9-1
三が日が過ぎて月曜日。
世間一般では仕事始めだろうが学生にとってはまだ休み。
我が文殊高校でも登校しているのは竜泉寺くらいだろう。
確か中間考査が悲惨だったので補習があったはずだ。それにつき合わされる教員方はご愁傷様だ。
突発的ゲストの伊勢谷は元旦の夜に出て行った。
自主制作映像を見てもらえて満足といった様子だった。
それにつき合わされた俺とナマズさんはかなりグロッキーだった。
何せ各話本当に24時間あった。そしてそれぞれ未放送分として2時間の特典映像があったのだ。
そんなものが年越しの時間で見られるはずがないのだが伊勢谷マジック、というか異能で本物の放送時間内で見終えた。見終えてしまった。
勿論そんなことが何の代償もなく行われるはずはなく色々と酷かった。
ホント、色々と酷かった。
準備が終わり表に出てきた幽霊少女が瞬時に引き篭もるほど酷いありさまだった。
のじゃ子は宣言通り三が日のうちに綾香を治して見せた。
ドヤ顔で褒めろとばかりの態度だったが流した。
相変わらずイケメンインテリはのじゃ子に陶酔しているようで綾香の復活を手放しでほめていた。
奇跡だの神の力だのと。
当然、病室は凍り付いていた。
周囲に気を遣わない夫。
まんざらではない女。
冷ややかに眺める妻。
危うく大笑いするところだった。
そんな平穏なまま三が日が過ぎた。
平穏だ。平穏である。このまま冬休みがあけて普通に登校すれば何とかなるんじゃないかと思うほど平穏だ。
しかし、そんな平穏を長く続けるわけにもいかない。
何もないなら無いでいいのだけれど何かあった時に困る。
どうしようもないことなら諦めるのだが何とかなるなら何とかする。
のちの面倒を何とかするためなら多少の面倒は仕方がない。
要するに面倒のしどころだ。
今回向かったのは日本でも屈指のパワースポット、高野山。
とはいえ現在の高野山に異能者集団としての力はない。
地形的な力はそれなりにあるそうだが宗教系異能は前時代的。
能力自体も遅れていることもさることながら最近の若者は修行とかを好まないのだ。
昨今のトレンドはお手軽簡単なチートなのだ。
では何故そんな場所に向かうのかといえばとある人物に会うためだ。
勿論、その人物も高野山の縁者ではない。
唯の観光人だ。
「それで会いに行くのはどんな人なの? お兄さんの事だからやっぱり女の人なの?」
「自分をどこぞの主人公と一緒にしないでください。別にハーレムを作りたくて動いているわけじゃないんですから」
「そう言ってなんだかんだで女の子を集めるんでしょう? 潤の事だから」
まるで主人公の様な扱い。実に酷い。
俺にはそんな野心などない。というか俺の周りに女の子など。
今回の遠征も3名。
俺と綾香と幽霊少女、改めよし子さんだ。
ほら女の子などいない。
今回のじゃ子は病院でお留守番。
前回使えなかったのだから当然といえば当然だ。
新たな研究室で色々と研究しつつ修羅場ってもらうことにしてある。
そして当然だがナマズさんもステイ。
一番ついてきたがっていたが土地神なので依代からは離れられない。
よし子さんを思えば何とかできそうなものだが黙っておいた。
綾香も黙っていたので俺と同じ気持ちなのだろう。
リアルな鯰は長く見れたものではないと。
3人に加えて人妻さん家の使用人にアッシーとなってもらいドライブ。
のはずだったのだがまさかの人妻さん家の御当主参戦である。
なんでも最近イケメンインテリが冷たいので気分転換がしたいとのこと。
やばい本当に胸が熱くなる展開とは。
本来であれば断るところなのだが、あれこれ終わるまでアッシーに1人で待っていてもらうのもあれなので許可した。
というのは建前でこれを気に本格的に溝が出来ればなんて思っている。
本当にドロドロになったらそれはそれで面倒なのだが面白いので放置することにした。
それに向こうにつけば人妻さんとは別行動するので大丈夫だろう。
アッシーさんも1人で5、6時間の運転はしんどいだろうから間違ってはいない。
こちらのあれこれが終わるまでの暇つぶしも2人なら何とかできるだろう。
そう言う配慮の意味合いもある。
運転の事だけを言えば綾香でも可能なのだが今回の車の都合上控えている。
乗っているのは定員の6名のキャンピングカー。
冷暖房完備。コンロに冷蔵庫、トイレなどなど無駄に高性能な内装である。
何でも老人に仕えていた寄生虫が横領して買っていたらしい。
既に納金も終わっており元旦にお年玉として届いてしまった。
数百万もする最新型なので売ればそれなりの金額は回収できるのだが折角なので使う事にした。
個人的にキャンピングカーにちょっとした憧れがあったことは否定しない。
実際、長旅となる今回はかなり役に立っている。
広く開放的で疲れないし最悪布団を敷いて寝ることもできる。
運転手はかなり苦労するだろうが俺はしないので関係は無い。
そんな優雅な車内で打ち合わせの最中である。
「ちゃんといったじゃないですか。今回の目的は男性ですよ」
「んーまあそれなら大丈夫なのかなぁ。お兄さんはLGBTじゃなさそうだし」
「そうとも限らないよ、よっしー。潤の事だからさ。それにそういったのは意外と需要があるんだよ」
この使用人は俺の何を知っているのだろうか。
俺には面倒を何とかしたい。それだけしかないというのに。
しかし形勢は不利。大人しくして傷口は最小にとどめる。
だが無駄に気の回る使用人は無駄に話を広げる。
「確かに潤の目的は生物学上は男だね。でもオトコノコだよね」
「男の子なら問題ないんじゃ」
「違うよ。男の子じゃなくて男の娘。男の娘と書いてオトコノコと読むんだよ。ほらこの手配書の写真を見て。どう見ても女の子でしょう?」
「え? この人、男なの?」
なんだか人を置いて盛り上がり始めたので気にしないことにした。
形勢は不利。
なにをしても揶揄われるだけなので無視を通す。
盛り上がるババアどもをよそに1人で確認に浸る。
ラクラン・李・テイラー。
17歳。男性。
綾香の言うように写真では女性に見えるが生物学上は男という相手だ。
残念ながら、いや別に残念ではないのだが、男の娘といっても創作の様に見るからに女の子の様な可愛らしい系ではない。
どちらかというと男装の麗人、かっこいい系の女子、ヅカ系女子といった感じの男の娘だ。
普通に男装していれば、可愛らしい男でも通るかもしれない。
それはそれで、ゲフン。
名前から分かるようにハーフである。
というかクォーターである。
父親がオーストラリアと日本のハーフでオーストラリア国籍。
母親が在中の日系3世と日本人のハーフで中国国籍。
生まれたのがアメリカ国内なのでアメリカ国籍の資格も持っている。
かなり混在した血筋をしている御仁だ。
血統だけを見れば国籍の無い日本の血が一番多い。
それが功を奏しているのかアジア系それも日本人に近い顔のつくりをベースに白人系で日本人の好みそうな血が見て取れる。
なじみ深い顔でいてどこか異国感の感じられる高貴な麗人のような顔つき。
ヒロインどもの所為で美醜感覚が狂っているので評価し辛いが美人だと思う。
勿論美醜が目的ではないが。
そのテイラー氏の総合評価はAA。
一応無所属らしいがその特殊能力によって各方面から勧誘を受けている、のだがどの組織からも断っているらしい。
引く手あまたな能力とは物質変換。
質量が同じなら何にでもできるという。
勿論、金やレアメタルにも。爆薬も同様に。
とはいえ出来ることはそれだけ。
肉体能力は一般人並み。能力を戦闘に応用できるほどの器用さは無い。
以上の事から異能社会の上層部からはそれ程重要視されていないらしい。
というのが伊勢谷情報。
勿論どこまで事実なのか怪しい。
無所属とはいえどこかに肩入れしている可能性もある。能力も変換がどこまで万能か分からない。
しかしその能力は色々と都合がいい。
出来るなら駒にしたい。
そういった理由での出兵である。
断じてハレム目的ではない。というか相手は男だし。
「なるほど。確かにこの子たちなんかはお兄さんが好きそうだ。それなのに男なんだよね」
「そうだよ。だが、男だ、だよ。あとそっちは性別秀吉だね」
「日本のサブカルってすごいよね」
山頂まではまだまだ時間がある。
折角のキャンピングカーだ。阿呆の相手をするのも面倒なので寝て英気を養うとしよう。




