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友人Aの反逆日記  作者: みくじ


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29/123

5-12


 目が覚めるとそこは見知らぬ空間だった。


 上下左右のどこにも壁がなく永遠と続いているような空間。

 そこに大小様々な歯車が組み合わさり回り続けている。

 それはどこかで見たことのあるような空間だった。



 恐らくあと仮面ペルソナがあれば完コピだろう。

 多分ここで親子対決とかできる。

 


 そんな摩訶不思議超自我的な空間に放り投げられたわけだが落ち着いていた。

 これもまた処理班系登場人物の性だ。というよりは慣れだ。いちいち驚いていたらやっていられない。

 胸ズボッも二回目だし割りと落ち着いている。それに胸ズボ自体は痛みもなければ切を失うだけなので落ち着けてしまうのもどうかと思うが騒ぐ程の事でもない。

 前も死ななかったので今回も大丈夫だろうという甘えもあるかもしれない。

 取りあえず考えても仕方のないことは放置しよう。



 まず体の節々を確認すると特に異常はない。

 胸に穴も開いていないし当然仮面もない。虚化はしていないらしい。

 もっともこの手の空間の御約束として意識だけの空間ということもあるので現実の体がどうなのかは不明だが。


 そんな具合に特に感慨もなく呆けっているとやって来た。



「この部屋は気に入ってくれたかな。キミの好きなあれを参考にして作ったのだけれど」



 そう言われてやはりかと思う。これはあれのオマージュなのだと。

 それに対して感想を聞かれればあれだ。

 この空間を作った人は分かってらっしゃる。


 だが、この空間は実に中二心をくすぐるのだが実際にその空間に放り込まれるとなると勘弁してほしい。正直気分が悪い。


「だよねぇ。ボクもちょっと気分が悪いので消します」


 そう言ってその人物が手をたたくと歯車は消え何もない真っ白な空間へと変わった。


 その一連を見て思う。今俺は言葉を出したつもりは無かったんだが。

 そう訝しんでいるとそれが面倒くさい笑みで微笑んでくる。


「安心していいよ。キミは声を出していなかった。ここはキミの、そうだね自意識の中とでも言うかな。だから伝えるのに言葉なんていらないよ」


 何が安心していいよだ。

 その言葉が正しいのであれば俺の内面に異物が土足で入ってきているということだろうに。しかもその内面をいとも簡単に模様替えしているし。

 気持ち悪いったらありゃしない。


「まあまあ気にしない気にしない」


 言葉なしでも伝わるということならこの面倒くささや嫌悪も伝わっているだろうに。

 流石ダメ生物だ。自分以外に興味がねぇ。


「そのダメ生物っていう表現は止めて欲しいなぁ。最近自覚があるだけに反応に困るんだよ」


 自覚があるならいいじゃないか。事実なのだし自戒にもなるだろうし。


 さてそんなものはどうでもいいとしてだ。


「なるほど。キミの切り替えの早さはこういうあっさりとした切り捨ての賜物なんだね。キミもいい感じに壊れているよね」


 さてそんなものはどうでもいいとしてだ。



 目下の問題は何がどうしてどうなってこうなっているのかという事だ。

 その辺は普通に登場した自称裏切り者に説明を求めたいところだが。どうせダメ生物の事なので自分で考えるしかないんだろうが。

 そう思考に走ろうとしたが意外にも説明がやって来た。


「何がどうしたかは単純明快、ボクがキミを捨てて彼方側に走っただけの話。そしてこうなった理由も単純でキミにはまだ利用価値があると思っているからだよ」


 それはまあそうなのだが。

 分かっていると思うが気になるのはそこじゃあない。

 ダメ生物が裏切るとか俺がポイ捨てされるとかは大したことじゃない。何度も言うがそれは分かり切っていた結末だ。


 問題はどういった理由でダメ生物を裏切らせたのかという彼女彼らの事情だ。


「ま、その辺も彼方側の御都合という事なんじゃないかな。今日このタイミングには特に意味はない、と思うよ? ボクも連絡を受けたのは数十分前だからね。まあ打診は前々から受けていたんだけどね」



 数十分前となると主人公様がダンスを始めた頃。ともすればその頃には襲撃者が現れるというのも分かっていたのかもしれない。あるいはこのパーティー自体が襲撃者を捉えるための場所という事も。


 ありそうなのが襲撃者を誘いだす作戦の中で脇役が連絡をしてきたからついでに処理してしまおう、というとこだろうか。


「だろうと思うよ」


 ダメ生物からお墨付きをもらってしまったので多分そうなのだろう。

 まあ友人Aなのだからついででも気にしない。そんなものはどうでもいいしそれ程重要ではない。


 注目すべきは何故こんな状況に陥っているのかというところだろう。


 気になるのは神崎の勘違いっぷりである。

 勘違いというか思い込みというか妄信とでも言うべきか、あの感じが気になる。気になるというよりはちょっと怖い。

 あんな独善というべきか独断というべきか極端な奴が主人公の監視というのは如何なものだろうか。

 あれは思いやりでも何でもない。ただの悪意にしか思えない。



「その辺はあれだよ、彼女もまた末端だという事だよ」



 所詮末端。それはつまり神崎も脇役で黒幕から操られている駒でしかないということだろうか。

 ならばあの思い込みの激しさも分からんでもない。

 一部の都合のいいように思惑の為にあれこれ弄られているのかもしれない。

 よくある話だ。



 以上の事から総合するとどうやら俺は組織の上層部の琴線に触れてしまったらしい。それももののついでにどうにかしてしまおうと画策するほどに。

 あるいは単純にダメ生物の引き抜きが目的なのかもしれない。ならばこんな無駄なことをする必要もない気がするので恐らくない。

 ダメ生物が俺に愛着とか執着を持つとは考えられない。



「まあそれは無いね。絶対に」



 ならばやはりどういった理由か不明だが邪魔な存在として処分したいのだろう。


 実に面倒なことだ。

 それも端に消すのではなく都合のいい人形にしようとしてくるあたり面倒だ。


 もっともこの推察がどこまで正しいかは分かったものではないが。



「さて現状を理解してもらったところで本題だよ。ボクが態々こうしている訳の説明だね」



 何というかあれだ。

 こいつの笑顔を見ると現状で面倒が飽和しているのにこの先も面倒しか待っていない気がしてならない。

 俺はただ平凡な日常で満足だというのに。

 帰っていいかな。


「まあキミが帰りたいなら帰っていいんじゃないかな。多分キミは死なないだろうし。おそらく今までのように主人公の相棒として走り回ることになるだけだよ。キミのいうところの非日常というのを忘却の檻に閉じ込めてね」



 そう言われると悩ましい。

 このまま大勢に取り込まれても今までに戻るだけ。

 それは確かに神崎の言う通り俺にとっての幸福なのかもしれない。

 少なくとも非日常的な力を持ち続けるよりも何も知らない人間でいる方が面倒は減るだろう。無関係を装い続けるならその方が良いのかもしれない。



 だが、しかしである。

 面倒が少ないからと言って記憶を封じてただ人になったからと言って幸福になるとも限らない。そもそも記憶をなくしてしまえばその状況が楽だと理解できない。

 大体の事はその状況を離れて初めて理解できるのだ。

 どうせ記憶を消された俺は結局主人公様に振り回されて「不幸だー」とか叫ぶだけだ。


 それに記憶喪失、あるいは記憶改編の御約束として元の記憶を求めたくなってしまうものだ。その先にどんな不幸が待ち受けているとしても。

 主人公でもその手の話はバッドエンドが多いのだ、脇役が上手くいくはずもない。



 そんな創作的な考察は脇に置くとして個人的な感情としても受け入れる気は無い。

 俺は別にお人よしではない。他人の思惑に従ってやろうという素直さもないし寧ろ出来ることなら色々なしがらみには反逆したい性質である。


 だが、結局のところそれも力があればできること。

 平凡で凡庸な俺には抗う術はない。気持ちがどうであれ大勢に呑まれるしかない。



「そこでボクの登場というわけだよ。キミに力を与えよう。そこからはキミ次第だ。大勢を突っぱねて生きるもよし、恭順して生きるもよし、欺き耐え続けるのもよしだよ」



 満面の笑みのダメ生物がやはりこの面倒くさい状況を更に面倒を盛る。


 考えても仕方のない思惑や真偽はさっくり放り投げるとして力をもらえるというなら願ったりだ。何をしたいというモノは無いが力がなければ何も出来ない。

 さっき自分の仕事を力の回収と俺の記憶の改ざんとか言っていた気がするのだがまあ色々あるのだろう。本人がこうして言っているのだから何かあるのだろう。



「なるほど、こういう普通悩むことを本当にあっさりと気にしないのがキミの物わかりの良さの所以なんだね。ま、話が進まないからそれは良いとしてキミの疑問に答えるとしよう。ボクがキミにあげるのは人外の芽。そこから芽吹くのはボクの力じゃない。ちゃんとボクから流れた力はしっかりと回収するよ。だから問題はないよ」



 何というか説明臭くて面倒だな。

 知らない単語も出ているので理解に苦しむが要するに俺自身が人外になるということだろう。

 物語的には某死神大戦の初期のイメージだろうか。奪われて初めて目覚める的な?



「分かってしまうボクもボクなんだろうし、言っていることは当たっているんだけどなんかあれだね。これがボクらがダメ生物であるってことなんだろうね。何でも創作で例えてしまうところとかさ。そしてそれを理解して楽しめてしまうあたり」



 自覚して頂けたようで何よりだ。俺も人生を腐らせているのでダメ生物である自覚はあるので特に反論しない。

 というよりは今はそんな事はどうでもいい。


 その人外の芽とやらをどうやって受取りどうやって使うかだ。そもそもそんなに簡単に人外になれるのだろうか。なれるから言っているのだろうけど。



「まあキミの境遇だけは特質だしあらかじめ仕込んでいるからね。それにキミも能力は凡庸だけど中身は中々に壊れているからね」


 俺の凡庸さと境遇の悪さは置いておくとして仕込みには覚えがないのだが。


「それはこの目キミが気絶した時に色々とね。いくらキミが凡庸でも死体くらいで2日も寝込まないよ。気絶したのを良いことに芽を植え付けたから色々と身体が調子を整えていたんだよ」


 なるほどね。凡庸だからと納得していたがそりゃトラウマで寝込むなんてそうそうないわな。本当に寝込んでしまう繊細な人もいるかもしれないが。


 取りあえずその言葉を信じるならこちらの存在がバレた直後から勧誘がありダメ生物さんはこの状況をある程度予測していたのだろう。あるいは勧誘時にこの話を聞かされていたのかもしれない。


 その辺も興味がないので切り捨てるとして気になるのはダメ生物さんがこうまでする理由。

 まあそれも別に是が非でも知りたいわけでもないが気になるは気になる。別に知ることが出来ないならそれで構わないのだが。



「そこはもっと興味を持とうよ。話の流れ的に大事なところだよ?」


 御話的にはそうなのだが生憎興味がないのだ。こればかりは仕方がない。ほらここ俺の意識の中でペルソナを必要としない優しい世界だし?



「……まあいいや。どうせそれがキミだからね。それ時間も無駄だからさっさと終わらせるとしようか」



 分かってらっしゃる。何事も諦めが肝心だ。

 さっさと話すが良い。別に話さなくてもいいけど。



「ボクがこうしてキミを生かす理由はやはりボク自身の為ではある。ボクら人外は人の道を外れている。どこまでいっても自分本位。協調や共栄は難しい。そしてボクの本質は生き残ること。その為にキミを残すんだよ」


 俺を下僕か何かにするつもりなのか?


「そうではないよ。言っただろボクらは自分本位。キミが人外に落ちればキミも自分本位になる。今でも自分本位っちゃそうなんだけどね」


 まあ自覚はあるな。

 だがならあんた自身の為にはならないんじゃないのか。


「そこは扱いやすさの問題だよ。人間の感情や思惑はごちゃごちゃしている。けど人外は良くも悪くも極端。そしてボクはキミの性質を多少なりとも知っている。ならばボクの目的の為に使える駒となるとは思わないかい?」


 その言い分は分からないでもない。

 だがそれでは費用対効果があっていない気がする。

 面倒な組織に存在を知られて仲間になり裏切る。そこまでして得られるのが使えるかもわからない駒ひとつ。どう考えても釣り合わない。

 ともすれば他に何かあると思ってしまうのが必定。


「まあそう思うよね。こんなの割にあっていない。ボクの本質からも逸れている。けどまあ仕方がないよね。これはボクからのお礼だから」


 は? お礼?


「そう、お礼だよ。ボクの本質は生き延びること。死ぬことへの恐怖が強かったから人の道を外れてでも生き延びようとした。幸か不幸かボクに人外の素質があったから生きるための術を多く獲得できた。それからかれこれ数百年生きている。けど長年生きているうちに気持ちが薄れていくんだよ。下手に大きな力があるから死にそうにもならない。だから温くなる。本来の願いも薄れていく。ボクを追いかける奴らも化け物だから死への恐怖もない奴らばかりだ」


 心が摩耗する、という奴だろうか。

 理解は出来ないが創作ではそうなっていることが多いな。


「で、そんな時に偶然に出会ったのがキミだ。ポッと出てきたキミはボクを前にして恐怖して慄いて動けなかった。実に無様だったよ。でもそれがボクの本来の姿でもあった。そしてキミの心臓を介して伝わって来た『死ぬのが怖い』という気持ちがボクの本質を思い出してくれた。これはボクにとってこれ以上ない贈り物だよ。これでまた数百年は生きていられる。あとはキミが死体を見て気絶した時も情けないと思うと同時に本質を揺さぶられたよ」


 何というか何というかだな。

 何を言っても俺が抉られるしかないので流そう。


「ボクの勝手だけどキミには少し恩を感じた。本質、死にたくないという気持ちを思いだせたからね。だからキミに力をあげる。これがボクの今回の理由さ」


 今回の理由さ、などといわれてはいそうですかと思えるはずもなく話半分で受け止める。

 元々それ程興味のあることではないし重要でもない。嘘でも真実でもどちらでもいい。ならば一応真実という事にしておこうというくらいの気分だ。


「うん、やっぱりキミは物わかりが良くてどこか壊れている。人外の素質があるよ」


 人外の素質か。

 ちょっとまてよ、これは馬鹿にされているな。


「あははは。ま、これはあれだね、そんなことは良いとしてっというやつだね」


 確かにどうでもいい事だな。


「まあキミにはどうでもいいだろうけどそう言う理由で力をあげる。それをどう使おうがキミの自由だ。けどまあ簡単にピチュンされても面白くないから少しだけ助言。人外の力はキミの願いに絶対の力を貸してくれる。けれどそれだけだ。キミも自称しているようにキミは平凡で凡庸。そこをはき違えるとキミの一生は簡単に燃え尽きるよ。ま、キミが起きてそうそうピチュンされてもボクには関係ないことだからいいけどね」


 分かっているさ。俺は所詮友人A。大望なんて抱かないさ。


「それじゃあ長々と話しちゃったね。どうせ現実では一秒も進んでいないのだからだらだらしてもいいんだけど無駄だからね。これまでとしておこうか」


 確かにまあ無駄だわな。

 これだけ話したのにあまり益はなかったわけだしね。


「あははは。手厳しいね。その辺は自分で頑張るしかないよ。それこそボクには関係のないことだからね」


 そりゃごもっとも。


「そんな訳で、じゃあ精々頑張って生きるんだね」


 そう言うとチヤは消え去り俺の意識も遠のいていった。


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