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柄にもなく気分が高揚しているのが分かる。
なんてったってヒロインだ。
色物でも偽物でもなく、絶世のとか、妖精のようなとか形容詞がつけられるヒロインなのだ。
高揚しないはずがない。
なんだかんだ言って俺も男だ。
綺麗な人、可愛らしい人にあえばテンションもあがる。
普段が不遇だからこそより一層上がる。
が、しかし。
しかしである。
そんなものにつられて好機を逃すわけにもいかないので切り替える。
それに見た目だけ優秀なのは身近に色々いる。
どうせ俺なんか、友人Aと関わるヒロインだ一癖も二癖もあるに違いない。
妄想や空想や希望ばかり抱いては現実にうちひしがれるだけだ。
そんな卑屈な思考で切り替えて真面目に向き合う。
「自分で聞いておいてなんですが勝手に話を決めていいんですか? 後々それが何か言うかもしれないですよ」
「それはあなたが何とかしてくれるのでしょう?」
「そのつもりですが、他の方はそれでいいんですか?」
「問題ないですよ。定めとして、家柄として付き従っていたものがほとんどですから。喜びこそすれ不快に思う人はいないと思いますよ」
魅力的な笑みで組織の首魁をあっさりと斬り捨てるヒロイン少女。
そんな判断が出来るあたり見た目通りの可愛らしいだけの少女ではないのだろう。
あるいはストレスフルな組織だったのかもしれない。
それとも首魁がヤバかったのかもしれない。
ま、どうでもいいな。
取りあえずヒロイン少女は会話が出来そうだ。
あっさり過ぎるのは気になるがそれを気にしてしまえば何も出来なくなるので気にしない。
一先ず邪魔が入っておじゃんになるのは困るので地面に伏して呻く老人と野獣くんに近寄り二度三度と長刀を突き立てていく。
客観的に見ればかなり酷い映像になっているだろう。
動けない相手に追い打ちをかけている。それも刀でザクザクとだ。
ヒロイン少女の後ろに控える集団の中には数人が顔を背けてい人がいる。
血も肉も飛び散っていないのだから目を背ける程でもないと思うのだが、それはそれで好都合なので良しとする。
俺が危ない相手だと分かればそうそう反乱も起きないだろう。
なるほどこういうところが脅迫なのだろう。
自覚無かったな。
それは良いとして。
取りあえずしっかり切り付けて3日ほどは完全に動けないようにしておく。
処理を終え刀をしまったところで大人しくしていたヒロイン少女が問いかけてきた。
「あなたのそれはどういう力なのでしょうか。見たところ肉体は傷ついていない。けれども力尽きているように見えます。名のある刀なのでしょうか」
「細かいところは言う必要が無いので言いませんが、取りあえずどれだけ斬っても死なないので安心してください。単純に動けないだけですから」
「それは毒や麻痺を使っているという事でしょうか」
興味津々といった様子のヒロイン少女だが手の内を晒すわけにもいかないのでは適当にぐらかす。
言質を取れたといってもそれだけの話。
全てを披露するわけにはいかない。
気を抜いて情報を垂れ流してご破算するのも馬鹿らしい。
一先ず面倒を排除して交渉のテーブルに着くことが出来たので次を考える。
次と言っても呪術師がどうにかならないとどうにもならないな、と思っていると都合よく本殿の方から音がする。
本殿に視線を向けるとはつ子さんが出てきた。
はつ子さんの足取りは軽く堂々としている。ガクブルして気絶したとは思えない様子からすると呪術師との交渉は上手くいったのだろう。
そのことは何よりもはつ子さんの顔が雄弁に語っている。
たぶんタイミングも狙っていたのだろう。効果的に登場してアピールできるように。
ドヤ顔幼女は俺と視線が合うとにやけながら口を開く。
「なんじゃそっちも片はついたのか。折角私が何とかして恩でも売ってやろうと思っていたのじゃが」
「はつ子さん。今更キャラはつけなくていいと思いますが」
「五月蠅いのじゃ。ちゃんと結果を出した私に労いのひとつでもよこさぬか」
ぷりぷりするのじゃっ子幼女。
残念ながらグッと来ない。
勿論そんなことはどうでもいいので流す。
ドヤ顔且つ結果を出したという言葉から説得は上手くいったらしい。
しかし出てきたのはドヤっ子だけでミイラは見当たらない。
いや、別にミイラが見たいわけじゃないけど
「それでミイラはどうしたんですか」
「いや、だから労いをだな。そもそもお主は目上のモノをだな」
何やらはつ子さんが言っているが俺には関係がないので受け流す。
どうなったのかと本殿に戻り中の様子を伺うとミイラが中央で倒れていた。
それもかさかさと音を立てて粉になり始めている。
なんだか成仏しているようにも思える。
消えゆくミイラからはもう呪術的な力を感じない。
本当にただのミイラでしかない。
ならば呪術師は何処へ行ったのかと周囲を窺うと本殿の扉に人影が隠れているのを見つける。
その人影は150センチ程の高さで華奢、普通の少女の形をしていた。
「あ、あの」
普通の少女から怯えたように声を掛けられる。
怯える少女。なんかグッとくる。
何故かいじめたくなる衝動が湧いたが勿論放り投げて普通に対応する。
「なんでしょうか」
「ひっ! ご、ごめんなさい。ごめんなさい」
何故だろう。普通に返事しただけなのに怯えられた。
不本意だ。甚だしく不本意だ。
何がどういう状況なのか理解できないのでビビり少女に問いかけようとして、止めた。
どれだけ優しく声を掛けようとも同じような反応しかされない。
そんな未来が見え透いているのでビビり少女を宥めるのはあっさり諦める。
手っ取り早く事情を理解している奴に処理させることにする。
「はつ子さん集合」
「なんじゃなんじゃ。幼い女子に怯えられて困っておるのか? 情けない奴じゃのう」
いつになくウザいロリババア。
色々と思うところはあるが気にしても仕方がない。
気にする労力も面倒なので切り替えて自分で考える。
まず呪術師だが恐らくビビり少女に変わっている。
生憎俺の気配探知では気配の大小は分かっても種類は分からない。
ミイラについていたものと目の前のビビり少女が同じかは判定できない。
だが状況から考えると関係のない人物が登場するとも考えられない。
それにロリババアの口調からするとそんな感じがする。
となるとミイラは唯のミイラになるのでもうどうでもいい。
さっさと成仏してもらおう。南無阿弥陀仏。
それで呪術師だがビビり少女は会話できる状態になった。
何故か怯えているが会話できないわけではない。
つまり現状は望んだとおりに整ったらしい。
後はそれぞれと相談と妥協で整えればいいだけなのだがビビり少女がビビっているので会話が出来なさそう。
そう思ってロリババアを見るとにやけるだけで働く気が無いらしい。
何が不満なのかさっぱりだ。面倒くさい。
実に面倒だ。
暇であれば後期高齢者の御遊びに付き合うのも一興かもしれないが生憎暇ではない。
取りあえずニヤニヤ顔の幼女に今は遊んでいる暇はないことを教えるために足元で起きている悲惨な現実を伝えることにしよう。
「なんでもいいですけど、そこの綾香を治しておいてください」
「はえ? 綾香とな? ……ちょ、綾香あんた大丈夫なの!? 」
ドヤっ子は血相を変えて動き回る。
これで面倒なくことが進みそうだ。




