5-15
戦局は終盤、というよりは終わりを迎えていた。
我らが主人公様とヒロインには目立った怪我はない。
綺麗だった服装に汚れなどはあるが身体の方に怪我は見られない。能力の残数は分からないが顔は明るい。
おそらく勝ちを確信しているのだろう。
一方襲撃者、小学生くらいの幼い女の子と同じ顔同じ体躯同じ服装の3名の妙齢の女性、は満身創痍といった様子。
幼女は幾分元気そうだが3名はもう無理そうだ。
左腕、右足、左足、それぞれが使えない様子。
それでも覇気、というよりは気持ち、は未だに折れていないのだがそれだけでどうにか出来そうな状況ではない。
これ以上の戦いは不毛だと理解している主人公様は諦めろと諭している。
だが幼女チームは頑として徹底抗戦を訴えている。
ヒロインたちはそれ程説得に乗り気ではない様子。
下手な情けは自身の身を危険にさらすことを彼女たちは知っているのだろう。
主人公様がそう望むから従っているだけで主人公様が諦めればすぐに切り捨てるだろう。
もう一刻の猶予もない。
高鳴る心臓を押さえつけて震える足を叩きつけて一歩踏み出す。
出来る限り気配を消し最速で幼女の背後を取る。
空中を漂う幼女の背後に突如として現れ小太刀で心臓を貫く。
幼女を容赦なく刺殺とか外道でしかないのだが残念、この幼女は可愛らしい容姿で実に美幼女なのだが齢80を超えるという。所謂ロリババアだ。
綾香の話では人体錬成、人体再生などを行っていた非合法研究施設の主任だったらしい。その研究過程で肉体の老化を止めて若返りを図ったという。
ロリババアだからと言って刺殺することに罪悪感が薄れるなんてことは無いのだが。
まあ殺すわけではないのでそんな罪悪感はありもしないのだが。
それは良いとして。
妨害を受けることなくバレることなく奇襲が出来た。
実戦経験がないので自身の能力がどの程度有用なのか不明だったが多少はマシのようだ。
主人公様が説得を図っていたので戦闘の緊張が薄れていたのかもしれない。あるいは説得時故に警戒が幼女に集まっていたのかもしれない。
いずれにせよ都合のよい結果が生まれた。
第三勢力が唐突に現れ横槍を入れた形になり戦況が止まった。本来ならば状況の変化に素早く対応するところなのだが展開として、都合よく皆の動きが止まる。
この時間が第一関門だ。
数瞬も無駄に出来ないので手中に収めたロリにだけ聞こえる声で捲し立てる。
「今からあいつらに話があるから良いように使われてくれ。その対価としてあんたと他の3人を逃がしてやる」
「な、にを」
「面倒な問答は無しだ。あんたを殺すつもりなら既にやっている。戦況だって理解しているだろ。このままではあんたらは負ける。そもそもこの襲撃だって整えられていたもののようだぞ」
「そん、な」
「時間は無いから決断は早くしろ。こちらも余裕のない綱渡りの最中なんでな」
「この状況で貴様の言葉だけを信じろとでも言うのか」
「そこはご自由に。で、どうするよ。即断しないと彼らが動き出すんだが」
「……私に何をしろというんだい」
「あんたは一先ず人質。何かさせる時は言うので大人しくしている。あとは三人娘に軽く襲撃させてほしい。それを斬り飛ばすのでそれに合わせて欲しい。弾き飛ばした先に協力者がいるので娘っ子どもはそっちに従ってもらいたい」
「あい分かった」
どうやらロリは俺の話につくらしい。勿論俺の話を信用したとかではないだろう。
現状では彼女らも積んでいる。あとは手順通り終わりに向かうだけ。そんな状況だからこそ俺の話を聞くのだろう。
勿論彼女らが本当にこちらに付き従ってくれる保証もない。
だが互いの利益が合致すれば共闘は出来るのだろう。
細かいことなど気にしていられない。
ロリは抵抗するようにじたばたしたが観念したように、というよりは力尽いたように力なく倒れた。その様子は息絶えたようにも見える。
その姿を見て真っ先に動いたのは三人娘。
目の前で親が殺されたかのような悲壮な絶叫と共に襲い掛かってくる。
常人では追いつけない様な速さで迫りくる三人を長刀で斬り飛ばす。
ロリを片手で抱えながら片手間で、超然とした素振りで。
三人娘もある程度演技をしてくれたのだろう。
随分楽に斬り飛ばせた。
「飛ばした先に協力者を向かわせる。三人娘にはそいつの指示に従わせてくれ」
「……」
死んだふりのロリは反応がない。だが起こすわけにもいかないので指示通りにしてくれるものだとして扱う。
ここは気にしても仕方がないし優先順位は低い。
ロリを串刺しにして超然とした様子で主役様方を見下ろす。
突発な展開に止まっていた主人公だが三人娘が動き出しきり飛ばされたことで現実に戻って着たようだ。
「……おまえ、誰だ。いや、そんなことはどうでもいい。今すぐその人を解放しろ」
「……」
戸惑いと憤慨をまぜこぜにした感情で主人公様が吠える。
それにすぐには反応せず周囲の様子を伺う。
早乙女と九重は主人公の前に立ちふさがるように構え、神居は支えるように後方に立つ。
キャロルは主人公をというよりはこちらに敵意をむき出しにしている。
敵としてみると彼らの立ち位置も違って見える。横目や後方から見ると主人公様が突っ走っているようだったがヒロインたちはしっかりと脇を固めているらしい。
もっとも失敗や後悔からこの陣形を築き上げたのかもしれないが。
兎も角、彼女らの主役が主人公様である。彼女らの行動は主人公様が決める。
主人公様は決して好戦的ではない。まずは対話、説得、和解を好む。どうしようもなくなった時にのみその力を奮う。だから突発的な第三勢力の登場、敵の突如とした敗北が起きても容易に戦闘を開始しない。
ある程度容易に推測できる結果だが都合よい展開に安堵する。
その安堵も過ぎに押さえつけて気を引き締める。
ここからが第二関門、というよりは最大の難所だ。
さてここからが勝負だ。
「誰だ、とは酷いなぁレオチャン」
出来るだけ軽薄そうな口調で勿体ぶりながら仮面を取る。
月明りしかない暗い中で顔までわかるか怪しいところだがどうやらその心配はないらしい。
みな超常な力によって視力も向上しているのかみるみるうちに反応を変えていく。
竜泉寺は驚愕から戸惑い。
九重は混乱から動揺。
早乙女は無表情。
神居は困惑。
早乙女と神居の反応が薄いがまあいい。早乙女は元々表情が薄いし神居とはあまり面識がないので仕方がない。最重要は竜泉寺が驚き揺れたこと。
あらかた予想通りの反応だ。
またひとつ段階を踏めることに安堵した瞬間、空気が熱風で切り裂かれる。
空を見上げていた一団の中から一つの影が飛んでくる。その背中には火炎の翼を生やし火炎の剣を携えて。気が緩んでいたため反応が遅れ状況の変化をただただ眺めるしかなかった。
選択を誤ったか、と不甲斐なさを抱き現実を受け入れる。
有無を言わさぬ暴力が降り注ぎ終わりを受け入れた。
しかし、火炎で貫かれるということは無かった。
火炎を纏った少女は空中に漂っていた見えない蜘蛛の糸のようなものに捕らわれて動けなくなる。少女が逃れようと火炎を振り回すが糸は絡まるばかりで逃げ出せない。
吃驚である。
蜘蛛の糸など用意していない。そもそも少女にこのタイミングで攻撃されるのは予想していない。俺には他人の行動を推測できるほどの頭脳は無い。
だが慌てることは無い。
どういう事か理解できないがこちらに都合がいい。
状況から推測するにこんなことが出来るのは一人というか一体というか、糸の出どころも何故か俺になっているあたり誰がしたのか分かるのだが。
取りあえず細かいのは気にしないでおこう。
驚きで行動出来なかったのを良いことに特に気にした素振りで特攻少女に問いかける。
「この状況下ですぐさま特攻というのは軽率じゃないかな、キャロル?」
この襲撃が予測されたものであるのならこの状況かを整えた人物も神崎とその背後の協力者だろうことは容易に想像できる。
とは言え主人公様が見ている中でヒロインが友人に特攻するなど少し不思議に思うところだ。
「良いのかい? 勝手に特攻なんかして。それともすでに手回しは終わっているのかな。ここに現れた俺は操られているとか偽りだとか、何も知らない俺を準備してあるのかな?」
「何を訳の分からないことを言っているのですか? レオ様の敵が現れれば排除するのが私の役目でしてよ」
「やれやれまたか」
無意味で主人公チックで嫌なのだが呟きがこぼれる。
キャロルもまた会話のできない人だ。それが元々の性格なのか色々とあれなのか不明だが取りあえず会話が出来ないのなら仕方がない。
蜘蛛の糸がどの程度の強度か分からないので長刀をキャロルに奮う。
白く光る刃先がキャロルの首に触れそのまま素通りする。肉も骨も斬ることなく通る。それを二度三度往復させるとキャロルから生えていた火炎の翼は消え手足から力が抜ける。
刀の効果がキャロルにも通ったことに安堵する間もなく声を張り上げる。
「先に言っておくけどレオチャン、ロリっ子にもキャロルにも傷はつけていないから早まった判断はしないでおくれよ。あくまで動けなくしただけだから。その辺は神居や早乙女に確認してくれれば分かるだろうからさ」
情けないが言い訳は速めにしておく。
俺のしたことはあくまでも正当防衛、キャロルから攻撃を仕掛けてきたのだがキャロルが傷つけば主人公様はそんなこと気にしないだろう。
戦闘を出来なくすればそれだけでいい。人質にする必要はないのでさっさと返す。
意図的に捕縛していたわけではないのでどうするか悩んだがそれっぽく指を鳴らすと俺の意図を理解したのか糸はキャロルを竜泉寺の元へ運んでいった。
さてここからが正念場だ。




