5-13
暗転から意識がはっきりすると床を全身で受け止めていた。
客観的に見れば恐らく情けない状態なのだろうが床が良い具合にひんやりとしていて心地いい。
面倒な説明回が終わった感もありちょっと、いやかなりこのまま眠っていたい気分だ。
とは言えのんびりしていられないので体の気怠さの緩和を待ちながら状況の把握に努める。
場所はパーティー会場であった洋館らしい。
らしいというのは半壊近い状況になっているので判断が難しい。残っている壁に見覚えのある鹿の剥製があるからおそらく洋館。
洋館をこんなにした原因は間違いなく空を自由に飛んでいる9体の人影の所為だろう。
その9体は阿保みたいに遠慮もなくバカスカと非日常を繰り広げている。
遠慮のなさ加減からすると半壊で済んでいるのが可笑しなくらいだ。
それはたぶん彼ら彼女らが主人公でありヒロインであり主人公の敵だからだろう。
良くも悪くも彼ら彼女らには都合よく世界は回っているので致命的な被害は出ていない。
その証拠に俺の倒れている場所や御幸のいる周辺には運よく流れ弾が飛んできていない。
戦闘は4対5という構図だが拮抗しているように見える。
陽が落ちているので視界は悪く感覚も鈍っているのであまり詳しくは分からないがそうそう簡単に決着はつかないだろう。
物語の主軸は今のところ関係ないので置いておくとしてわき道の話をしよう。
目下諸悪の要因である神崎とチヤは近くで何やら会話をしている。
その立ち位置からすると神崎の……もとい会話内容が聞こえてきそうなものだがどうしてか上手く入ってこない。
というより主人公たちの戦闘音も入ってきていないのでどうやら俺の聴覚はイカレているらしい。手足もピクリとも動かせないので殆どの感覚がマヒしているのかもしれない。
あるいは幽体離脱という双子の得意技を発動中なのかもしれない。
うん、それはない。
取りあえず状況としては胸ズボをくらった直後であっけなく打ち捨てられたという具合だろうか。
神崎と会話するチヤが心底面倒くさそうな表情をしていることから他にも何か面倒を頼まれたのだろう。
良い感じに放置されて物語は着実に進んでいる。
このまま俺を置いて走ってくれればいいのに、と思ってしまうのだが中途半端に関わってしまっている身としてそれは無理だろう。
のんびりといい笑顔で寝ている御幸が羨ましい限りだ。
会話をしていた神崎とチヤは暫くすると立ち去っていった。
神崎はこちらを一瞥しただけであっさりと消えていった。
俺の意識があるのに放置していくのはこれ以上する必要はないと思っているのか意識があることに気が付いていないのか。おそらく前者だろう。
チヤに力を引っこ抜かれた普通の一般人である俺にできることなんて何もない。それでも何かしようものなら簡単に処理できると考えるのが普通だろう。
そうやって後回しするあたり不用意なのだが俺は雑魚なので仕方がないだろう。
チヤもまた同様に不自然なそぶりを見せずあっさり消えた。
そこはやはりチヤというべきか不用意なことをして神崎を怪しませたりしない。あるいはすでに俺に興味は無いのかもしれない。
それについては考えても仕方のないことなので放置しよう。
さて、俺は人生の岐路に立っている。なんていうと大げさだろうか。
人生は選択の連続、ともいうのでこれも俺の人生の中で一つの選択に過ぎないのかもしれない。あるいは世界には大いなる意思というモノがあり矮小な俺一人の選択でどうこう変えられるものではないのかもしれない。世界はどうしようもなく不条理で収束が決まっているのかもしれない。
そんな妄想は良いとして。
今後どうするべきか。
組織や大勢に屈して今からでも泣きつくか。
あるいは不遇な現実を受け入れて傀儡となるのを善しとするのか。
面倒な奴の思惑通りになるのは癪だが、そんなもの決まっている。
俺は別に御人好しではない。他人の思惑に従ってやろうという素直さもないし寧ろ出来ることなら色々なしがらみには反逆したい性質である。
何より俺は面倒な事が嫌いだ。
では、面倒な事とは具体的にどういうことだろうか。
面倒という言葉の意味からすれば煩わしいこと手間のかかることをさす。
だが俺は生きるなんて最大面倒なことを手放すつもりは無いし手間のかかる細々としたことは嫌いではない。効率ばかりで生きてもいない。
ならば面倒な事とは何をさすのか。
至極簡単。
自分のしたくないこと、興味のないことだろう。
面倒なことが嫌いとはその根本には自分のしたくないことはしたくない、興味のないことはどうでもいいという感情がある。
何を面倒に思うかは個人の勝手なので極論そう言うことだろう。
自分本位で自分勝手。
そしてそれを自覚した上でそれを許容してそれを好んでいる。
俺の本質はそうなのだろう。
それは確かに人外の素質かもしれない。
けど大体のニンゲンはそんなものだろうけど。
兎も角俺のとる方針は決まっている。
面倒なことは何をしても拒絶する。
仮に遠回りになるとしてでもやりたくないことはやらない。
そう決めると体の中で何かが弾けた。
それは頭の中で種《SEED》が割れるような感覚。
いやまあ九分九厘の人はナチュラルなのでそんな感覚分かるはずもないのだがそんな気がした。
本当にそんなことが起きたのかは不明だが身体の麻痺が取れ思考がクリアになっていく。それまでの怠さが嘘のように体は軽く気分が高揚していく。
体はHotに思考はCoolになった状態で今後の方針を考えていく。
目下一番の面倒事は神崎とその背後にある組織。主人公の最も近くに陣取りおそらく巨大な力を有しているため我が物顔で何でもこなせてしまうのが厄介だ。
それが彼らのいうものがどれほど高尚であっても、仮に本当に世界の為であってもそんなものは俺に関係ない。
世界存続とか命運とか友人Aたる俺に関係ない。そんなモノの為に犠牲になるつもりは毛頭無い。
では彼の手から逃れるためにどうするか。
簡単なのは逃げ出すことなのだがそれは少し違う気がする。というより何もせず逃げ出すのは好きではない。なんか負けた気がするし結局屈した感じもある。
ならばどうするか。
まあ真っ向から反逆するしかないだろう。
それも彼らが望まないことを、嫌がる方向へ。
それはそれで面倒ではあるのだが許容範囲だ。手間をかけて面倒を運んでくる輩の邪魔が出来るのならそれは面倒ではない。
寧ろ面白い事だ。
客観的に見ればそれは等しく面倒なことなのだろうが仕方がない。
恐らく俺の願いとは単純なものではない。拘りはあるがそれも結局は個人の好き嫌いでしかない。その好き嫌いだって絶対的なものではないし気分なところもある。
なので矛盾は仕方がない。そんなものは気にしても仕方がないし変に拘りを持つつもりもないので放置する。
大勢に反逆するとして、具体的に何をすべきだろうか。
根本的な解決の為には戦力の増強だろう。何事においても力というのは正義だ。武力に限らず発言力などどんなものであっても力がなければ何も出来ない。
世界を変えるには誰にも負けない力が必要だ。
しかしそれは直ぐにどうにかできるものではない。偶然王の力を手に入れることなんて友人Aに出来るはずもないし、そんな力が簡単に手に入るなら誰も困らないだろう。
力というのは容易に手に入らないものだから強いのだ。
ともすると俺のとれる行動はモブらしく他人に力を借りるか他所の力を利用するかだろう。
そしてチヤには見限られ神崎から切り捨てられた今俺が使えるものは限られている。
それでも何もできないわけではない。
かなり運任せで場当たり的になりそうだがそれも仕方がないだろう。天才的な頭脳の王子様だって全て予測できるわけではないのだから俺が其処までできるはずもない。
精々思考を固めず柔軟に動くしかないだろう。
やれやれこんなのは俺の役割じゃない。
役割ではないのだが仕方がない。
それにこれは案外良い展開なのかもしれない。普段は面倒な輩に面倒な事を押し付けられていたのだ。ここらへんでそういった関係性を清算しよう。
なんにせよ出来ることは限られている。
限られている中で出来ることをやるとしよう。




