7-2
何とかなるという綾香を送り出した俺は幼女を連れて本屋に来ていた。
何故本屋なのか。
年末年始は出版社や運送会社も休みになるので年末の前は月初めや月末に発売するはずの本が前倒しで発売される。
本来であれば発売日に購入して読んでいるはずなのだが最近色々とあったので足すら運べていなかったのだ。
水没村には当然本屋などなかったし。
というより色々あり過ぎて本屋に来るという発想がなかった。
待ち望んだラノベやマンガが発売されていたというのに。
そんな自分が情けない。
ここで悩ましいのは今買うと持ち帰れない可能性が高いという事。
これから戦闘になるだろうしどこかに置いておくのも馬鹿馬鹿しい。というかことが起きれば回収している余裕がある保証はない。
ならば回収を諦めて読み捨てるかといえば正直嫌だ。
個人的に収集癖でもあるので読めればいいというわけではない。
随分有能な俺の異能だが流石に異空間収納ボックス的なモノは作れない。
やはり時代は異世界転生か、などと思う今日この頃だ。
たくさんの本を前に買いたくて買いたくて震えるのだがここは我慢のしどころだろう。
新刊を眺めれば、あらすじを読めば少しは気が晴れる。
俺、面倒が終わったら本を読むんだ。いや、読み倒すんだ。
「いやいや可笑しいだろう」
遊園地に連れてこられた子供のように気分を高揚されていると幼女がどこか必死そうな表情で縋って来た。
おいおい、やめろよ。そんなウルウルすると俺が悪い事しているように思われるだろ。
お巡りさんこいつです、をされちゃうでしょうが。
「どうかしたんですかはつ子さん? おトイレなら入り口にありましたよ。別に精神年齢まで幼女ってわけじゃないんですから少しくらい離れても大丈夫でしょうに」
「そうじゃなくってだな! もうちょっと、こう、色々あるだろ!? 女の子が単身敵組織に突入しているのだからさぁ」
「そう言われてもな」
確かに敵地に単身潜入しているとなると心配する気持ちは分かる。
これが主人公様ならついていくといいだしたり我が儘を言ってかき乱すのだろうが生憎俺はヒロイックを取り扱っていない。
それよりは目の前の事の方が大事だ。
それに本人が何とかなると言っていたのだから大丈夫じゃなかろうか。
既に送り出しており今更助けに行っても無駄でしかない。何も出来ないのだから気にするのも無意味。気を張っているのも疲れるだけだ。
それに女の子て。
しかし浮かれていたのは事実なので少し気を引き締める。
ちょっとキャラじゃない気も薄々していたし。
とは言え頭を空に出来るタイプでもないので一応気にしてはいる。
「綾香には端末を渡してありますから現在地は把握しています。今のところ集団の中に食い込めているようですしちゃんと生きてるみたいですよ」
「いや、そうじゃなくってだな。もっとこう心配をだな。……まあそんな事はどうでもいいとしてだな。端末? 把握? それはどういう事だ? 私はそんなこと知らないんだが。教えてくれ、詳しく」
自分で言いだしたことなのにどうでもいいとか言いだしちゃったし。
いやまあ確かにどうでもいいんだけど。
それにしても下手をこいただろうか。幼女が急に研究者の顔をし始めた。
実に面倒な熱量だ。
この手の熱量の厄介者は誤魔化しやはぐらかしでは引いてくれない。
自分の欲求に素直というか執着が過ぎるので面倒この上ない。
こういう時はさっさと情報提供するに限る。
とは言え人に伝えられる程の知識は持っていない。
能力を行使しているがその理論やらは知らない。出来ることと出来ないことは感覚で分かるので調べる必要もない。そもそもその辺は興味ないし。
取りあえず綾香が無事である根拠を示すため感覚の共有をしてみる。
幼女の小さな額に手をかざし自分の得ている感覚を流していくイメージをする。
「なに、を、お? おお?」
ノリでやってみたのだがどうやら上手くいったらしい。
ここから北東にいった山間に異能者が固まっている場所がある。
その中に綾香の気配が紛れている。
異能者の配置からすると中腹と言ったところまでは入れている様子。
そして現在地から徒歩数分ぐらいのところに禍々しくドロドロとした大きな気配がひとつ。
こんなところだろう。
「ほえーなるほどね。君はこういう風に捉えているのか。かなり便利だね」
「そうでもないですよ。水没村で賭けに、模擬戦の予想に使ってたんですが負けた方が大きく感じることもありましたし。どうも自分の感じる面倒くささしかわからないので客観的な力量は分からないんですよね」
「それはそれで便利だと思うけど。やはり外道の力は土地神以上の物の怪を取り込んだかあるいは英雄の核を……」
作戦が功を奏したようで幼女は自分の殻に閉じこもってくれた。
面倒そうな単語や色々を呟いているので自分なりに知識を飲み込もうとしているのだろう。
殻に閉じこもったので俺は新刊の情報を見て回る。
幼女が現実に戻って来たのは数十分後だった。
「やはり君を解剖してみたいな。勿論殺したりしないし直せないような冒険はしない。色々わかったら君の力になるからいいだろう? どうせちぎっても生えてくるんだから腕のひとつやふたつ、どうかな? どうかな?」
うん、良い感じにマッドなサイエンティストだ。
ちょっと面倒な気もするがやはり御約束として知識キャラは必須だろう。
何かをするには情報がいるし知識があれば上手くいくこともある。今の時代は情報戦みたいなところもあるし。
本来は知識や設定は自分で管理するべきなのだが如何せん興味がない。
興味はないが無視するわけにもいかない。
というわけで1人で抱え込まずに周りに助けを乞おう。
俺は所詮友人Aなので1人で頑張る意味はない。
というか1人ではまともに生きられない。
その為なら腕のひとつやふたつ、いややっぱり痛いのは嫌なので血液検査とかくらいでお願いしたい。
そんなこんなでひとりを死地に送り出しながらも平穏を送る。
平穏ついでに引っかかっていた疑問を暇つぶしで投げかけてみる。
「そう言えばはつ子さんって“のじゃ”っ子じゃなかったでした?」
そんな暇つぶしに幼女は何故か妖艶な笑みを浮かべて行った。
「のじゃっ子? 君は本当にそんな話方をする人間がいると思っていたのかい? 今時公家や貴族なんていないだろうしそんな口調をするのは精々中二くらいだろうよ。じゃあなんで私がしていたかって? それはキャラ付の為だよ。やっぱりキャラって大事だからね。自分をアピールしたり力を誇示するためにはさ。研究所内でもそういう人って認識してもらうだけで注目は集まるしそこで自分の力を見せつけられる。それにそういうキャラクターがあった方が竜泉寺、君のいうところの主人公と向き合いやすいんだよ。というよりキャラ付されていないと流されてしまう。普段はそれで通しているんだけど未だなれていなくて完全に身につきはしなくってね。別に今は君しかいないからいいかなって。がっかりしたって? もう一度聞くけど“のじゃ”なんていう日本人が本当にいると思っていたのかな?」
Oh….
お前ら俺が友人Aだからと言って気を抜き過ぎじゃないだろうか。
キャラなら、ついた嘘なら最後までつきとおせ。
怠慢だぞ。
そんなこんなしているうちに綾香から準備完了の報告が届いた。




