7-6
愛しさと。切なさと。心強さと。
斎藤です。
いつか見たどうでもいいネタが浮かんでくるほど困っている今日この頃。
本当にどうしようか。
ミイラが泣き始めて既に10分は経つ。うめき声は一向にやむ気配がない。
こちらがどれだけ声を掛けても応答がない。というより声を掛ければかける程声を荒げる。その癖何かするかと思えばただグズグズしているだけ。
やだもう。おうち帰りたい。本読みたい。
大勢に反逆なんて考えるんじゃなかった。
そんな愚痴も零れそうだ。
しかし、そんなことを言っても現実は何一つ変わらないので切り替えよう。
何事も諦めが肝心だ。
それにこれ以上面倒な局面など何度も経験した。こんなもの大したことでもない。
そんな風に思えるのも主人公様のおかげだ。
そんなことで割り切れてしまう自分が悲しいけど。
気にしない気にしない。
さて、泣き出したミイラだがどういうことだろうか。
単に情緒不安定ということもあるかもしれないが泣くに至った理由もあるはずだ。
まさか他人に騙されると思わなかったのだろうか。
流石にそれは無いか。
撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ、なんて格好つけるつもりは無いが他人に自分が裏切られるという可能性を考えるのが一般だ。
自分にだけ世界が、他人が甘いはずがない。
あるいは不利な状況に陥っても自分なら跳ねのけられると思っていたのだろうか。自分なら騙されないと驕っていたのだろうか。自分は特別だと思っていたのだろうか。
そんな奴がいるから日本から特殊詐欺がなくならないのだ。
というか特殊詐欺て。
そんなことは良いとして。
自惚れミイラでないとすると、可能性としてあり得そうなのは純粋に精神年齢がお子様ということくらいか。
ミイラ、というよりは呪術師は数百年封印されているという。
その封印方式がどうであるかは不明だが経験は止まっているだろう。
周りに干渉できないだけではなく意識すらも止められていたかもしれない。
物語的な発想で考えれば子どもの頃に封印されたため精神が成長していないというのが御約束だろう。
あるいは何でも自分勝手になると勘違いして能力を身勝手に使い周囲に被害を出したため封印されたというのもある。
停止した時の年齢に幅は在るだろうけれど大体が妙齢の生娘だ。
主人公様だと大体がそんな感じだ。
しかしながら俺は脇役、友人A。
そういうヒロイン的なものが降って湧いてくる可能性は薄いので普通に癇癪ババアとか甘やかされて育った大人という可能性の方が高い。
やっぱりカオスだ。
別に俺にヒロインというモノがあるわけではないのだが。
それは良いとして。
色々推論を立ててみたが特に意味はない。
ミイラの事情が分かったとしても俺に何か影響するわけでもない。
手持無沙汰で思考遊びをしているだけだ。
人様の事情とか苦悩とか正直どうでもいいし。
無意味な空想で遊んでいると背中のお荷物が動く。
ようやくお目覚めらしい。
「おはようございました?」
「君、文法が間違っているよ。……というかこの状況はどういうこと? なんだかミイラが壊れたブザーみたいになっているんだけど。それでかなり不愉快なんだけど」
どうやら騒音で目が覚めたらしい。
確かに気味の悪いものが発する気色悪い音で起きれば不愉快にもなるか。
それにしてもはつ子さんにはミイラの声は騒音にしか聞こえないのか。
知識はあってもはつ子さんは異能者としてはゴミに近い。物事の受け取り方も違うのだろう。
一先ず助けを求めるために事情を説明する。
ミイラに合わせて契約を交わしたこと。
そしてあっさりと騙されたこと。
しかしそこまでは予定通りなのであっさりと契約を破棄して再度封印した。
そこで改めて交渉を持ちかけたら泣かれた。
やはり俺は何も悪くない。
間違っているのは世界だ。
改めて自分の正当性を自覚するのだが何故か耳元ではため息がこぼれた。
「前から思っていたけど君って説得や交渉苦手だろう?」
「確かに得意ではないですね。大体の人が真っ当で落ち着いて話してくれないですから面倒ですし」
「私の時だってそうだけど君のそれは交渉なんかじゃない。脅迫だからね」
脅迫だなんて心外だ。
無理強いや人質なんてしていない。断っていいなら断っていいと逃げ道まで用意している。
寧ろ優しい方だろう。
まあその辺の認識の違いはどうでもいいとして。
「ならはつ子さんが引き継いでくれますか? 人に言うくらいなんですから出来るんでしょう?」
「そういう言い方がだめだと言っているんだけど。まあ言っても仕方のないことか」
仕方がないなら言わないでほしいが、気にしても仕方がないので受け流す。
さっきまで情けなくガクブルしていたことを指摘してやろうかとも思ったが面倒なので止めた。
取りあえず何とかできそうな雰囲気を出しているので後は任せるとしよう。
自分に出来ないことは出来ないので諦める。
出来ないことは他人に頼るに限る。
それにはつ子さんで何ともならなければ本格的に諦めればいいだけの話。
泣きじゃくるミイラと生まれたての小鹿のような幼女を残し本殿の外に出る。
ああ面倒だ。
何が面倒って物事は好転していないのに面倒はまだまだ残っていることだ。
折角ひとつははつ子さんに押し付けたというのに。
本殿の外に出ると統一された服を着こなした集団が出迎えた。




