6-2
「さて、そろそろ行動しますか」
平穏な日がさらに続き大晦日直前の30日。
ようやく行動をする決心がついた。
今年の汚れは今年のうちに、というやつだ。
面倒な事が嫌いな俺としてはする必要のないことはしたくない。
本当にここ数日は天国のような日々だった。
これが普段の家ならば主人公様のあれこれに巻き込まれていただろう。
年越しを誰かの別荘で過ごそうとしてテロに巻き込まれたり雪山で主人公と女性が遭難しててんやわんやとなっていただろう。
そして結局美味しいところを主人公様に持っていかれていただろう。
仮に御話的な何かがなくても主人公とヒロインに挟まれてボロ雑巾のようになっていただろう。
本当に面倒だ。
水没村は主人公の魔の手が届かないので俺にとっては理想郷のような場所だ。
とはいえこのままのうのうと生きていても終わりは見えている。
現在は保留期間。気分で生かされているだけの立場だ。
彼方さんの機嫌次第ではあっという間にピチュンされる。
生き残りたいなら彼方さんが本腰を入れる前に何とかしなければならない。
面倒だと避けていたら余計面倒がやってくる。
要するに面倒のしどころだ。
「そうか。吾としてはもう少し話し相手になって欲しいんだがな」
決意を止めにかかるのは残念ながら美少女ではない。
そんな主人公的なご褒美は友人Aには回ってこない。
現在俺が向き合っているのは5メートル級のナマズである。
当たり前だがアニメチックなものではなくリアルなオオナマズである。
ちょっぴり気持ち悪い。いや、ちょっぴりではない、かなりグロテスクだ。
しかし人間は慣れるもので今ではそれ程気にならない。
いや歯茎とか内側みると普通に気持ち悪いけど。
このオオナマズは水没村の脅威となっていた物の怪である。
討伐はワンパンで決したのだが生憎俺の刀では殺せない。
斬れるのはあくまで耐久値とか内部的なものなので時間が過ぎれば回復してしまう。
そこで交渉と脅迫と色々を織り交ぜて会話できるまでとなった。
因みに、物の怪とは超常的な力を持ったナニカの事らしい。
物の怪の内力が強く知能が高く人間に有益だと土地神などと扱われるらしい。
今回のナマズ程度だとヌシとかとその辺らしい。
他にも色々と規定やら設定があるらしいのだが興味がなかったので聞き流した。
やはり研究好きのババアは説明好きでもあるらしい。
他にも水没村の事やら知識を披露してもらったが、まあ覚えていない。
兎も角、このナマズはここら一帯のヌシらしくそこそこお話しできるので和平と相成った。
そしてこのたび旅立つことになったので一応挨拶に出向いたわけだ。
「そういったのんびりは望むところですがこのままだと皆殺しですからね。たぶん彼方さんは情とか情けとかないでしょうし」
「皆殺し、か。それは吾もか? キミに負けた吾が言うのも恥ずかしいがそこらの異能者なんぞに負けるつもりは無いのだが」
「残念ながら瞬殺でしょうね。あるいは戦ったことさえ気付かないかもしれないです。相手はあなた達程度であれば息をする程度の労力も使わずに殲滅できるでしょう」
主人公はそのヒロインや世界でも有数な力の持ち主を相手にしているから弱かったり未熟のように思える。
そしてその主人公に圧倒される人物も主役を相手にするから雑魚なだけでひとたび日常に、極一般に戻れば怪物なのだ。
恐らく撤退時に邪魔してきたオネショタでもこの水没村を壊滅できるだろう。
オオナマズもあっさり開かれて蒲焼にされるだろう。
その他の監視していた連中もここの村民よりは随分強い。
脇役であっても本来はその程度の力を持っているのだ。
とはいえオオナマズも物の怪。
主役様方、あるいは主役級モブ、その部下とその下あたりが相手では無ければ圧倒できる。
一先ず世話になった礼として水没村を守ってもらうことにした。
「まあそれくらいなら構わんが。そうだな、その代りと言ってはなんだが暇な時でいい吾と会話しに来てくれればいい。村の奴らはどうも話し辛くてな」
何でも孤独に生きてきたナマズにとっては会話できるだけで面白いとのこと。
常にぼっちのナマズは人肌が恋しいらしい。
勿論別段困ることでもないので了承した。
ヒロイン枠にナマズが入りそうでかなりカオスな俺の人生どうなんだろう。
まあそれは良いとして。
ナマズとの別れを終えて旅立ちの相手と合流する。
旅立ちの目的は逃避だけではない。
そこにあるのは至極簡単、戦力の増強である。
何事も力がなければ自由には生きられない。
それは非日常に限らずどこであっても変わらない。
学校で気になるヒエラルキーだって結局は権力争いだ。
もっとも常に主人公が付きまとってくる俺としてはクラス内ヒエラルキーなど気にしたことは無いけれど。
それは良いとして。
現状俺には力がない。
無いからこそ大勢に取り込まれ傀儡となりかけた。
だから力が必要なのだが、勿論、自分を鍛えたりはしない。
窮地に陥った時、真なる力を発揮したりレベルアップできるのは主役様方だけだ。
鍛えただけでどうにか出来る程世界は優しくない。
そもそも必要になって求めたからと言って簡単に手に入るならそれは力にならない。
影響力を与えられる力とは限られているからこそ発揮するのだ。
ではどうするのか。
力がなく才能もない人物がどうにかしたいと思うなら他人を頼るしかない。
長いものに巻かれる。
あるいは他力本願、数の力に頼る。
それが凡人の発想である。
その凡人である俺の考えといえばやはり他人に頼る。
自分の力になりそうな人物あるいは集団を探し協力を取り付けに行くのが手っ取り早いだろう。
中々に無理難題ではあるのだが凡人にはそれくらいしか出来ない。
終わりを座して待つより、ない可能性にかけて自分を鍛えるよりはましだ。
その仲間を探す旅なのだが、旅の仲間といえば主役様ならヒロインだろう。
それも絶世の、とか妖精のようなとか形容詞が過度に装飾された美少女だろう。
だが俺の御供は見た目そこそこの女子大生だが中身は母親世代というギャルババアと見た目幼稚園児の後期高齢者という残念具合だ。
因みに一番ヒロインっぽい三人娘は留守となっている。
俺にはそこまで力がないので大人数で行くのは得策ではない。
囮や捨て駒としては有用かもしれないが目的が戦力増強なのだからそういうわけにもいかない。
勿論、ナマズを連れていくわけにもいかない。
結果、ロリババアとギャルババアが御供と相成った。
ホント俺のヒロイン枠ってどうなっているんだろうな。
いや、そもそも友人Aにヒロインなど期待するモノではないのだが。それにしてもそれにしてもだ。
それは良いとして。
本来ならば御供はロリババアだけだったのだがギャルババアがどうしてもと聞かなかった。
自分はもともと家令なので主に付き従うのは当然の権利だという。
何というか本当にヒロインみたいで面倒だ。
50代のヒロイン。
グッとこねぇな。
「お別れは終わったかな?」
友人Aの現実を再度理解してため息をついていると原因が呑気に尋ねてくる。
文句のひとつでも言いたい気分になったがそんなものが無意味で無価値とも分かっているので飲み込んだ。
連れていくかどうかの問答も何度もしたので今更掘り返すのも面倒すぎる。
さっくりと切り替えて現状でどうにかできる方策を考えることにする。
「取りあえず俺の方は問題ないです。問題は俺ではなくそちらでしょう? 足手まといは確実なんですし準備は出来てるんですよね」
これは別に嫌味ではない。少なくとも本院にその意図はない。
その、多分、きっと。
しかしババアズは年季の違いというべきか相手の悪意など気にせずさらりと受け流す。
「問題ない。そもそもお荷物は今に始まったことじゃないからの。自分のできることの準備はちゃーんとしておるよ」
「私も大丈夫だよ。潤が欲しがりそうな情報も集めておいたから力になれるはず」
何とも頼もしいヒロイン風の2人である。
中身が見た目同様であれば人気が出そうなものを。
ま、別にこいつらにそう言うのを期待しているわけではないのでどうでもいい。
さてさて、面倒を避けるための面倒が始まります。




