7-12
綾香に希望と最低条件を伝え終えるとこちらに遠慮していた医者風の片割れが口を開いた。
「そう言えばユキ、兄さんはどうしたんだ?」
恐らくユキとはヒロイン少女の事。
俺には関係のないことなので口を出さず聞き流す。
「コウタさんは少し休んでもらっています。少し、その、邪魔だったから」
「あの兄さんだからまた変なことをしていないか心配でね。今回もこんな綺麗な人の四肢をもぐなんて」
顔立ちの整った高身長で恰幅のいい男。
なるほどこのイケメンインテリは野獣くんの弟らしい。
その顔立ちは何処か野獣くんに似ているように見える。
あれは見るからの体育莫迦であったがこちらは知的な印象が強い。
事実医者をしているのだから賢いのだろう。
これもまた関係のないことなので聞き流す。
「それにしてもこの少女の腕は驚嘆に価する。どうすればこんな年で」
「それならこれから聞けばいいですよ。彼女たちは私たちの味方ですから。それにもう封印に縛られることは無いのですから」
イケメンインテリは何やら勘違いしているようだが態々否定することでもないので流す。
ヒロイン少女もちょっと認識がずれているようだが好都合ではあるので流す。
勿論、ドヤっているのじゃ子も流す。
「そうだな。でも、それならユキは良いのか。今のままで」
なんだか話の流れが変わった気がする。
だが、取りあえず流す。
「良いんです。ケントさん。いえ、始めこそは気乗りしませんでしたが今となっては納得しています。今ではちゃんとケントさんが好きです。じゃないとあんなこと許しませんよ」
おっと。おっと?
うん、どういうことだろうか。
いや何となく分かるけど、分かるけど分かりたくない。
そんな動揺が現れたのかつい視線を2人の方に向けてしまう。
そして都合悪く少女と目が合う。
少女は恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうに白状する。
「紹介が遅れました。この人がこの病院の事実上の経営責任者、渡貫健人さん。事実上というのは今はお義父さんが経営していますがその殆どを共同でやっていて数年後には引き継ぐことが決まっているからです。それで、その、私の夫です」
恥ずかしそうな素振りを見せるその手には指輪が光っている。
勿論左手にだ。
いや、分かっていたさ。分かっていた。
現実はそんなに甘くないと。
分かっていたさ。
現実にうちひしがれているとそれをどう勘違いしたのか人妻は勝手に話だした。
「ホントは私も乗り気じゃなかったんです。街で声をかけられたときはまだ中学に入学したて、12歳でしたから。それでいきなり結婚だなんて。それも知らない間に勝手に話が進んで断れない状況になってました。長老が私の結婚を代償に力を貸せと迫っていたようで。でも私は」
まさかのイケメンインテリはロリータコンプレックスだったらしい。
お巡りさん、こいつです!
しかし、それも無理のない話かもしれない。
ヒロイン少女、渡貫ユキは美少女だ。
それも絶世のとか妖精のようなとか大層な形容詞がつくほどの美少女だ。
それも都心部などの人混みが多い場所ではなく地方都市ともなれば異様に目立つだろう。
そしてそんな少女にほれ込む人物がいても可笑しくない。
熱狂的な信者や変質者がいても可笑しくない。
それぐらいの容姿だ。
というか御話のように野放しにしている方が可笑しい。
少女に迫る人物の中には自分の属性をフル活用する人だっているはずだ。
勿論、イケメンインテリがどこまで活用してどこまで根回しをしたか不明だがその属性が力になったのは確かだろう。
そしてまたヒロインの様な少女もまた所詮は一般人だ。
の様であって真実ではない。
そもそもヒロインというのが自然の社会の摂理に反しているのだ。
ちょっと美人であればちやほやされる。
その気になれば彼氏はとっかえひっかえできる。
そこまで酷くなくとも何かしらを経験したことがないというのはいないだろう。
男性とまともに会話したことがない。告白されたこともない。興味がない。ちょっとした浮ついた気持ちも持ったことがない。
純真無垢。
現実ではそんな少女はいないだろう。
そんなのは偶像くらいだろう。
やはり二次元嫁か。
それは良いとして。
現実の少女なら属性になびくだろう。
カネになびくだろう。
顔になびくだろう。
権力になびくだろう。
それにヒロインが実在するとしても主人公に出会うまで綺麗に梱包されている保証はない。
ヒロインの様な少女がヒロインになるため主人公を待ってくれる保証はない。
というかいつまでも主人公《王子様》を待つ少女などちょっと怖い。
その場その場で流されるのが現実の生き物だ。
力のある大人に食われていても可笑しくない。
というか食われている方が普通だ。たぶん。しらんけど。
だから2回り近くのオジサンとの結婚に納得することもあるだろう。
あるいはそういった属性ではなく極々普通に愛を育んだのかもしれないが。
いや、中年にさしかかったオジサンと中学生の間に普通も何もないか。
だがまあこれが現実だ。
仕方がない。
その時点でもグロッキーだったのに幸せ顔の人妻少女は爆弾を更に投げつける。
「それでも今は幸せです。そしてこれからは3人で幸せになるんです。封印から解放して頂いて本当にありがとうございました」
少女はヒロインスマイルで微笑みながらお腹を撫でる。
まさかと思いつつイケメンインテリを見ると苦笑いをして肯定して見せる。
お巡りさん、仕事してッ!!
それにしても人妻高校生か。
それはそれでグッと……ゲフン。




