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パーティーと言っても本来高校生がするものなど大したものではない。
ただたこ焼きを作って食べる会、通称タコパ。
ただ鍋を囲み食べるだけの会、通称鍋パ。
大体において高校生のパーティーなどその程度だ。集まって騒ぐ。そのことを格好つけてパーティーと呼んでいるだけだ。
本来ならば。
だがしかし。
主人公様御一行に連れてこられたのは誰かの家とかではなくの洋館。それも学校近くではなく車で1時間ほどかけて郊外の別荘地のような高級住宅街。こんな場所あったっ気と驚くほど豪華な街並みにあるもっとも豪勢な館。
その移動だって電車とか自家用車ではない。日本に場違いな普通のリムジンだ。いや、リムジンに普通も何もないのだけれど。
そして洋館の中もこれまた豪勢。室内の調度品は見るからに高級品ばかりで貴族たちの集まる場所という偏見をそのままにした感じ。料理も当然豪華でテレビで高級だともてはやされている名店と呼ばれるお店が出張されている。
何というか、本当に本当のパーティーのようだった。
本当のパーティーなど知らないけど。
そんな小市民じみた驚きを抱いたのはどうやら俺だけではなかったらしい。
「可笑しい。こんなの可笑しい。ふざけていやがる」
そう漏らしたのは猫被り系女子神崎だった。
どうやら神崎もパーティーをするとは聞いていたがどういったものか詳しく知らな方らしい。当然のようにリムジンに驚き洋館に驚き料理に驚いた。
さて、なぜこんなネタ的に真っ当なパーティーになってしまったかといえば主催者の問題である。
今日の主催者はキャロル。
そう、欧州のどこそかの会社の社長令嬢である。
これまたネタ的に真っ当に間違えてパーティーをすると聞いて社長令嬢としての普通のパーティーを準備したらしい。いやはや流石である。
処理班系としては頭の痛いところだがそれほど問題はないので見逃した。
決してリムジンに乗ってみたかったとか出張できた名店に屈したとかではない。
因みに神崎は外面の所為で料理にがっつけないでいる。生憎どうでもいいところまで手を貸してやる義理も義務もないので微笑ましく眺めていた。
だが、平穏無事に料理を食べるだけではいられないのが処理班系登場人物の定めでもある。
主人公が無邪気にパーティーを楽しみヒロインが姦しくバトルを繰り広げるなかで巻き添えになっていた。 集団から少し離れたところにとあるヒロインに呼び出された。
青の豪勢なパーティードレスを着た主催者様、キャロルである。
「斎藤さん少し宜しいかしら」
「零王ちゃんはあそこで他の子とよろしくやってるけどいいのかな」
「それはよろしくないのですが、私に少し作戦がありまして」
「作戦ですね。はいはい」
作戦。つまり非日常的なあれこれなどではなく如何に主人公と密接になれるか如何に思いに残る何かが出来るか。その為の策謀である。
そんな色々と策を廻らすとはキャロルも必死だなと思う。だが残念なことにヒロインの大半がこういった策謀を恥も外聞もなく行うので手に負えない。寧ろ策謀を褒め称える節があるので本当に手に負えない。
それも個人で全て用意してすべて一人でこなせるのならまだましなのだがこうして脇役を巻き込むので実に面倒なのだ。
主人公視点で書かれる物語は出来事が簡単に起きる。だがしかし現実は主人公様だけで成り立っているわけもなく主人公様がきゃっきゃと楽しんでいるハレムの外ではこうした地道な努力が行われておりモブが良いように使われているのだ。
さて、主催者であるヒロイン様の要望は主人公とダンスがしたいとのこと。
ならば素直に頼めばいいと思うのだが
「がっついていると思われたくない」
「迷惑な事を言って嫌われたくない」
とのことだ。
乙女かっ!
いや、乙女も普通に主人公と楽しんでいるけど。じゃなくって。
正直他人の色恋沙汰など面倒でしかないのだがこの程度なら引き受ける。基本的に自分が何かするわけではないしある程度場を設ければ勝手に走りだしてくれるのだからやることは少ない。
走りだした先が見知らぬ場所という恐怖もあるのだがその時は脇役などお呼びではないので何とかなる。たぶん。
一番面倒なのはこういった細かいことを無視して自分のあずかり知らぬところで暴走が始まっていることだ。そうなった場合割を食うのが大体主人公ではなく脇役。処理班系登場人物とは大変なのだ。
一先ず人畜モブ的なあたりさわりのない態度でキャロルと向かう。
「こんなすごいパーティーに招待されたのだから女性の頑張りには手を貸さないこともないけれど、具体的にどうするんだ?」
「そうですね。一応この会場はダンスホールとしても使用可能ですのでそれを見て見たい、とで話題を振って頂けますか。それに合わせて私がレオ様をダンスに誘導しますので」
「それくらいならお安い御用だが、それだけで大丈夫なのかい」
「ええ、大丈夫ですわ。全て私に任せてください」
なら何もしなくていいですかね。とか言わない。思っても言わない。不毛だから。
というよりも自信満々の高飛車系美人のキャロル様だが実に不安だ。
キャロルは冷静で平穏で感情が上手く抑えられていれば利発的なのだが現実、本番に弱い。というか普通にダメっ子だ。
実に不安で処理班系登場人物としてもどかしくなるのだが一先ず彼女の作戦に乗って進めることにする。
姦しくしている主人公様方に近づき気さくに声を掛ける。
「お、零王も美味そうなものを食ってるなぁ。そう言えば零王、この部屋なんだがダンスホールとしても使われるらしいってさ。だから場所を作れば踊れるらしいぞ」
「ふぇー、そうなんだな。けど潤ってそう言うのに興味あったっけ?」
「いやいやー、こういう豪勢なパーティーっと聞くとやっぱりダンスじゃないか? ほらよくあるじゃないか貴族の夜会とかでさ」
「そう言われればそうだな。確かにこの部屋は貴族様って感じがするな」
実に薄っぺらな三文芝居が繰り広げられる。
とは言えそんなことを感じているのは俺くらいのようで主役様方は普通に流している。まあモブの機微など気にされるはずもない。
それはさておき打ち合わせ通り話を持って行ったのだが一向に援護が来ない。こっそりキャロルを窺うがあわあわして話に入り込めないでいる。
流石ダメっ子。
安定のポンコツ具合である。
あまり世話を焼くのも本人の為にはならないという建前とは別に面倒という本音があるのだがこのままというわけにもいかないので話の処理を行う。そして出来るだけ自分に楽になる方向へ誘導する。
「ま、そんな訳で折角だから踊ってみたらどうよ」
「はあ? なんで俺がさ」
「いやいやこんな場所でパーティーなんて滅多にないんだし何事も経験だよ、経験。それに女の子たちもこういう会場は憧れるんじゃないかな。ほら、王子様に選ばれて一曲踊るとかさ」
それっぽい言葉を放り投げるとヒロインたちは餌を投げられた鯉のように群がる。話が動き出せば脇役など無視して主人公の説得とヒロイン同士の覇権争いが勝手に行われる。
後はヒロインの説得虚しく踊れないという理由で逃げようとする主人公に「誰も気にしない」や「勉強を見てもらったお礼」とか適当に逃げ道を封鎖していく。
話の流れで全員と踊ることになってしまった時キャロルからやや不満そうな視線を頂いたが見なかったことにした。自らやるといった癖にやらず他人のおこぼれなのに不満を持つあたり流石は持っている側の人間だ。
勿論俺はモブなので苦笑いで謝っておいた。
因みに全員という中には俺の事は含まれていない。だが神崎は含まれている。
巻き込まれた仕返しにと火中に放り込んだ。
そして最後に踊ったことがあだとなりある程度こなれた主人公様と一番息があってしまい修羅場へ突入した。
主人公様が「委員長とが一番相性いいかも」とか言いだしたので当然の結末である。
そんな平和な時間が流れた。
だが、主人公とヒロインが終結して何も起こらないなんてことは無く当然のように物事は起こる。
炸裂音が弛緩した空気の中で響き平穏が終わった。