3-2
テストを終え放課後。
絶望顔の主人公様をヒロインどもに押し付けて物語からさっさと退場。
テスト期間は午前中で学校が終わるので時間があり余る。そんな中で物語に参加したら何度面倒なことに出くわしてしまうやら。ファミレスで勉強などしていたら梓弓を持った黒づくめのおっさんに強襲されそうだ。
押し付けられたヒロインたちは嬉々として連行していった。一部からは「良くやったわ」や「流石ね」などお褒めの言葉をもらった。喜んでいただけて何よりだ。
さてヒロインにおもりを任せて空いた時間で何をするかといえばお仕事だ。
何をするにもお金は必要なので働かずにはいられない。創作的なものに勤しむのなら尚更。
それが現実だ。
仕事場へ向かうため最寄りの駅に向かうとチヤが待っていた。
以前服を買った時にはあれこれ興味を持っていたようだが毎日着るものとなると機能性を重視し始め、最終的にジャージ類に落ち着いてしまった。今日は上下白のウィンドブレイカーである。流石ダメ生物さんだ。
そのチヤだが今日は少し雰囲気が違う。普段は少年とも少女とも思える身長150センチ後半の中学生なのだが今日は170センチ程に伸びておりお兄さんともお姉さんとも見える大学生の姿になっている。
今日向かう場所の為に少々変更してもらった。
待ち合わせたチヤと電車に乗り1時間ほど揺られて会場へと向かう。
超常的な力があるのに何故電車に乗るかといえば下手に面倒を起こさないためだ。その気になれば電車で1時間の距離を5分程度で走破出来る。だが時間を省きたいがために力を使用して同類に目をつけられても面倒という判断である。
そもそも竜泉寺もいる街を出歩く時点でリスクなのだが。
「最近出会った小娘に色々と融通してもらってるから大丈夫。元は小娘の索敵が面倒だったからね。それを気にしなくていいのなら普通に歩く分には大丈夫さ」
という事らしい。早速神崎はお仕事しているらしい。流石真面目。
さてそんなのを経てついいた場所は競馬場である。
問い。
何故競馬場にきているのか。
答え。
お金を稼ぐためです。
超常的な力を用いてギャンブルで儲けようという魂胆だ。
これぞ中二の夢である。
ギャンブルの中で何故競馬なのかといえば理由は色々とある。
まずパチンコやスロットは時間がかかり過ぎる。妖気は機械にも有効らしくちょちょいと弄ることであたりを引くことが出来る。しかしパチンコなどは演出やらなんやらを済ませないといけないわけでポンと大金が出るわけではないので面倒。
初心者として楽しんでいたころはまだ面白いのだが作業として考えると1時間で10万を超えないのは少し面倒だ。それも手首をひねって座るだけなのは退屈だ。もっとうまいやり方があるのかもしれないが生憎その努力は起きてこなかった。
一方、競馬や競輪、競艇などは投票してものの数分で結果が出るので実に楽である。
問題は自分が直接かかわらないところでどうやって勝ち負けを操作するかだが人の意識に介入して八百長は面白くないし機械などに細工するのも危険なので却下。
稼ぐためとはいえ基本はよそ様には無害でいたい。面倒は嫌だから。
そういった考えの中でたどり着いたのが競馬。
どうやって介入するかといえば不人気馬を勝たせてしまおうという発想だ。
妖気や魔力は生物全てが持つものでその保有量は身体的な能力に影響を及ぼす。体調が悪い時は減っていることが多いらしい。逆に普段以上の量があると限界を超えられるという。そしてこの妖気は伝達できる。ある程度集中して意識すると気の極み的に伝達できる。あるいはハンドパワーである。
因みにこの気の極み的なものはチヤには使えないらしい。
どうも妖気の在りよう使いようは個人差が大きいらしい。詳しくは知らないけれど。
兎も角、妖気を不人気馬につぎ込み勝たせて大金を得るというのが策略である。
これならば人は傷つかない。馬だって負けが込めば殺処分となるのだから延命できるので問題ない。ほぼ当たるが確実絶対というわけではないので少しは楽しめるという最高の作戦だ。いやまあ単なる下衆な作戦ですハイ。
一応違法行為を行っているわけではないので問題ない。ただハンドパワーを注入しているだけである。何億とか当てる気は無いので許していただきたい。精々数十万、数百万が当たればいいだけなのだから。
それにメインどころのレースには介入するつもりも無いので許していただきたい。介入するのは新馬戦と未勝利戦のみだ。
「しっかし競馬の何が面白いんだろうねぇ。ボクにはさっぱりだよ。ただ馬が走るだけだろうに。ボクは家で本を読んでいたい」
本日の同行者であるチヤが競馬場を眺めながら面白くなさそうに呟く。
競馬場に来たためのチヤ大学生バージョンである。競馬場自体の入場は子どもでもできるので止められることは無い。禁止されているのは馬券の購入である。
馬券は20歳になってから買いましょう。そして税金もしっかり払いましょう。
妖気による変装は俺にもできるので適当な大人の容姿を作っている。服の変更も妖気でちょちょいだ。妖気マジ便利。
「まあ何がと言われれば大金が走っているところでしょうね。可能性だけで言えば100円が数千万円になるわけですから血眼になりますよ」
「それは可能性での話だろう? そんなもの頻繁に出るわけではないのだろうし」
「そうですね。年に一度あるかどうか。ま、その辺は夢を買っているわけですよ」
「なんだかねぇ」
逃げる、隠れる、生き延びる、が信条のチヤさんとしてはギャンブルは好かないらしい。
なら真っ当に働いて稼げという話なのだが「ボクは人外だから人間社会では生活できない」などとほざくのだからふざけている。その癖人が働いて得た金で飲み食いして趣味に没頭しているのだから始末に負えない。
ま、その辺は言っても仕方がないので諦めている。
そもそも力を使ってサクッと稼ごうとしている時点で俺も終わっているのだから。
一先ず入場料を払い場内へ入る。冬場なので外の立ち見は堪えるので指定席を取る。中央競馬の指定席となると高いのだが地方となればお安く500円程度で済む。
後は新聞を買ったりするのだが今時は携帯で済ませたりもする。だが地方競馬では詳しくネットに載らないので今日はとりあえず買う。
「競馬なんて取りあえず一着を当てればいいんだろう? 簡単じゃないか」
「まあ色々とあるんですよ。賭け方だって九通りありますからね」
競馬は何も一着を当てるだけではない。寧ろ一着を当てる、単勝などはギャンブル的には面白くない。
単勝、複勝、馬単、馬連、拡張馬連、枠単、枠連、三連単、三連複。
数ある中でやはり倍率が高くなるのは三連単だ。男は黙って三連単ともいったりする。知らんけど。
とは言え初心者にそこを狙うのは難しいわけで始めは単複で遊ぶのが無難だろう。
賭け方と馬券の買い方を教えて自分も買う。
「因みにチヤはどの馬にかけた?」
「えっと、八番サザーランドに5000円。これで71万とかふざけているよね」
競馬初心者にある『買っただけで勝ったつもり』現象である。
それにしてもふざけてやがる。14頭立てで13番人気に5000円をブッ込むとか正気の沙汰ではない。そりゃあ当たれば大金だが勝つ見込みがないからこそ単勝142倍なのだ。
まあ何事も経験なので何も言わない。
そしてレース発走。
「よし、イケーサザーランドぉぉぉおおおおお、お? あれ、じゅんじゅん8番が見当たらないんだけどどこにいるの? 全然前に出てこないんだけどというかホントにどこにいるの、ホントに走ってる? てか先頭集団もうゴールしそうなんだけどサザーランド何処? おーいサザーランドさーんどーこー。てかなんか終わったし。終わったし。何これ」
結果、サザーランド8着。チヤ、惨敗である。
だがまあ下馬評通りの結果である。今回のレースはオッズ通り上位3頭の人気の着順だった。何の番狂わせもなく単勝は1・2倍、三連単でさえ6・5倍しかない。夢がない。
因みにチヤの本命サザーランドはスタートから後方に控える。そのまま後方集団で囲まれた状態で第4コーナーを曲がり直線。直線でも飛び抜けることなく団子のままゴール。という展開だった。
「何故だ! 何故なんだ潤! どうしてボクのサザーランドは勝てなかったんだ?」
「実力なんじゃないですかね。距離の適性もあるだろうし血統もある。ジョッキーや体重とかも色々あるね。そういうのを知っている人は知っているから勝てる馬を知っている。でその注目馬が人気が高くなる。逆に人気の低い馬は勝てる勝算が薄いってことですね」
「なんだそれは人気の高い馬にかけなければならんじゃないか。それを早く言え」
「いや、まあそれだけじゃないんですけどねぇ」
しかし泥沼に片足がはまり込んでいるチヤは聞く耳を持たない。まあ仕方がないので見守ることにする。
「取りあえず人気の高い奴につぎ込めばいいんだろう? 倍率が低くとも掛け金をあげれば問題ないわけだし……」
そんなこんなで次走。
今度は1番人気、タジミオレンジに単勝1万円をブッ込んだ。
倍率は2・3倍。
「よーしぃタジミオレンジお前を信じているぞ! よーし、いいぞ、いいぞオレンジくん! みろ、みろよじゅんじゅん、ボクのオレンジくんが先頭を走っておるぞ。ファハハハハハもらったぞ、これはもらったぞ。ほうらゴールはすぐそこだ。あとちょちょいっとゴールすればあああああああああなんか変なの飛んできたああああああああああああああああああああ」
結果、10頭立て6番人気が最後方から脅威の末脚を見せて見事全てを抜き去った。チヤ、惜敗。
結果6番、1番、8番人気と良い感じに荒れている。競馬としては面白い結果だ。
「ねえねえじゅんじゅん。さっき一番人気が強いとか言ってなかったかなー」
2レース続けて外したチヤは瞳の光を消している。
まあ気持ちは分かる。穴をねらった時は堅実に、堅実になった途端荒れる。
良くあることだ。
「あくまで勝つ確率が高いって話ですからね。勝ったノネットも悪くないんですよ。確かに役職の割に影が薄い、じゃなくって良血馬の割に最近のレースでは勝っていないけれど距離の適正はある。負けていた前走前々走は今回と距離が違うし、今回の距離を主戦にしていた去年は勝ててたみたいだからね」
「ああーもう、それじゃわかんないじゃん!」
「だから賭けになるんですよ」
何が面白いとか言っていた御仁がいよいよどっぷりである。
「なになに、賭けるのは1頭じゃなくてもいい。当てるのも1着じゃなくてもいいと。なるほどなるほど」
そんなこんながあって次走。
「これなら当たるだろう。ボクも勉強しているんだよ」
あれやこれや調べ始めたチヤはどや顔で11頭立てのレースで馬連7頭ボックス、7頭の総当たりを各1000円、21000円購入した。
そしてさらっと発走があり結果はチヤさん本日初的中。
だが
「あれ、じゅんじゅん。なんか当たったはずなのにお金が減っているんだけど。どういう事なんだ?」
「そりゃ多頭買いすれば当たる可能性は上がります。けれど買った種類より当たった倍率が低けりゃ損をしますよ。所謂取って損というやつですね。今回は割といいところいってますが買い方が悪かったですね」
2番人気と5番人気で馬連は18倍だったので割といいところだ。しかし7頭ボックスで買っているため損している。
こうしてチヤは競馬の階段をまた一段上がった。
そして次走。
ちまちますることに飽きたチヤは三連単に手を伸ばした。
だが三連単ともなると少ない通りでは当てるのは難しいためどうしても経費がかかってしまう。3頭ボックスでも6通り、4頭ボックスでも24通りになる。一見であるチヤには未だに当たるだろう根性があるので結局3頭ボックスを購入した。
だがまあ、そんなもの簡単にあたるわけもなく勿論外した。
そんなこんなでレースは進み、結局その後チヤは一度も当てることは出来なかった。
1日通算で約7万円の負けである。素人の癖にどぶに突っ込み過ぎだ。いや素人だからか。
そのどぶ娘はというと。
「クッソォ最後ブラッドリーを外してヴァルトシュタインに賭けておけば今日の負け分を帳消しにしてもあり余ったのに。若しくはその前のレースでリヴァルが3着に残っていればドンピシャだったのに」
泥沼にはまる、悩んで外した馬が着てしまうと、1頭がぎりぎり着外になるのというダブルパンチを受けてしまった。自分のちょっとした選択で大金をつかむことが出来たはず。その可能性に触れていた。それが人間に夢を見させる。いや、チヤが人間か知らんけど。
「因みに過去最高額となると100円が2千万円になったりします。ま、数年に一度とかしかでないみたいですがね」
「何それチョーすごいじゃん。500円買えば1億? やばい夢が広がりんぐだわ」
「その時は18頭立てで2着3着が13番18番人気とかなんで当たるかーって感じですが」
「2千万かー、てか1億か。デュフ、やっべどうしよう」
こいつ話を聞いちゃいねぇ。俺がどうしようだわ。何が面白いんだろうねぇ。ボクにはさっぱりだよ。とか言っていた癖に。これは完全にダメだわ。競馬っカスの出来上がりだわ。
というかキャラが変わり過ぎているのでちょっと関わりたくないかな。
「そういえばじゅんじゅん競馬って毎日やってるんだよね」
「ここが毎日やってるわけではないですが大体の日はどこかしらでやっているはずですよ」
「それはつまり年中365日、競馬が出来るということだろう?」
あーうん、どうしよう。ちょっと経験させて興味を向けてもらおうと思っただけなのにどっぷりと浸ってしまった。これでは競馬場のATMになってしまう。
ま、いいけど。非日常に、面倒なことに走られるよりはマシだ。
「良いですけど次からはご利用は計画的に、ですよ。取りあえず月10万でやりくりしてくださいね。勿論マンガ類や諸経費も含めてですよ」
「むぅ」
「勿論、それを元手に得たお金は自由に使っていいですよ。要するに勝てばいいだけです」
「その言葉は絶対だぞ。1億とってもびた1文やらんからな」
「どうぞお好きにしてください。その代りすっても補充しませんから」
月10万のお小遣いとか坊ちゃんかって話だが下手に陰謀とか組織だとかに関わるよりはマシだろう。日本の文化にどっぷり浸ればどうせ廃人になる。
お金だって問題はない。
結局今日の俺の収支はプラス23万だ。妖気様様だ。
「ま、今日は取りあえず帰りましょう。夕飯は面倒なので何処かで食べて帰りますか」
「そだねー。ボクの口的には馬刺しが食べたいかなー。馬一杯見たし」
「……正気ですか?」
「え? そう思わない? あのみっちりした筋肉とか超美味しそうじゃん」
「ないわー」
そんな平穏な1日がありました。




