表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/123

5-14

 色々と準備を終えて主役様の戦闘を眺めていた。

 岩が飛び交い爆炎が吹き荒れる。その中を人影が目が追い付けない程の速さで飛び交う。



 あれらを見ても思う。

 普通じゃない。

 あれらの方が人間を辞めているんじゃなかろうか。



 そんなものに関わると決心したもののマジな人たちのガチなバトルを見てしまうと足が竦む。

 あの戦闘の中に真正面から飛び込んでいくわけではないのでそこまで気張る必要はないのだが改めて面倒さにため息が漏れる。


 こうして様子を伺っていられる時間も多くないのでさっさと腹を括らないといけない。



 これからするのは主役様方のバトルにお邪魔して主人公様に言質をもらってなし崩し的に生き延びようという場当たり的な作戦。

 それも予測通り進み幸運と御都合主義が揃って初めて成功しそうな稚拙な作戦。



 主人公様はその性質から他人を見捨てない。そして理不尽を見逃さない。いや見逃せない。

 それを打ち破るために行動してしまう。自分の利益にならなくてもやり通す。

 常人には理解できないが、だからこそ主人公なのだ。


 ならばその主人公の相棒的立ち位置にいるクラスメイト、不本意ながら、が理不尽に巻き込まれることを知ったらどうだろうか。

 野郎のことなど知らねぇとなりそうだがそこは主人公様。ある程度は踊ってくれるだろう。


 解決に尽力してくれる、とまでは期待しないがこちらが有利になるような立ち振る舞いをしてくれる、と思う。

 少なくとも不快感は抱いてくれるだろう。

 きっと。たぶん。だといいな。



 そして俺の敵対勢力、神崎とその背後組織は主人公様と懇意にしている。

 彼らの最重要事項は主人公様だろうから主人公様の機嫌を損ねることが出来れば彼らの姿勢にも影響を与えられるかもしれない。

 少なくとも主人公に付随するヒロインは味方につけることが出来るだろう。


 そうなってしまえば表だった問題は解決するだろうし根本的な解決の猶予が生まれるだろう。



 だろうばかりでしかないのだが仕方がない。

 なにひとつ確定した事象などないのだから、確定させられる未来がないのだから仕方がない。

 それでも今を何とかしなければ今後もないので仕方がない。



 その今を何とかする為には戦闘に乱入して主人公様に俺の話を聞かせる必要がある。

 それも勝手に割り込んで自分の話を聞かせるだけではいけない。

 彼らの事情を巻き込んだ上で危機感を煽り思わせぶりな態度を取る必要がある。



 あれらの矢面に立つなど正気の沙汰ではないのだが、これしかないので仕方がない。


 それに、そこには飛び切りの武力も全てを見通す頭脳も必要ない。

 必要なのはある程度の空想力とアドリブ力。口八丁でも何とかできる、のだ。たぶん。



 ならばするしかないのだ。

 俺には力も頭脳もない唯の凡人でしかない友人Aなのだから。



「潤、本当にあそこに飛び込むつもりなの? 正気?」

「いやあ俺も目の当たりにすると面倒くささが増すわけだが仕方がない。これも運命だよ」

「運命とは柄じゃない言葉を使うのね。相当緊張してる?」

「そりゃ自分の命がかかっていれば誰でも緊張する。他人の死ですら敏感な凡人なんでね」



 主役様に立ち向かう俺の傍には綾香ひとり。

 この状況下で俺が使える駒などこれくらいしかないので仕方がない。

 これもどの程度使えるか不明だが凡人の友人Aにとっては従えられるだけでも満足というモノだ。


 自分の装備だってまともではない。

 小奇麗にした動きやすいそれっぽい服装にそれっぽい仮面。

 武器は小太刀と長刀を左右の腰に携えているくらい。


 服装を変えたのは勿論それっぽい演出の為。

 仮面も始めから素顔を出すより渋った方が演出が出る。

 会話にも演出が必要なのだ。


 物語に出てくる脇役のリアルではいかに演出して主人公をその気にさせるのかなどが話し合われているのかもしれない。

 それはいいとして。


 小太刀と長刀だが、人外の力の運用を試行錯誤した結果この形の力がしっくりと来た。

 勿論普通の刀ではない。使い方も効果も普通の刀とは異なる。

 恐らく個人的な趣向として攻撃は刀、それも日本刀というのがこびりついているのだろう。

 やはり刀は正義だ。

 



 だがこんなものが主人公様に通じるはずもない。初見では混乱させられるかもしれないが決定打にはならないだろう。

 そもそも俺の願望に敵を倒すことは無い。

 もしかしたら一太刀目でも通用しないかもしれない。


 だが彼らも俺に対しては躊躇してくれるだろう。

 してくれなきゃ死ぬまでなので考えても仕方がない。



 これが俺の最善だ。



 決意を改めて確認したところで唯一の手駒に問いかける。



「綾香は良かったんですか?」



 俺と彼女の間には明確な何かはない。彼女の個人的な事情で彼女が勝手に付き従っているだけ。

 だから、寧ろこんな事を聞くのも無駄で無意味なのだがつい聞いてしまう。



「さっきも言ったけれど今の主は潤よ。潤が不要だと言わない限りあなたに従うわ」

「それでもあれらと敵対するわけですが」

「付き従うな、あるいは十分だと言って解任してくれれば私も大人しく引き下がるわよ。でも潤は私を使うんだよね」

「まあ使えるモノを使わない余裕なんてありませんからね」



 無理やり従わせるつもりは無い。逃げたいのなら逃げればいい。従うかどうかの判断は綾香にある。

 だがどちらでもいいというなら使うというのが俺の判断だ。


 こんな状況下で協力、とも少し違うが取りあえず協力してもらえるなら断る理由などない。

 主人公様とは違うのだ。

 自分が面倒から逃れる可能性をあげるためには他人を巻き込んだりもする。


 ならば聞くなというところだが仕方がない。

 自分がその立場なら絶対に断る案件だしどうしても気になってしまう。


 綾香は美学に生きているというし損得勘定や利害だけで判断していないのだろう。

 ま、そこは個人の価値観だろう。

 俺の行動だって損得勘定や利害だけでは動いていないのだし。



 兎も角、準備は整った。準備といえるほどのモノも揃えられてはいないのだが。



「さて、面倒を避けるために面倒に飛び込むという面倒な事をしましょうか」



 実に面倒だが仕方がない。

 大勢の規制路線に逆らうとしよう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ