9-5
綾香に高野山との折衝を任せている間にその他勢力に気を配る。
それぞれの本陣は車の中で確認した位置と変わっていない。
どの組織も決定打を持っていないのか、それとも策を弄しているのか、いずれにせよ特別動きを見せていない。
現状はこちらに有利に働いている。
後からやって来た俺たちは何手も遅れている。
出来れば今日中はけん制し合って止まっていてほしい。
しかし、相手さんの状況は分からない。
いつ動き出すか不明だ。
こちらは未だ状況は整えられていない。
こちらが動き出した時までことが終わっていない。ぎりぎり間に合う、なんて都合よくいかないのだ。
ならば時間稼ぎの手を打たなければならないのだが、どうしたものか。
「お兄さん、私は何をしたらいいの?」
思案しているとよし子さんが声を掛けてきた。
そう言えばこの人もいたんだな。
しかし所詮よし子さん。
呪術はピーキーだし使えるとは思えない。
だがその子どもの様な容姿を武器に尋ねられると無下にすることが悪いように思えて来る。
勿論そんなものは思い過ごしなのでどうでもいいのだが。
とはいえ考えがまとまっていないので整理を兼ねて相談してみる。
「では知恵を貸してください。自分たちはまだまだしなければならないことがあるので他の勢力様方には様子見をしていてほしい。とはいえこちらの都合通り動いてくれるはずもない。何かをして止めておきたいんですが」
「んーいっそのこと壊滅させてしまったらダメなの? お兄さん1人だけでもできそうだよ?」
「戦闘が目的ではないからそれは却下です」
邪魔なものをすべて排除する。
力量差のある現状なら不可能ではない。
しかしそれは行動を邪魔をしてくるものを排除するだけなら出来るだけの話。
現在の様に複数の勢力を同時に相手にするのは難しい。
片方の相手をしているうちにもう一方に動かれては対応が出来ない。
多勢に無勢。
最終的に殲滅できてもそれでは意味がない。
となると相手に疑心暗鬼になってもらい二の足を踏むように仕向けるのも1つだが。
「よし子さんの呪術って広範囲に使うのは無理ですよね」
「無理だね。私のは直接接触が必須だから。お兄さんなら工夫次第ではできるんじゃないかしら?」
「いや、自分でも今は無理ですよ。よし子さんの力を借りているだけですから」
「そうかなぁ。なんだかお兄さんの方が私より上手く使っているようだけど」
「それはよし子さんが不器用なだけじゃないですか? 基本よし子さんは使えない子ですし」
「お兄さん酷い!」
呪術が使えないとなるといよいよ面倒だ。
未知の影響を受けて震え上がらせる、なんて定番のモノが出来ない。
単純な武力による威圧では反攻をかう可能性がある。
いっそのこと突貫してテイラー氏だけ確保するか。
勿論そんなことに意味はないか。
たった1人だけをどうにかしても何も変わらない。
誰かが都合よく整えてくれるなんてことは無い。
その為にあれこれ考えているのだから。
ホント主人公様は楽な事をやってるよな。
現実にかなり落ち込んでいると、現実ではよし子さんがぷんすかしていた。
「お兄さん! 私も少しは使えるんだからね! 綾香さんばかり使っているけど私の方が高ランクなんだよ!」
現実にうちひしがれている俺としては子どもの駄々っ子に付き合っていられない。
ランクなんて所詮ランク。
その場その場で使えなければゴミなのだ。
「使えるというなら何かして見せてくださいよ。この状況を打破できるような何かを。勿論武力で圧倒するとか相手を傷つけるとか呪い殺すのは無しですよ」
投げやりに返答をすると駄々っ子のかまってちゃんは言葉に詰まる。
呪術しか使えないよし子さんは所詮よし子さん。
なんだか苛めているようだがどうでもいい。
そんな感傷、今は邪魔でしかない。
さて、真面目に考えようか。
うちひしがれても何も変わらない。
どうにかしたいなら自分でするしかない。
最終目標はテイラー氏の説得。
しかし本人の意思だけでは戦闘や対立は終わらない。
物事を終わらせるには状況の整理が必要。
その状況を整えるには情報が足りない。時間も足りない。
何をするためにも時間稼ぎが急務。
だがその時間稼ぎをするための情報も足りない。
ちょっかいを出して守りに入ってくれればいいが反転して攻めに出られたら意味がない。
相手方の目的や行動理念を知らなければ。
敵の中枢に間者でも送り込めればいいのだが綾香のようなちまちましたな侵入では遅い。
気配の隠ぺいやらが出来るとはいえ俺自身はただの人間。
入り込んでも存在は消せない。出来るのはステルスであって透明化ではない。
ならば人ではないナニカ、幽霊とかなら出来るのだが。
幽霊か。
戦力外通告を受けて悶え苦しんでいるかまってちゃんならいい感じの駒に出来るかもしれない。
寧ろその手の事には好都合かもしれない。
「よし子さん。あなたの力を見込んでお願いがあるんですが」
「今更何よお兄さん。どうせ私は使い物にならないんでしょう」
なんだか面倒な奴だ。
だがまあやりたくないのなら仕方がない。諦めよう。
「やりたくないならいいですよ。こちらで勝手にやりますから」
「あう。お兄さんが意地悪だ」
何が意地悪だ。
こちとら真面目なのだ。
真面目に面倒をさっさと終わらせたいのだ。
「それで、やるんですか、やらないんですか」
「や、やります。やらせてください」
よし子さんの瞳がウルウルしているが気にすることではない。
そんなことはどうでもいい。
行き当たりばったりだが一先ず状況は何とか出来るかもしれない。
ようやく道筋が出来たかもしれない。




