9-11
少年から膨れ上がった気配は止まることなく肥大化を続ける。
何もなかった状態から少年の意思に呼応するかのように一帯のモノよりも大きくなっていく。
気配の大きさは綾香を軽く超えナマズさんも越えていく。
対処に遅れた数瞬のうちに才能の壁を越えて見せる。
これが主人公か。
そんな風にのんびりしてもいられないので処理にかかる。
気配は大きくなっても所詮は一般人。急激な能力の獲得に戸惑っているところに能力を使い人間以上の速度で迫り組み伏せる。
一度の呪術でダメなら多重にかけて動きを阻害する。
通常の打撃も加えて地面に撃ち捨てて呪術で拘束する。
しかし拘束できたのも短い時間で立ち上がってしまう。
「こんなものはボクには効かない。ボクはお前なんかに負けない」
かなり真面目に呪術を使ったつもりなのだがいとも簡単に跳ねのけられてしまったようだ。
呪術は能力のつながりによるパワーゲーム。
それで負けるという事は魔力量は既によし子さんを超えているのかもしれない。
ちょっと厄介だ。
これでもまだまだ膨れ上がっているようなので出し惜しみをせず刀を出して決めにかかる。
「そんなものをだしても無駄だよ。ボクの力は……」
少年が何かを言い何かをするよりも先に処理する。
徐々に馴染んでいるのか動きが良く多少躱されるが関係ない。
急激な力の獲得理由も、新しく得た力の説明も、少年の意思もどうでもいい。
自分の感情や相手の都合、御話の設定など一切を無視して作業効率を優先して行動にあたる。
当然、なにも言葉にしない。自分の能力の説明もしない。少年の言葉にも耳を傾けない。
刀で斬り付け耐久値を減らす。
隙があれば手足で打撃を入れて体力を削る。
心に隙が出来れば呪術で縛り上げる。
下手に遊んでこれ以上面倒を起こすのも馬鹿らしい。
少年も粘ったがものの5分で制圧は終わった。
急激に獲得した力を上手く使いこなせずに終わった感じがあるがそんなことは関係ない。
ふぅ、と息を吐いた後に出来たのはぼろぼろの状態で涙を流しながら横たわる中学生程度の少年だが特に気にしないことにした。
それを見てテイラー氏がかなり冷めた目を向けてきたが気にしないことにした。
今度こそ終わりである。
改めにテイラー氏に同行を願おうとしたとき不意に人影が生まれる。
「なんだ。結局ダメじゃないか。今回も失敗か」
「いや、悪くは無かったはずだ。バカどもが飛ばし過ぎなんだよ。もう少し覚醒を待っていればもう少しまともになっていたはずだ」
「じゃあ何か。バカは所詮バカってことか」
「仕方がないよ。私は期待していなかったし」
突然現れた4つの人影は実に奇妙だった。
それは探知外から突然現れた事もそうなのだが服装が実に奇妙だった。
4人の服装は見るからに忍者だった。
だが何かおかしい。中途半端に地味な衣装と無駄に派手派手しいものが合わさったカオスな忍者。
何というか欧米人が偏見で作った忍者の様な姿だ。
一先ず忍者談議は脇に置くとして忍者の対応を考える。
またしても面倒な展開。それについては嘆いていてもし殻が無いので切り捨てる。
この状況で現れた事。あの口振り。
おそらく俺の味方ではないだろうしテイラー氏の協力者でもない。
少年の肥大化に関係ありそうだが俺には関係ないな。
そう判断すると4人の忍者も問答無用で処理にかかる。
「ここまで使って成果がこれじゃあな」
「それは仕方がない。足りないが全くないわけじゃないからな」
「そおい」
刀を作り替えかなり大きな、5メートルほどの大鎌にして忍者を狩り取る。
一網打尽にして終わりたかったので広範囲に攻撃できる大鎌にしたのだが都合よく重量がないなんてことは無く声が漏れる。
忍者たちが会話をしてこちらに意識が向いていないことも関係ない。真正面からしっかりと物事の処理などしない。
御話的には彼らが何者で何をしに来たのか、何を知っているのかを聞くところだがそんな都合に合わせる意味はない。
聞きたいのであれば処理した後にじっくりと御話をすればいいだけの事。
何度も言うが、下手に遊んでこれ以上面倒を起こすのも馬鹿らしい。
阿呆な忍者どもは攻撃を受けると予測していなかったのか反応に遅れが出る。
気配の隠ぺいはかなりのものだったが純粋な反応は並以下だったらしく見事に打尽にされた。
かなり強めに鎌を振るったので忍者たちではそう簡単に起きられないだろうが慢心は良くないので追い打ちをかける。
手にした鎌を刀に戻して地面に伏した忍者に何度もザクザクとする。
そして呪術も多重にかけておく。
そこまでしてようやく警戒を少し解く。
今度こそ本当に終わりだ。
そう隙を見せてしばらく間を置くが今度は何も出てこなかったので本当に終わりなのだろう。
終わりだよな?
取りあえず出てこないので終わりとして本来の目的に戻る。
何度目か分からないがテイラー氏に向き直るとテイラー氏の表情が抜け落ちていた。
「あなた……なにものなの。あの子の急激な変化も突然現れた変な人も私なんかじゃ何ともならないことばかり。それをあなたはそんなにも簡単に」
テイラー氏の声は震えていた。
表情が抜けていたのは呆れや冷めではなく驚きだったらしい。
何やら驚いているがそんな大したことはしていない。
少年の急激な能力の肥大化も所詮ぽっと出。忍者たちもそれなりの気配を見せているが所詮それなり。
彼らはランクで言えば精々AやAA。大したものではない。
一般人や平凡程度の異能者からすれば怪物に見えるかもしれないが本場の人たちとは違う。
こんな事で驚かれても困るのだが都合は良いのであまり強く否定はしない。
「自己紹介が遅れました。自分の名前は斎藤潤。しがない異能者です」
「しがない、ですか」
「しがない、です。彼らは大したことありませんから。世界にはもっと面倒な人々がいるんですよ」
自分で言っておいて面倒な人々を思い出して少し苦笑いが漏れてしまった。それが功を奏したのかテイラー氏は緊張が少し解けたような感じが出た。
どうやらようやく対話のお時間らしい。
細かい説明は回収班が来て落ち着いた後に綾香にしてもらうとして俺の方針だけ伝えておく。
「さて、今日はテイラー氏にお願いがありここまで来たんですよ」
「私にお願い?」
「ええ。あなたの能力、物質変換をもらえないかと。といっても取ったり着けたりできるモノでもないので自分に協力してもらうということにはなりますが」
能力の話を切り出した瞬間にテイラー氏の身が固まったのが分かる。
自身の能力に何か思うところがあるのだろうか。周囲への協力を断っているところからすると何かしらの出来事があったのかもしれない。
ここ急ぐ場所ではない。出来るだけ険の無い声で語り掛ける。
「これだけのことをして信じられないかもしれませんが、強制ではない少し御話をしましょう。ようやくその為の状況は整いましたから」
綾香やオセアニアさんの気配はすぐまで来ている。
ようやく終わりが見えてきたかな。




