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軽く食事をすませた後、燕尾服と出かけた。
いや燕尾服は既に燕尾服ではない。
服装は以前チヤが購入して箪笥の肥やしにしものから適当に見繕ってもらった。流石に燕尾服を連れて街を歩くメンタルは持っていない。
西洋人風の容姿も目立つので少々変更してもらった。
本人曰く元は日本人だが素顔は嫌という事で適当に作ってもらった。
容姿を変えることである種のロールプレイをしているのだと思う。知らんけど。
身長は俺よりやや高く170程。胸囲は無くはないが大きくはない、貧乳とも巨乳とも言えない適乳。腹部引き締まっているが腰回りはやや大きめ。肌は色白できめ細やか。小さな顔に目鼻立ちはくっきり。髪は短くウルフカット。左目に泣き黒子がある。
普通に美人である。
そりゃ自由に整形出来るのだから美人になるのは当たり前である。加えて俺の要望も伝えてあるのだから好みの容姿になるのも当たり前である。
もっとも全てをカスタマイズしたわけではない。流石にリアル使用人に自分の性癖をぶつけられる程メンタルは鍛えられていない。
少しの個人的な要望と個人的に好きな作品とヒロインを解析されて妄想といらん言葉によって生み出されたのがこの美人さんである。
とは言えやはりヒロインよりは見劣りしてしまう。個人的な好き嫌いでは勝つこともあるだろうが客観的な美醜ではやはりモブである。
それでも普通に美人なわけだが。
名前は今宮綾香となった。
母方の旧姓に適当な女性の名前を付けた。名前に特に意味はない。取りあえず呼びやすい3文字の名前を考えて身近で被っていない名前を適当に考えその中から本人に選んでもらった結果だ。
正直クレーやベンサムでもよかったのだが出来上がった美人フェイスで普通の女性の名前を懇願されたので適当につけた。
女性のおねだりほど面倒なものは無い。
年のころは20歳程度。大学生にも見えるが大人びた高校生にも見えなくもない。具体的な年齢の設定は取りあえず保留になった。
因みに本体の年齢は非公表とのこと。
「なんだギャルババアか」
といったら普通にビンタをもらった。
忠誠心のない使用人である。
そんな『綾香』と買いだしの道中である。
綾香に軽食を作ってもらったのだが寝込んでいる間にチヤは容赦なく食材を消費していたためまともに一人前の食事を作れるほどの材料は残っていなかった。
チヤ曰く人外は食事による栄養摂取は不要という事でその関係者である俺も必須というわけでもないらしい。だが人間としての感覚が残っているので買いだしに出た。
勿論不要というのなら食べるなよ、なんて不毛な問いかけはしない。
「潤はお尻の大きい娘が好きなんですか?」
スーパーへの道中で伝えた数少ない性癖に対して問いかけられた。
仕えると言われたため仰々しく敬語だったのだが普通に面倒なので口調を矯正してもらった。普通の男子高校生にメイドとか家令は大層すぎる。おせっかいなお姉さんとかで十分だ。それだって現実ではあまり見ないのだが。
男子高校生としては性的趣向を聞かれる、それも綺麗な異性に、というのは色々とクルものがあるのだがそんなことで狼狽などしない。
特に気負わず普通に答える。
「好きか嫌いかで言えば嫌いじゃないかな。どこがという具体的なものは無いけれど感覚的に視線は惹かれるわな。もっとも、大きければ何でもいいわけじゃないけど」
「なんでもいいわけじゃないという事は形とかこだわりがあるのかな」
「いや、そんな詳しいものじゃない。単純に全体的に体積が大きくて尻も大きくなっていたとしてもそれは魅力的ではない、という話だよ」
別に女性に対して詳細な趣向は持ち合わせていない。別に腰回りが大きかろうと小さかろうと、背が高かろうと低かろうと茶髪だろうと金髪だろうとさほど変わらない。
なのでぺたぺたとお尻を触る姿など、あまり見ない。
外見などあまり意味がない。
ただ例外としてふとっ……いや、不摂生が過ぎる女性は嫌いだ。生理的に。
「そういうものなのかな。大体の男の人は大きな胸の方が好きみたいだし。前の方も容姿に無頓着だけどグラマーな体型にすると態度が良かったし」
「まあ分かりやすい特徴だからじゃないかな。一応自分にも男としてその反応には理解できるし」
「そうなの? この中途半端な胸は潤の希望だったけど。大きくする?」
「いや、そのままでいいよ。大きな胸は嫌いじゃないが大きな胸の女性というのはあまり好きじゃないから」
「んん??」
男としてやはり巨乳とは惹かれるものだ。性欲的に。
だがそれは別として個人的に胸の大きい女性は好きでは無い。正確には大きな胸を自覚してそれを武器だと感じている女性だ。全体的な魅力もないのにそれがあれば優れていると魅力的だと驕っている人物が多いので好きではない。
特にふとっ……不摂生が過ぎる人とか特に。
ま、そんなことはいいとして。
周囲の目線を気にせず体を触りまくるギャルババアに呆れつつ少し口調を真面目にして見せる。
「仕えるとか言っていましたが残念ながら自分には大望とかありませんので基本的に家事手伝いになると思いますよ」
「それはチヤ様からも聞きましたが、問題ありません。私の目的は仕えることであって主に何かをさせるわけではありませんから」
「自分には大層な力はありませんから何も守れません。それこそ前の主様とやらのように生きるためにあなたを使い捨てるかもしれませんよ」
「構いません」
俺の酷い言葉を綾香はしっかりと受け止める。面倒なことだ。
もっとも真面目な雰囲気を出した俺をよそに未だ体を触り続けているあたり真面目に聞いていないのかもしれない。
だがそれならそれでそう扱おう。別に思いやりで言っているわけではない。
本当に友人Aには何かを守れる力はないしその気概もないのだ。
「それにしても意外ね。チヤ様は潤は基本面倒くさがりで必要のないことはしない。必要なことでも聞きもしないと言っていたのだけれど。優しさではないのかもしれないけれど声かけはしてくれるのね」
身体を調べ終えた綾香はしっかりと聞いていたようで俺の声掛けが意外に思えたらしい。
「何も聞かないのはあれが言わないし莫迦にしてくるから面倒なだけだよ」
何もしないのは確かだが何も聞かないのは俺の性格ではない。面倒なことは控えて欲しいので情報は大いに越したことは無い。
御約束とか展開とか無視してネタバレしてほしい。
だがあのダメ生物は色々と扱いが面倒なので関わること自体が面倒なだけだ。
「あとはまあ、言わなくても分かる、ていうのは傲慢だと思っているからかな。少なくとも自分の意思は伝えるようにしているんですよ。そして相手の話も一応聞くようにしている。勿論聞いたところでそれに従う、合わせてあげるとは限りませんが」
他人に聞いたところで真実かどうかも分からないので自分で考えていることも大いにある。
だがそれは別として察しろとかそう言うのが嫌いというのが大いにある。
処理班系登場人物として色々と働かされている性としてその察しろというのが非常に鬱陶しく思うのだ。何かして欲しいならしっかりと伝えろと。最低限のこともしないでふんぞり返るなと。
そう言った個人的な主義の為、自分は違うと示すためだけの行動だ
チヤはあんな生き物なので何も言わなくとも聞かなくとも問題ない。だが新しい同居人も同じとは限らない。柄にもなく色々と言ったがその為のポーズである。
綾香は理解していたが優しさでも何でもない。
単なる時間潰しだ。
「ま、そんな訳でよろしく頼むよ」
「畏まりました。全身全霊でお仕えさせていただきます」
画して友人Aの家に使用人がやって来た。




