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友人Aの反逆日記  作者: みくじ


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28/123

5-11


 当たり前の事だが現実は御都合主義で回っていない。

 敵が無計画で行動するとか情報を勘違いするとか相手との相性がいいとか。

 そういった偶然が必ずしも起きるわけではない。


 現実は実に理不尽で面倒なのだ。


 勿論結果から振り返ってみれば都合がいいだけ、運が良かっただけということもある。

 例えば桶狭間で織田信長が今川義元を破ったがそれは雨が降ったため奇襲が上手くいったという。

 その事実を捉えて「雨が降るなんて御都合主義だ」なんて言う人はまずいないだろう。

 そういう観点で見れば物語の主人公が都合よく上手くいくのは当然なのかもしれない。成功し英雄となった人の物語なのだから全てが上手くいくのも当然。

 逆に英雄なんかではない歴史に名の残らない大名にはそういった好都合は起きないのだ。

 それはいいとして。



 兎も角、現実において相手あるいは敵が容易に隙を見せてくれるなんてことに期待出来ない。何か行動をしているのに必要な情報を集めない根回しをしていないなど期待出来るはずもない。


 だからここでのチヤの登場に動揺することは無いし俺の傍ではなく神崎の横に、彼方の味方とでも言うように立っている事に対して特に感情は揺さぶられなかった。



「チヤさんよ黒字で終えたというけれどどれくらい利益があったのよ」

「払戻金額は32400円だよ。どうだすごいだろう」

「へえ。で、購入金額は?」

「……32000円」

「すごいじゃないかチヤさん。400円も利益がある。流石じゃないですかチヤさん」



 状況に則さない普段通りの会話を繰り広げる。


 それに神崎は不快そうな表情をする。


 神崎は俺にどんな反応を求めていたのだろうか。

 状況を理解して絶望する。理解できずに騒ぎ立てる。不運に抵抗して見せる。現実にうちひしがれ大人しくする。

 少なくとも平然としているとは思わなかっただろう。


 もしかしたら自分の不利を分からせて従わせたかったのかもしれない。

 自分の状況を理解して主人公の相棒に戻ってほしかったのかもしれない。


 だがそんな思惑など気にしてやる義理も義務もない。

 こんな状況であっても俺は俺でしかない。


 神崎を無視して平常運転でいるとチヤがため息をついた。



「しっかしじゅんじゅんの物わかりの良さってどうなんだろうね。ボクの登場や裏切りに驚いてくれてもいいのに。ここはじゅんじゅんが『裏切ったな俺を裏切ったなぁあ』と信じることを止めるところだと思うんだけどな」

「生憎普段から面倒は慣れてますからね。そうそう驚きませんよ」



 良くも悪くも俺には大望がない。だから想定外のことが起きたとしても必要以上に慌てることは無いし悲観的になることは無い。

 別に世界を壊してまで救いたい妹などいないのだから。


 それに、だ。



「珍しく言葉を間違えたな、チヤ」

「ん? どういう事だいじゅんじゅん」



 すっとぼけた表情のチヤ。

 確かに理解していないように思える表情だがその表情が本物ではないのは容易に想像できる。神崎には分からないだろうが、あるいは分からないようにしているのだろうか。


 いつもならこんな会話などしないのだがどうやら今は普段ではないらしい。

 どのみち俺に出来ることは精々時間稼ぎなのでチヤに合わせて御約束として会話を続ける。



「裏切りと言ったけどそれは違うだろう。俺たちは別に協力関係にあったわけではないし契約していたわけじゃない。あくまでも一方的に利用して利用されただけだろう。これは裏切りでも何でもない。予測された結末だ」



 俺とチヤは契約者でもなければ共犯者でもない。

 だから一方に不都合が起きた場合、あるいは利益が得られる場合相手のことなど簡単に切り捨てられる。

 そして力があるのはチヤだけ。

 チヤに何かがあれば俺がいずれ捨てられるなど分かっていたことだ。



「まあじゅんじゅんの予測通りこうすることがボクの益になるからやってることだね。ここしばらく僕は人間に対して明確な敵対行動をしていない。学校占拠の時なんかは協力した。だからボクが有用だと判断された。面倒だけどある程度協力すればボクが狙われることは無いという事だよ」

「つまりより寄生しやすい幹を見つけたから俺を捨てると」

「まあそんなとこだね。そして最初の仕事がキミの始末。勿論殺すんじゃなくてキミに流れたボクの力の回収と記憶の改ざん。つまり今ここでじゅんじゅんとさよならというわけだ。それで予測していたくらいだ。何か対策を練っていたんじゃないのかい?」

「分かってるだろ、そんなものもないことを。俺はあくまで一般人。物語でいうところの個別名も貰えない友人A。悲観な未来が見えたとしてもそれを変えられる力なんてないんだよ」

「てっきり新しく家に来ていた使用人に何かさせるとか主人公くんを引き入れるとかそう言うのを準備していると思ったけど」



 チヤはそう言うが本当に何も準備していない。

 所詮俺は歴史に名を残せないタイプの人間なのだ。何をしたって無駄である。強者に絞り取られる弱者でしかない。抗っても抑え込まれるだけだ。

 それに備えは確かに大事だが考えすぎもそれこそ杞憂だ。


 それにしてもこうしていつも通りの会話のまま家に帰れそうな気分である。


 だが現実はそう甘くなくあっさりと打ち切られる。



「これ以上は時間の無駄よ。竜泉寺の方も何とかしなければならないのだからこちらで手間なんて取っていられないの」

「そうだね。こんなところで時間時間の消費なんて無駄でしかないからね。ボクもさっさと帰りたいし」



 やはり現実とは残酷だ。

 冷淡で人生に面白味を見出さない二人は手早く打ち合わせをして処理を決めていく。物語のようにくっちゃべって好機を逃すことなんてない。

 勿論その間俺は指ひとつ動かせずチャンスのかけらもなく唯々終わりを待っていた。



「さてじゅんじゅんこれにてお別れだ。許しは請わないよ?」



 そして準備が整うと何の躊躇も余白もなく胸に手が穿たれた。


 人生二度目の胸ズボッである。



 そのまま何かできることもなく何かに助けれることもなく意識を失った。


 幸いは痛みが無かったことだろう。

 本当にそれだけが幸いだ。



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