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友人Aの反逆日記  作者: みくじ


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9-13


 テイラー氏からの暗黙の了解を受けて擬きくんを簀巻きにすることにした。

 おまけにアイマスク、猿ぐつわ、ヘッドホンのフルコースだ。

 因みにヘッドホンからは般若心経の読経が流れている。そのチョイスにあまり意味はない。


 取りあえず置物と化した擬きくんは放置しておく。

 奇声をあげもごもごしているが興味ないので無視だ。


 擬きくんにまた邪魔をされても困るので過剰といえるほど刀でザクザクしているとテイラー氏が聞いてきた。



「やはり私はおかしいよね。こんな顔で男なんて」



 出鼻を擬きくんに邪魔されたのでどうやって声を掛けようかと考えていたところに相手方から声を掛けてくれるのは実に好都合。なのだが、その声色はかなり面倒だ。


 どうすべきかと周囲を見渡すが使えない奴らばかりなので諦める。

 よし子さんは簀巻きの擬きくんに悪戯をして遊んでいるし綾香はしっかり答えてやりなさいとばりにふんぞり返っている。

 どうでもいいが綾香的には男の娘であるテイラー氏も女性扱いなのだろうか。

 本当にどうでもいいが。



 面倒な言葉は流すのに限るのだが恐らくこれは流せない。

 駒になったあとならともかく現状こちらがお願いしている立場だ。悪印象を持たれるのはよろしくない。


 ならば諦めて真面目に答えるとしよう。



「別にどうでもいいんじゃないですか? 少なくとも綺麗な顔というのは良いことだと思いますけど。それに今更男の娘なんて珍しくもないですし。というより使い倒されて若干飽きてきたようなキャラ設定ですし」

「はえ?」



 正直男の娘というキャラには限界が来ていると思う。

 綺麗な顔して男とか、男のフリしている女とか、男の娘と思わせて結局女とか、世界線によっては男と女で揺れているとか。

 いろいろ出尽くされてもう驚きはない。

 女性のような顔で男性。男の娘。

 それで? というのが正直な感想だ。



「一応言っておきますが潤、男の娘は世間一般ではそれ程受け入れられていないんだよ」

「そうなんですか? 昨今ではテレビに当然のようにお姉キャラの人が出てますし。世間的にもLGBT、性的マイノリティにはよく知られていると思いますが」

「それは潤の知識が無駄にあるだけじゃないかな。多分だけど潤の反応よりそこの簀巻き野郎の反応の方が一般的だと思うよ。残念ながら」



 綾香に指摘されて世間とはそんなものなのかと思ってしまう。

 テイラー氏の顔を伺うと綾香の言葉が事実だと物語っている。擬きくんの様な反応を何度も受けてきたのだろう。


 個人的には別に見た目と性別が違うくらいどうというのだろうか。人間の体のつくり上性差はそれ程優先的なものではないと聞くし。

 それに不格好なものより綺麗な方がましだと思うのだけれど。



「斎藤は私が可笑しな存在と思わないの」

「テイラー氏は何かおかしいんですか?」

「私はこんな顔なのに性別は男だし」

「それがどうかしましたか」

「それが、って。だって、それに、私は、その、性別は男性なのに、男の人も、好きだし」

「男も、という事は一応女性も好きなんですか?」

「……うん」



 バイセクシャルな男の娘か。これは何とも。

 ちょっとした興味だがこういう場合の男の娘は男に対しては攻めなのか受けなのか気になる。だがそれを聞くのはちょっとした恐怖なので何も言わない。

 それは良いとして。


 性的マイノリティとご対面するのは初めての経験だが意外にも感情は揺さぶられない。

 勿論始めから知っていたという事もあるのだろうけれどそういった好き嫌いの話を聞いたところで、という話でもある。



「個人の主義主張、好き嫌いや心情は個人の自由なんじゃないですか? 少なくとも自分は自分に害がなければどうでもいいですね」

「私が、女顔の男でそれに加えてバイセクシャルでも気持ち悪がらないの?」

「まあいいんじゃないですか? 綺麗は正義といいますし、テイラー氏並の容姿なら妥協できると思いますが」



 男の娘でバイ。まあいいんじゃないかなと思ってしまう俺は毒されているのだろうか。

 別にテイラー氏にグッときているわけではないけれど。


 単純に人様の好き嫌いなどどうでもいいと言うだけなのだが。


 そんな個人の性癖は置いておくとして真面目な話をしよう。



「そんなことより能力の話をしましょう。それが本来の目的ですし」

「潤、女性の悩みをそんなことで片付けるのはどうかと思うよ?」



 本格的に綾香がテイラー氏を女性扱いしているようだが無視だ。

 そんな面倒な話ばかりして本来すべきことをおろそかになんかできない。

 ここは真面目に話すべきところなのだ。



「私の能力、か。斎藤は私で何をしたいの? 金を作らせるの? 兵器を作りたいの?」

「まさか。自分は自分の守りたいものを守りたいだけですよ」



 急激な話題転換。急激なシリアス。

 綾香に邪魔されても面倒なのでちょっと格好つける。



「そのためにはあなたの力が必要なんですよ」

「斎藤は私の力を知らないのね。私の力では何も守れない。何も出来ない。寧ろ壊すだけ。私の能力は勝手に暴走するだけなんだよ。私の能力、物質変換は何でも変えてみせる。私も始めはこの能力は良いものだと思っていた。けれど5歳の誕生日……」



 それに呼応するようにテイラー氏は口調を変える。そして訥々と語りだした。



 小さい頃は自分の能力は凄いものだと思っていてそれをみんなの為に使っていた。

 けれどある日感情の爆発と同時に能力が暴走して両親や親族を皆金属に変えてしまった。

 それ以来自分の能力は呪われたものなので使っていないし使うつもりは無い。



 テイラー氏の話を3文にまとめるとこんなところだ。



 人が金属に変わるなんてゾッとするが無くはない話だ。

 擬きくんの肥大化で分かるように異能の類は人の感情と密接な関係にある。その感情がうまく制御できない子どもなら暴走も起こりうるのだろう。それで親族が巻き添えになるというのもよくある話だ。


 当人にとってはよくある話で片付けられないだろうけど。



 問題はそんなヘビーな話を聞かされてどうするかだ。

 正直なところその程度の事情なら知っている。可哀想な事に伊勢谷の配る手配書には能力値以外にも記載されている。そこにはプライバシーなんてものは無い。


 下手に装っても見抜かれるだけなので素直に答える。



「その程度の事なら知っています。知っているうえでテイラー氏に会いに来たんですよ。それにさっきので分かったでしょう? 自分はそこそこ出来る人なんですよ」

「私も、昔は出来る気になっていた。それでも暴走は起きたの」

「それはあなたがその程度の人物だからでしょう」

「な!」



 言うつもりは無かったが言わなくていい言葉がこぼれてしまう。本心ではないとは言わないが確実に言わない方が良い言葉だ。

 横で聞いていた綾香も頭を抱えている。


 言ってしまったものは仕方がないのでそれはそれとして処理をする。



「あなたは自分が悲劇のヒロインだと思っているかもしれませんがその程度の事は世界のどこかで起きています。あなただけが特別であなたの力だけが特別というわけじゃないんですよ。あなたより優れてあなたより特別な人はごろごろといます」

「私は別にヒロイン気取りなど」

「まあまあ、どうどう。そこはどうでもいいんですが、一先ず自分に任せてみませんか。それでダメな様ならこれ以上手を出しませんから」

「何を勝手な」



 勝手なのは重々承知。

 ただちょっと、いやかなり面倒になって来たので色々と諦めよう。


 抵抗される前に背後を取り手を首にかざす。そこから魔力を流し込み呪術でテイラー氏を縛り上げる。

テイラー氏は能力の在りようだけは特殊だが本人の素質はそれ程のものは無い。

 というよりは平均的な異能者より劣る。要するに雑魚だ。



 あっさりと呪術で能力を掌握して見せる。掌握した能力でこれ見よがしに何もないところから金を作りだしてみる。


 勿論本来は何もないところからではなく空気中の酸素や炭素を変換しているのだけれど。



 それにしても物質変換とはかなり都合が良いものだ。これなら自由に金を生み出せて働かなくても大丈夫かな、などと思うがそこまで便利なものではないらしい。

 作り出してみた金だが能力を切り暫くするとさらさらと消えていった。

本当に消えたのか酸素や炭素に戻ったのか不明だが少なくとも金ではなくなった。



「この能力ですがそれほど便利でもなさそうですね。なんにでも変換できるようですけど一度変換したら永久的に固定されるというわけじゃないんですね。変換の維持にも魔力が必要なんですね」

「え、ちょ、えっ」

「勿論ある程度の能力を使えば固定も可能のようですが燃費が悪すぎますね。自分でも一日で数キロ程度しか出来なそうです」



 それでもかなりの利益になるのだが金製造だけをするわけにもいかないのであまりいものではない。


 完全に置いてきぼりになっているテイラー氏はどうにか状況を理解しようとする。

手足の感覚を確かめて問題は感じない。恐る恐る能力を使うそぶりを見せるが能力が発動する素振りは無い。信じられない様子のテイラー氏はもう一度能力を使おうとするがやはり出来ない。

そこから何度も何度も繰り返すが出来ない。


 それもそのはず。呪術で完全に掌握している。使用許可は出していない。


 魔力量に差があればこれくらいの事は容易に出来る。



 哀れにも思える行為が何度も繰り返される。

 無駄に繰り返され目に見えて疲れが出たところでようやくテイラー氏は止めた。

 そして何も出来ない手をじっと眺めると何かを耐えるように震えた。


 何をやっているのだろうかと暢気に構えているとテイラー氏は急に顔をあげ俺の手を握って来た。



「ありがとう」



 急激な展開で追いつかないのだがどういうことだろうか。

 いや、もう何でもいいか。結果よければすべてよし。何かしらがありこちらに好意を抱いてくれるなら問題はない。呪術をかけ能力の制御を奪っても文句はなく感謝されるだけなら問題はない。


 感謝を繰り返すテイラー氏を引き剥がし後の事は全て綾香に任せる。

 よくわからないままだがこれにて終了だ。



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