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本屋に、新刊に後ろ髪を引かれたが、だいぶ、かなり、すごく引かれたが人1人の命を御遊びに使うわけにもいかないので何とか切り替える。
こんな事さっさと終わらせて日常に戻ろう。
などと格好つけてみたものの主人公のような派手な事は何もない。
呪術師の本体が収められている神社に不法侵入するだけだ。
要するに犯罪です。
こじんまりした神社の小さな本殿に土足で侵入すると意外にもお目当ては普通に奉られていた。
一般人にとって厄災でしかないものをこうも堂々と置いておくとはここらの組織のトップはクソ度胸なのだろう。
もっとも神社の本殿は立ち入り禁止。日本人の感覚としても無為に侵入するというのは中々ないので隠すには良い場所なのかもしれない。
それに侵入されても気味悪がられることはあっても盗まれることは無いだろう。
それでいてここにあってもそれ程違和感のないモノだ。
「これは、ミイラかな。服装からすると名のある僧侶なのかな。けどなんでそんなものが」
違和感のないのは知識のある俺にとってだけではつ子さんには違和感らしい。
「多分ですけどこれは即身仏ですよ。日本文化の狂気のひとつですね。詳しくは自分で調べてもらうとして、ざっくり言えば悟りを開くとか生きたまま仏になるとか、そういう名目で生きたままミイラになったものです」
「生きたままとなるとかなりの苦行だろうに、いや坊主にとってはその苦行が良いのか」
どうやら即身仏を知らなかったらしい幼女は袈裟を着させられたミイラを目を輝かせて観察している。
幼女とミイラ。
カオスだ。
「意外ですね。こういう宗教的な慣習も知っていると思ったんですが」
「今の時代、異能もカガクだからね。一応魔術や宗教系統の力もあるけど時代の流れとして弱くなっているからね。それにそういったのは宗教系能力はそれこそ苦行とかを求められるから今時誰もやりたがらないんだよ」
最近の若い者は、というやつは異能の世界にもあるのだろう。
まあこれも時代の所為だな。
それにしても異能も科学とかなんだかちょっと夢が広がるな。
俺もその内分解魔法とか使えるのだろうか。
そして人工的に作られた妹に迫られたりする日が来るのだろうか。
いや、どうせ俺の事なので精々剣道部に乱入して素手の主人公に打ちのめされるだけだろう。それも主将としてではなく後からわらわらやってくるモブとして。
そんなことは良いとして。
「私としても君がこういう宗教的なものに詳しいことが意外なんだけれど。今時のサブカルはこういうモノも使うのかな?」
「まあ宗教や神話はサブカルと密接ですからね。といっても即身仏の場合、某2人だけの特命刑事ドラマでも取り上げられていたので一般的だと思いますが」
別に俺は熱心な宗教家でもない。
端に知っていただけの話だ。
それに即身仏を奉っている寺院はそれなりにある。
そういった寺院が近くにあれば必然として知識が入ってくるものだ。
とはいえこの即身仏は少々可笑しい。というかかなり怖い。
普通ミイラというと肉が削げ落ちているので表情らしい表情が分かり難いのだがこの即身仏からは怨念を感じる。
もちろん気配から変換してそう推測しているだけなのかもしれないが。
いずれにせよかなり表情豊かなミイラだ。
「兎も角、興味が惹かれるのは分かりますが離れた方が良いですよ。そろそろ綾香が封印を解くでしょうしそうなったらピチュンされますよ」
「くぅ、そぉ」
幼女が悔しそうにいじいじしている。
あれ、何故だろう。見た目や仕草は十分可愛らしい幼女なのにグッと来ない。
まあ中身があれだしね。
反応したらしたで大ごとだ。
「上手くいけば研究も出来るでしょうから取りあえず諦めてください。感覚は流すようにしているので何か違和感を覚えたら言ってください」
「分かっているよ。こういう生の能力に触れるのは中々ない経験だからね。それなりに頑張らせてもらうよ」
戦闘要員ではないはつ子さんを連れているのには勿論訳がある。
今回の相手の場合単純な戦闘ではないの色々な知識が必要になる。
呪術師の封印を完全に解除するでさえ俺の力だけは無理だ。解除した後相対するときも色々と情報がなければ苦戦は免れない。
となると情報を集めなければならないのだが俺はそっちは守備範囲外。
付け焼刃で何とかするくらいなら他人任せにした方が無難だろうという判断だ。
勿論お供をつけることでリスクは増えるがそこは痛し痒し。
十全など始めから無理なのである程度の事は諦めるしかない。
「取りあえずはつ子さんは大人しくひっついていてください。何かあった時は絶対にはなれないでくださいね。多分はつ子さんだけでも逃がす、なんてのは無いでしょうから」
「そこは無理にでも言っておこうよ。男の子なんだから」
おばあちゃんに呆れてしまったのだが、そもそもヒロイックを求められても困る。
それに御話的に「ここは俺に任せろ」とか「お前たちだけでも」とかあるがああいうのは意外と無駄だったりする。
敵わない相手というのはどうしたって敵わない。
逃がしたところでその後守れる奴がいなければ結局探し出されて処断されるだけだ。
敵が会話してくれて機会を逃すというのは御話くらいのことだ。
現実はそんなに甘くない。
勿論男としての矜持というのは分からないでもないが、分からない。
どう格好つけたところで結果が出なければ無意味で無価値。
そして戦力が乏しい現状では俺が敵わない相手が出た時点で終わりなのだ。
逆に俺が討たれたら綾香やはつ子さんは見逃されるなんてこともなくはなさそうだが。
取りあえずそんなことは流すとして今後の方針と可能性の打ち合わせをする。
その打ち合わせが中途半端に残った位で綾香からの作戦決行の連絡が届く。
さて、お仕事だ。




