 だがそんなことを考えている暇はなくそれはやってくる。


 まともに動けない状況にあるにもかかわらず左胸を踏みつけられる。それも土足で。ぐりぐりと。

 ちょっと人としてどうかと思うのだが踏みつける人物は優雅に佇んでいる。



「さて斎藤くん、改めて御話をしようか」



 この状況下で攻撃を仕掛けてくるなどザマス眼鏡くらいしかいない。


 やはり醸し出す雰囲気通り面倒な御仁らしい。事務官など言っていたが威力は阿呆さんたちと大差ない。寧ろ阿呆でないので余計に厄介だ。


 取りあえず土足で踏まれていることは無視しよう。そんなとこでムキになるほど阿呆ではない。

 寧ろ肺を圧迫され強制的に息を吐きだされたことで体内が良い具合に回りだす。呼吸もそれなりにできるようになる。

 おそらく意識的にふまれているのだろう。


 勿論そんなことでは感謝しない。

 それまでと同じように、何事もなかったように色々と諦めた状態で答える。



「こういう状態でするものを御話とはいえないんじゃないですか? 少なくとも自分はそんな風に教えられていませんよ」

「流石だね。この状況下でもそうやっていられるのは」

「不幸にも経験豊富ですからね。これくらいじゃ絶望なんてしていられないですよ」



 こんな結末は分かり切っていた。

 消耗した相手に畳み掛けるなんてのは作戦とも言えない普通の事。俺が阿呆どもに御熱になった時点で予測された結末だ。


 最悪阿呆と遊んでいる隙をついって一瞬で終わらせられることも考えたのだが、ザマス眼鏡にも何かしら思惑があるのだろう。そしてこれだけ圧倒的な力の差を見せられても尚会話などと言っているあたり何かあるのも分かり切っている。


 何もないのに生かされる。

 そんなに世界は優しくない。


 俺にあるのはどうせ茶番だ。

 それも大勢側の。



「それでこの状況からあなたは自分に何を求めるんです。自分には何かが出来る程の力はないと思いますが」

「そうとも限らないのではないかな。少なくともさっき斎藤くんが倒したのは力がない人にどうにかされるような人たちではないよ。彼らのランクはAAからAAA+。世界的に見てもかなり上位に位置する。それを複数人相手にしてほぼ無傷でいられる。そんな人物を野放しにできるわけないだろう? あれはちょっとおつむが弱いけど」



 小さくため息をつくザマス眼鏡に初めて感情らしきものを感じる。どうやら阿呆が阿呆であるのはザマス眼鏡としても困っていることらしい。

 やはり阿呆たちのように口上を述べて順番を守るのは普通ではないらしい。

 当然と言えば当然だが。



「あなたなら自分以上の事をやってのけると思いますが」

「それは否定しないけれどボクには首輪がついているからね」



 あっさりと言ってのけるザマス眼鏡。

 阿呆どもを圧倒できるならばそれなりの力があるだろう。-壁-は超えられていないだろうが-こえられない壁-は超えているのかもしれない。

 となると主人公様や正妻様程ではないだろうがこの人もそれなりに面倒に関わっている人なのだろう。面倒だ。


 もっとも御話的に考えるとこういうところに出てくるのは組織のトップなのだがそこは流石友人Aというべきか。主人公様ならトップや重要な役者が登場するのだろう。それも妙齢の美人や絶世の美少女の1人や2人用意されているはずだ。

 それなのに俺にはちょっぴり面のいい男と阿呆な大人。

 これが世界か。

 そんなことはいいとして。



「つまり自分にも首輪をしろと?」

「そんなことは言っていないよ。ボクがお願いしているのは最初から何も変わっていない。ただボクらに協力してほしい。それだけだよ」



 実にうさん臭い笑顔を作るザマス眼鏡。そこにはもう取り繕ったようなものは無い。

 こんな状況で下手に出ないだろう。今現在俺の命はザマス眼鏡に握られているのだから。


 ザマス眼鏡の能力は不明だがさっきの蹴り一発だけではないだろう。ハッタリの為に初手から最大火力ということもないのだがそこまで楽観しない。同等の攻撃はいくつかあるはず。

 この状況下でさっきと同等のモノをくらえば流石にヤバい。

 ろくに魔力も体力もない状況で肉体的にも深刻なダメージを加えられ今も尚マウントを取られていてはまともな抵抗も出来ない。



 そう理解するが俺の答えなど決まっている。



「残念ですがお断りさせていただきます」



 こんなところであっさり受け入れられる程度なら初めから抵抗していない。



「そうかい。なら仕方がない。消えてもらおうか」



 ザマス眼鏡もその答えを知っていたように間髪入れず行動に移す。



 またしても勝手に伸びた時間で状況を観察させられる。


 左胸を抑えていた脚が振り上げられる。上げると同時にそこに禍々しい何かが集まる。そこに集まった何かが発する圧は俺が体験した何よりも重々しく本能的な恐怖を駆り立てられる。

 振り上げられた脚は押さえつけていたものが逃げられないように素早く振り下ろされる。

 迫りくる本能的恐怖。


 ここに都合のいい展開は入ってこない。


 誰かが登場して止めてくれる。

 魔力が枯渇して攻撃が放てなくなる。

 どこかから連絡が入り攻撃が中止になる。


 そんなことは一切なく、慈悲も御都合もなく攻撃が放たれる。

 御約束や御都合主義なんて友人Aにはやってくるはずがない。

 こんな展開分かり切っている。



 だから、壮絶な衝撃と共に、俺は意識を手放した。



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