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友人Aの反逆日記  作者: みくじ


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13/123

2-7

 結局事件は無かったことになった。


 生徒教師には色々と被害が出ていたものの街を守っていた組織の策略によって事件は学校内で留まっていたので隠ぺいは容易だったとのこと。

 当然だが主人公様がいなくともこの街には色々な組織が残っている。

 主人公たちのような一線級ではないにしてもそれ相応の役者が準備しているのも当たり前である。


 生徒と教師には催眠をかけて平穏な一日だとぼやかした。

 占拠されたとか人質になったとかならまだしも同級生に身代わりの為に追い回されるとか追い回すとか精神衛生上に宜しくないので妥当な判断だ。勿論御幸の記憶もきれいさっぱり整理された。


 事件の首謀者は駄肉、ではなくそこに寄生していた虫みたいなものらしい。

 それは脳の中に入り込み神経を弄ることによって人を操作するという類の人外らしい。

 もっとも寄生相手を完全に掌握出来る訳ではなくある程度本人にその気がなければいけないことや操作できる人数が限られるなど大した奴ではないらしい。ハンターが狂戦士化していたのはこの虫の力だという。


 その寄生虫をチヤが喰らいその力を応用して暗示を上書きしたらしい。

 暗示には相当な力が必要だったらしいがそれは駄肉やテロに協力した人々から吸い取って使ったとのこと。吸われた側は精々肉体的な限界が10年程早まったくらいなので大したことでもないだろう。

 豚箱に入り前科者になるよりは全然良い処遇だと俺は思う。

 

 問題は九重。

 記憶の改ざんに必要な力は個人差があり、妖気やら魔術やらの類に慣れている人はそういう類に抵抗力がある。そのため抵抗力のある人物にかけようとすると相対的に必要な量が増える。

 故に九重を他の生徒同様に対処するのは面倒なのだそうだ。

 仮に駄肉たちを力として使用すると更に20年分、生徒と教師およそ千人に使用した量の倍を使う必要があるらしい。勿論九重1人にだ。


 そのため九重に対する隠ぺいは諦めた。今回の出来事は俺と九重だけが知っていることとなった。

 九重の記憶を残したのは単に力量の問題だけではなくこの事件の証人になってもらうという意味合いもある。

 隠ぺい上手なチヤの事なのでバレることは滅多にないだろうが露見した時に変な誤解を受けてはたまらない。残しておくことによって起きるデメリットと消すことによって生じる可能性のを比較して保険をかける方を選択した。

 十全に処理するのは諦めた。


 取りあえず九重には俺の事を伏せてもらうように伝えた。どこまで通用するか不安なところだが考えても仕方がないので一先ずそういう事にしておいた。




 そして何事もなかったように授業を終えた放課後。さっさと帰宅して布団にダイブしたいところをどうにか押し込んで屋上へと来ていた。

 文殊高校の屋上は昨今の例に漏れることなく進入禁止だ。そもそも創作に出てくるような出られる造りをしていない。名前の通り唯の屋根の上だ。

 そんな屋根の上では目的の人物が待っていた。


「やっと来たわね斎藤君」

「委員長が早いんだよ。流石真面目」


 着崩しのない制服に黒髪眼鏡。見た目で分かりやすい、というよりは少々露骨なキャラ立ちをしている委員長こと神崎かんざき楓恋かれんだ。


 神崎の雰囲気は少々張りつめており実にシリアス感が甚だしい。

 だが生憎こちらにはそんな気概は無い。神崎の調子を崩すように軽めな口調で語りかける。


「せっかく諸々が終わったんだからもういいんじゃないかな。事件は忘れられ平穏になりました。めでたしめでたし。てさ」


 軽い口調が気に食わなかったのか神崎の目が細くなり少し冷気がこもる。


「そうかしら。これで本当に終わりだと斎藤君は思うの?」

「さあて。そこは俺の管轄区域じゃないね。現在は平穏、それで十分」

「……それに私の事も気になるんじゃないの? 私が何者でどんな存在で組織に所属していてどんな目的なのか。そして斎藤君の敵なのか味方なのか。気になることは尽きないと思うのだけれど」

「それこそどうでもいいね。仮にそれを聞いたところで真実かどうかも分からない。真実であるか調べる術がないなら聞いても仕方がない。仮に真実が聞けたとしても俺はどうするつもりもない。だから関係ないし興味もないからどうでもいいかな」


 最後の言葉が俺の根幹である。

 御約束としてこういう場合自分の身の上や所属を披露して半分の真実と半分の嘘を混ぜたりするところなのだろうが生憎興味がない。

 何か大望を抱いているわけでもなく唯のうのうと生きているだけの身としては周囲などどうでもいい。

 何か問題が起きればその時対処すればいい。態々自ら首を突っ込む必要はない。特異な力を得たからと言って本格的に処理班系登場人物になるつもりなんかない。


「あ、言っても信用できないだろうし無意味だと思うけど一応。俺は別に神崎の事やあれこれを言いふらすつもりは無いしこの街で何かするつもりは無いので」


 俺の投げかけに対して冷静に冷たく考えるそぶりを見せていた神崎は一つため息をつくと頭をガシガシと掻き始めた。

 その雰囲気は先程までの凛とした委員長然としたものではなくどちらかといえば粗暴な男子のようなモノだ。


「なんか調子狂うな。それが斎藤の素ってやつ?」


 口調も立ち姿も変わってしまった委員長だがさして興味のない俺は諸々を受け流す。


「さあ? 確かに普段と違うだろうが別に普段も意識して欺こうとしているわけではないからな。そうと言われればそうだし違うといえばそうだな」

「あら驚かないのね。こうして喋ると大抵の人は驚いたり引いたりするのだけれど」

「悪いが色々と興味がないからな。別に誰がどんな行動言動を取っても否定できるモノじゃないし。一応驚きはしたがそれまでだね」


 確かに普段見慣れたものや印象付けられたものが崩れると戸惑い驚くものだが印象を押し付けるのは傲慢というモノ。強要すべきではなく許容すべきともいうし。

 ま、キャラとしては萌えられる感じのギャップなのであっさり受け入れられたというのも無きにしも非ずだけど。


「それで斎藤は私の事を何も知らなくても良いわけ? 一応九重の事で借りがあるから出来る範囲で説明するつもりでいたんだけど」


 九重に記憶を残し事件を解決するにあたって誰かが常識外の力を持っていることを暴露しなければならない。平和的な結末を得るためには俺と神崎両方が無関係を装うのは不可能という事だ。


 そこで俺が犠牲となり神崎は無関係を装うことになった。それを借りと感じたのだろう。


「九重についてはこっちも関係しているから仕方がないと思っているからいいさ。それでも借りと感じるなら何時か何かの形で返してくれればいい。勿論無かったことにしてもいい」

「そう? 構わないというのなら変にこだわらないけれど」

「それでいいよ」

「じゃあこちらが聞きたいことを聞く番になるわけだけどいい?」


 やはりそうなるか。そうなるよね。

 借りに感じていることを上手く利用してはぐらかしたいところだがここは諦めるところだろうか。面倒を避けて余計な面倒を呼び寄せては面倒だ。

 小さくため息をつき面倒そうなのをアピールしつつも同意を示す。


「まずは根本的なことから。あなたは誰? 何者なの?」

「何者か、か。それは哲学的な話かな?」

「委員長としてはそう言うの嫌いじゃないけれど、今はお呼びじゃないわ」


 さいですか。

 ま、そういう話は好きだが別に言いたいわけでもない。それにはぐらかしたいわけでもないので真面目に考えて素直に答えることにする。


「誰かという問いには文殊高校に通う斎藤潤という名前の人間だと認識している。何者かについては一応人間のつもりではいる。どういう存在かという意味の問いなら俺自身把握していないから答えられない。生憎自分から何かしたわけじゃないし巻き込まれただけだからね。多分、人外の契約者とか共犯者とか協力者とかそんなあたりじゃないかな」

「あら、あっさり答えるのね」

「はぐらかすのも面倒だからな。それに神崎ならある程度話しても大丈夫だと思っている」

「私は信頼されていたのね」

「信頼というのとは少し違うかな。排除に走らずこうして会話できている以上妥協点を見いだせる相手なんだと勝手に理解しているだけだよ」


 そう言ってみせたものの信頼も理解もしていない。どれだけ言葉で交渉したところで実際の行動が伴うとは限らない。

 ならば考えても仕方がない。自分の都合のよいところだけ納得するしかない。それだけの事。その辺は神崎も同じだろうけれど。


「そう。確かに私の目的は超常的なものを日常に持ち込ませないこと。あなたが何もしないというなら妥協点を見いだせるかもしれないわね」

「ならそう言う理解でいいんじゃないかな。俺は良くも悪くも動く気がない。今回みたいに自分に面倒事が降りかかってこない限りは何かするつもりは無いからな」

「つまり私の邪魔をするつもりは無いけれど協力するつもりもないと。そう言いたいのね」

「その理解で構わないかな」


 何度も言うようだが俺には目的は無い。大望もない。だから日常を守るという神崎とは妥協出来るかもしれない。

 だが俺はどうこうするつもりは無いので妥協点を探るのではなく適当に合わせてもらうことになるだろう。


 そんな他人任せで自分本位な考えは日常を大切にする神崎には納得できないものかもしれない。あるいは力持つものの義務を強要してくるかもしれない。

 物語の御約束として主人公が平穏を望んでもヒロインがそれを良しとしない。力を持つものの義務を強要することがままある。その結果主人公は非日常を駆けまわる。


 だがそんな予想を反して神崎はあっさりとした答えを返してくる。


「それならそれで構わないわ。今回の事で少し動きやすくなったからね。ま、精々利用させてもらうことにするわ」


 実にあっさりした答えである。何も強要せず何も期待しない。

 やはりこれが友人Aか。


 とはいえ願ったりな展開なので素直に頷く。


「そのように頼む。今日みたいなのは面倒だからな。俺にも面倒が飛ぶようだったら手を貸すか考えるよ」


 そうお互いに確認するだけで会談は終わった。その後特に雑談することもなく出掛けることも戦うこともなく何もなく帰宅した。



 画して友人Aのトンデモ組織初接触は特に何もなく終えた。

 盛り上がるでもなく何かの伏線になるでもなくただただ終わりを迎えた。


 これは友人Aが故に何も起きなかったのか、何か起きてしまう事に対しての反逆が出来たと思うべきか悩むところである。


 ま、なんでもいいか。



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