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 主人公たちの日常から離れて一人昼食を取る場所を探す。


 残念なことに文殊高校には学食はなく自由に使える空き教室も少ないのでぼっちの行き場は少ない。便所で食事をとれるほど精神は鍛えられていないので適当に体育館近くで食べることにする。



 いやはやぼっちは実に落ち着く。

 

 どうしてこう社会は1人というのを怖がるのだろうか。そりゃ複数人で盛り上がり楽しむことの良さも分かるけれど1人が悪いわけではない。

 気ままで気楽でいいじゃないか。



 のんびりと1人飯をしていると男子生徒がぞろぞろとやって来た。

 バスケのボールを持っているので体育館で遊びに来たのだろう。上履きの色からすると2年生。俺には関係のない連中である。


 その中の内数人が俺に気付き何やら言葉を交わす。

 そして何やら下品な笑い声をあげると集団から離れこちらへ歩いてくる。その面子には顔見知りはいないはずだが、直感で分かる。



 あ、これ面倒なヤツだ。



 処理班系登場人物の性として面倒な輩の下衆な思惑は容易に想像出来てしまう。無害系主人公と違い人の負の感情は理解出来てしまう。

 何を理由にされるかは不明だが恐らく絡まれる。


 いっそ逃げるかと考えるがそれも面倒なので大人しくする。この手のくすぶりは逃げたって消えてはくれない。寧ろ雪だるま式に増えたりするので面倒なのだ。


 そんなのは思い込みだと自意識過剰なだけだとわずかな希望に縋ったがやはり現実は優しくなかった。



「おや今日はぼっちなんだね。えっと、サトウくんだったけ?」

「どーも」

「いやいや、そこはあれでしょ。斉藤さんだぞって言わなきゃ」



 やはり面倒な輩だ。というよりウザい。


 やれやれどうしたものかと主人公のような気持でいると面倒な輩の中に見覚えのある顔を見つける。

 確か御幸に告白してフラれたイケメン先輩モブ。名前は知らない。

 いよいよ面倒な未来しか見えないぞ。



「それで何か用ですか?」

「なんだい。君には用事がなければ声を掛けていけないのか」

「ええまあ」



 こいつら本当に暇だよな。

 そりゃまあ高校生の昼休みなんて殆どすることは無いから暇なんだろうけれどさ。声を掛けるならもっと相手がいるだろうに。いやその相手に断られたんだっけか。流石モブ。

 ヤダ、なんか急に親近感は湧かないけどというか嫌悪感が薄れてきた。


 そんな阿呆なことを考えていると面倒な輩が面倒なことを言いだす。



「斎藤君さぁちょっと顔を貸してくれないかな? ほら色々と話たいことがあるんだよ」

「まあ話したいことっツウか、語り合いたいっツウか?」

「一方的に教え込みたいだけなんだけどね」



 輩どもは下衆な表情で笑う。そんな笑い方をするからイケメン先輩だというのにモブだというのだ。

 もっともそれは主人公の既に居る物語での話なので普通に生活していればそこそこ良い感じの生活が送れるだろう。というかそれなりの生活は送れているのだろう。


 なんとなく言いたいことは分かった。

 要するに苛めのお誘いだ。



 どういった事情があるか知らないが俺は彼らにとって目障りらしい。それもたまたま見かけた時に突発的にやってしまいたくなる程度にだ。

 何故だろう。何もやった覚えはないんだけれど。


 ま、そんなことを考えても意味はないので現実を見よう。どうせ面倒な輩の理由など大したことではない。大したことであってもどうでもいい。



「君の友人についてちょっくらあってね。君から言っておいてほしいんだよ」

「そそ、1人くらいこっちに流してくれてもいいじゃないかって」

「おかげでイケメン様は恥をかいちゃったしな」

「うっせ」



 やはり大したことではありませんでした。


 さて、どうしたものか。

 簡単なのは逃げること。

 別にマヌケだ逃げ腰だ弱虫だと罵られても痛くも痒くもない。問題は逃げたところで根本的な解決にならないので今後同じ目にあう可能性がある。


 それならば一度の痛みを覚悟していじめられてみるか。携帯電話で録音録画しておけば今後の対処にもなるだろう。今日日いじめは大問題なのでなあなあにはならないだろう。

 問題は一度被害を受けなければならないという事だが。

 身体的に痛いのはちょっと勘弁してほしい。


 あれこれと対応を考えていると思わぬところから助けがやってくる。



「斎藤君こんなところでどうしたの?」



 輩どもと反対側、背後からかけられた女性の声。その声には聞き覚えがある。

 振り返るとそこには黒髪眼鏡の委員長然とした女子生徒が立っていた。



「ああ、委員長か。たまには1人で昼食を取りたくなっただけだよ」

「そう。それで、そちらの……先輩方は?」

「さあ? そこんところどうなんでしょうか。先輩方」



 通りすがりの女子の手に縋るのは情けないことこの上ないのだが背に腹は代えられないので手を取らせてもらう。

 何でもない様な口調で輩どもに注意を戻すと微妙な表情で止まっていた。


 

「別に何でもないよ。見知った奴がいたから声を掛けただけ」

「そそ。何にもないよ。なーんにもね。だからそんな怖い顔をしない」



 突発的な行動でそれ程根深い何かでは無かったのだろう。高圧的な雰囲気は消え去りそそくさと尻尾を巻いていく。



「なんだったの?」

「さあ」



 委員長は不思議そうに尋ねてくるが俺自身正確に把握していないので適当にはぐらかす。


 大体の事は把握できる。

 どうせヒロインに手を出したはいいが相手にされなかった。それの腹いせだろう。

 しかも主人公様に直接手を出す勇気はなく、またヒロインに何かをするのはためらわれる故当事者ではないけど無関係でもない相手に向けられたのだろう。

 それも本気で何かをしようとしたわけではなかったが偶然ぼっちでいるところを見つけてこれ幸いと行動に移したのだろう。

 大体において加害者というのは物事に対して重大さを理解していないものだ。



「あ、あの、斎藤君」



 訝し無委員長をよそに平穏をあり難がっているとまたしても声を掛けられる。

 見ると可愛らしい、とは言えヒロインズよりは二段ほどグレードが落ちる、女子生徒が恥じらいながら立っていた。

 そのもじもじした様子はまるで告白直前の乙女だ。


 あ、これはあれだ。

 面倒な奴だ。


 やはり処理班系登場人物には危機管理センサーが搭載されており勘違いで浮かれたりなどしない。


 恥じらい少女の後ろに友人らしき少女2名が背中を押しているがそれは決して恥じらい少女の為の思いやりではないことも知っている。

 勿論、恥じらい少女の目的が俺でないことも知っている。


 どうしてこう面倒は続くのだろうか。



「あ、あの、斎藤君。こ、この手紙を、りゅ、竜泉寺くんに渡してくだしゃい」



 ほれ見ろ、主人公様のご登場だ。



「こ、この前友達と遊びに行ったとき怖い人に絡まれててその時に竜泉寺くんに助けてもらってそのお礼を言いたくて……あ、べつに付き合いたいとかそう言う告白じゃなくて、それもないことは無いけれど周りの綺麗な方たちが怖いし……じゃなくってお礼が言いたかったんだけど勇気がなくって、だからせめて手紙を書いたから、渡してくれないかな斎藤君」



 何というか流石主人公様だ。

 普通ほぼ見ず知らずの女子を絡まれていたのを助けたからといってお礼が言いたいと言ってくれるような女子はいない。偏見かもしれないが現実の女性とは物語に出てくるような純粋な人ばかりではない。


 モブが一般女性を助けても「何よあんた」と言われて去られるだけだ。

 それは良いとして。



「そういうことなら手を貸してあげるのも吝かじゃないんだけど。こればっかりは出来ないんだ。ごめん」

「なんで! もしかしてあの女たちに止められているの!?」



 あの女たちて。やはりそういうのが女性の本性か。

 少し荒れている女子を落ち着かせ努めて真摯に答える。



「そうじゃないよ。キミが竜泉寺にお礼を言いたいというのなら手伝うよ。でもその手紙を受け取って竜泉寺に渡すというのは違うと思うからさ。そういうことで竜泉寺は迷惑だなんて思わないよ。周りのあいつらだって、口では文句言うかもしれないけどキミを止める権利は無いんだし」

「で、でも」

「じゃあ今連れてくるよ。それでキミが直接渡す。それでいいだろう? 女の子たちが何か言うようなら止めるからさ」

「それ、なら」



 渋々といった様子だが口元が緩んでいるのが分かる。

 自分から直接渡すというのは積極的過ぎて悪く見えるかもしれない。周りからも敵視されるかもしれない。でもこいつが勝手にしたことなら私には悪いことではない。何かがあればこいつの所為にすればいいのだから。

 という感じだろうか。


 やっぱり女子って怖い。



「じゃ、連れてくるからここで待っててね」

「うん」



 そう言うとさっさと走ってその場を離脱する。後ろから「廊下を走るな!」という声が聞こえたがガン無視である。


 一人走る廊下で思う。

 勝手にやったことだが何というか何というかである。

 俺も結局いいやつで後半出番がなくなる友人Aのポジションにも慣れてきたものだ。


 面倒だと断ればいいのにな。

 何故か良い人のようにふるまってしまう。別に善人じゃないのに。


 これもまた友人Aである定めだろうか。

 ホント面倒だわ。



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