5-2
授業を終え主人公を補習という名の地獄に残し面倒な男装ヒロインの愚痴を聞き終えて帰路につく。
愚痴を聞いたからと言ってどうこう心情が揺れ動くことなく良いように使い捨てられてぼっちで帰る。
ひとりとぼとぼと歩いていると学校から少し離れた場所、複合施設のある街の中心部の方に火柱がド派手に立ち上がる。それも複数の火柱が天を突く。
しかし街を歩く人はそれに気がつかず、そのことを認識できずに受け流している。
普通に異常な状況。
慣れてはきたもののやはり落ち着かないというのが心情だ。街中に火柱が上がるというものもそうだけれどそれを誰も気に止めていないというのが奇妙でしかない。
ただ気にしたところでどうにかなるモノではないので慣れるのを期待しよう。
今日も今日とて人外や異能者がやって来たのだろう。それにしてもド派手に雑に苛烈な圧からするとキャロルが暴れているのだろうな。
迷惑な事だ。
だが、神崎が今日も今日とて必死になっているのだと思うと色々と思わないでもない。
勿論可哀想とか大変そうとかではなく、必死に動いていると思うとなんかこうグッとくる。うん、我ながら酷いな。
『いやーほんっとあの子ド派手だねー。そんなんで誰も殺さず被害を出さずだからホント恐れ入るというか恐怖でしか無いよね。あれを無差別に街全体にやられたらボクでもちょっと大変だ』
火柱に気を取られていると知らぬうちに子ネコに頭をとられてしまった。
「毎度思うんだがお前どうやって現れてんのさ。気配も何も分からんのだが」
『そりゃそうだよ、じゅんじゅん。自分の気配や臭いなんてものは自分自身で自覚することは出来ないからね。前も言った様に君はボクの一部と言っても過言ではない。だから気付かなくて当然よ。ま、その辺はマンガではよくある手だろう?』
そういうものかね。
よくは分からないけれどそういうものなのだろう。そうしておこう。どうでもいいし。
「それで今回は何の用事なんだ。今日こそは何かこそこそとするのか」
『なにを馬鹿なことを言っているんだお前さん。そんな面倒なことをボクがするわけないじゃないか。それにそんな面倒をするとしてキミは手伝うのかい?』
「助けない方が面倒になるのなら手伝いますが基本はお断りですね」
『ボクだって面倒はお断りさ。それにやるなら一人でやるよ。キミを守りながらなんて面倒だしね』
確かにそこそこ非常識なことは出来るが所詮凡人。最底辺ではないにしても下位グループであることには間違いない。不用意なことでピンッと命を散らしかねない。
そんなことは自覚しているので手伝いではなく足手まといと判断されても特に感じない。
「それじゃなにしに来てんのよ。邪魔なら帰ってくれるかな邪魔だし」
『邪魔とはずいぶんだねぇ。これでもボクはじゅんじゅんの主なんだよ? 下僕は主の、部下は上司の言うこと聞くものなんだよ?』
「今時の部下は上司の不正を暴いて蹴落とすもんなんですよ」
今時上司だ部下だとかそれほど関係はない。やられたらやり返すというのが今の風潮だ。
それに適当に理屈をこねて何とかハラスメントとか言えば大体何とかなる。勝手に世間様が騒いでくれる。
そもそも部下でもある時でもないのだけどな。
そんなことはどうでもよくって。
「で、何をしに来たんだ? 違うな。何をしてほしいんだ」
このダメ生物さんが意味もなく行動するはずもない。少なくとも俺と関わろうとするのには理由がある。それも態々こうして外に出てきているなら尚更だ。
『いやー、理解が早くて助かるよ。じゃあ手短に言うけどさ。ほら、そろそろ年末じゃん? つまり有馬じゃん? ネットをポチるだけじゃ情報不足だから雑誌でも買おうかと。今なら皆さんの視線はあっちだろうし』
「別に雑誌くらいそれこそネットでポチれば届くだろうに」
『だってネットだと内容わかんないじゃん。ちょっと立ち読みして確認したいし』
チヤの言うことはもっともだ。本はやはり本屋で買うのがベストだ。試し読みをし過ぎるのはマナーが悪いし個人的に大いに嫌いなのだが多少中身を確認したりしたいものだ。冒頭だけ軽く呼んで惹かれて買うなんてこともある。
だがそんな本屋論は生憎俺が従う理由にはならない。あくまで個人の主義主張だ。
それに立ち読みするのなら猫の姿ではなく普通に人間としていけばいいのだ。ここ最近一人で競馬場廻りをしているようだし社会に適合していないわけでもないだろう。
つまりここに来たことにはしっかりとした意味があるのだ。
何となく予想がつくが一応しっかりと尋ねる。
「素直に用件を言え。用もなしに何かをするなんて思っちゃいない。何かあるんだろ。生憎自分は言わないことを察するなんてスキルは持ち合わせていないんで」
『分かってるね、じゅんじゅん。じゃあさちょちょっとお金貸して? 有馬で勝って返すからさ』
やはりこいつはダメ生物だ。