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 さて、普通に考えてみれば分かることで雑兵が思いつくようなことはある程度できるモノにも思いつくものだ。

 この世の大半は平凡で凡庸であるわけで自分だけが気が付いた、自分で生み出したと思ったとしても、そんなことは無い。大体が既存のものだ。


 故に阿呆が「俺超策士」とか思って行動しても本当に出来る方々に捕捉されてしまうのも当然の結果である。

 ましてや世界の様々が交差する街がそんな脆弱なはずがない。そしてそんな世界の交差点でのんびりと暮らしている御方が気付かないはずもない。


 もっとも、分かっているのなら事前に防いでおけというモノだが。


「もったいぶらずに始めから警告しておけば楽に終わったと思うんですが」

『それじゃあ物語としての面白味がないじゃないか。無粋だねぇじゅんじゅんは』

「振り回される身にもなって欲しいモノですね。何もわからない状態で対処を求められるとか自分はそう言う配役じゃないんですよ。誰かの為に何かの為にとか面倒すぎですし」


 確かに全ての情報を隠すことなくネバラシしながら聞く御話など面白いはずがない。いやそれはそれで面白いかもしれない。それは読者であればの話だが。

 情報の秘匿など当事者にとっては面倒でしかない。

 ま、今更問い詰めても仕方がない。一応平穏に片付いたので善しとしておこう。


「で、どういう状態なんですか」

『ボクが知る訳ないじゃないかこんな雑魚。計画力も無し、人望も無し、能力も無しの無いずくしのゴミ屑なんてどーでもいいよ。出来るのが精々催眠の延長線上とかそれで人の道を外れた生き物とか名乗るのはやめてほしいよね』


 どういった訳かご立腹のご様子のダメ生物さんである。珍しい。


『にしてもじゅんじゅんこんなゴミにてこずり過ぎなんじゃないのかな。時間をかけている癖に女の子をこんな感じに拘束してリョナとか良い御身分だね』


 リョナとか言うな、毒され過ぎんだろ人外。

 別にナニってないし。そう言う性癖は無い。断じて。たぶん。

 

 そもそもこういう具合にしたのは俺じゃないし。勝手に自傷しただけだ。


「しゃーないでしょうが。自分は御姫様を守る騎士ではなく平凡な人間ですし。何も知らない状況下でHP0な御荷物を抱えての逃避行。それに一応相手は味方な訳で無理やり切り開くわけにもいかないんですよ」


 本来御幸を守るだけのはずが九重なんか出会った時既に瀕死というか死んでいたし。

 九重は九重で身体能力が凄いだけで特別な何かとかできないようだし。そんな体のみの脳筋が満身創痍で立てない走れないとかホント唯の御荷物だよ。

 主人公に侍る登場人物なら一般人に対するこん睡くらい指パッチンでやってほしいものだ。


「それで、ここに来たってことは諸々終わったんでしょうね。もうそろそろ終わらないと本気でお小遣い考えますよ」

『またそうやって直ぐ脅しをかける。いい加減にしてほしいものだよじゅんじゅん。君は腐っても人間のそれも日本人なのだろ? だったらその日本人が作った文化を愛せなくてどうするんだい? ああだこうだ批判するよりもそれを認めて良い方につなげようとは思わないのかな』

「よしおっけ。今月のお小遣いは無し、絶対にだ」


 そんな文化論など今はお呼びでない。というか俺だってマンガラノベ推進派だしそもそもその道に導いたのは俺だし。今更お前には言われたくない。

 それに一応は人命の掛かっている状況でそんな話とかどうかしている。俺も人のことは言えないけれど。


 それにしてもこのくだらない御話も終わりだ。

 ラスボスも何かを起こす前に、論争もなく終戦を迎えてしまった。

 いやはやふがいないねぇ。どうでもいいけど。


「貴様、動くな!!」


 終わったと気を緩めていると背後から押し倒され腕を絞められ地面に押し付けられ喉に刃物を立てられるという間抜けな状況に陥ってしまった。


 気配からすると新しい人物は登場していない。

 駄肉は未だぴくぴくとしており何かできるわけがない。

 つまり相手はそれまでの登場人物ということだ。

 つまり満身創痍で拘束されていたはずの九重が反旗を翻してきた。


 刃物が首をひんやりとさせる中少し真面目に考える。

 駄肉が何か仕込んでいたのだろうか。それともそれ以外の何かか、九重本人の意思で行っているかなのだが実に面倒だ。

 考えるのも面倒なので取りあえず様子を伺うことにしよう。


「やあやあ悠希ちゃん元気だねぇ。何かいいことでもあったかい?」

『じゅんじゅんぱくりはいけないよー』


 ちょっとシリアスな場面なので少々黙っていてほしい。


「貴様、今度は斎藤潤を操って何をする気なんだ!? さっさとその身体から出ていけ」


 あ、そういうことですか。そういうことなんですね。


 そりゃパンピーだと思った級友が急に活躍しだしたら本人の能力以上の何かを疑うのが普通か。加えて独り言を大きな声で話している。尚更誰かに操られていると考えるのも分かる。まずったな。


 どこにそんな力が残っていたのかと思うほど強い力で抑えつけられる。単純な力に加えて技術か奇術か知らないが上手く抵抗できない。


 さてさてどうしたものか。

 と、考えたいのだがそうも言ってられない。俺を締めつける九重の息遣いが荒い。加えて抑えつける腕に温かく不愉快な液体が伝って来る。

 ある程度の力を込めれば振りほどけそうだがそれでは九重の方にダメージが強すぎる。腕の一本や骨の数本くらいなら自業自得だが死なれるのは流石に困る。面倒だから。


『がんばれー、これもボクを脅した罰だー』


 ああホント面倒だな、さっさと帰ってこいよ主人公。


 どうにかしないとなとと考えていると倉庫の扉が再度開く。体勢的に誰の登場なのか分からず面倒事が増えないようにと願っていると急に拘束の力が弱まる。


「なっ、に」


 そして九重の呻き声とともにその体が背中にのしかかる。

どうやら来訪者は俺を助けてくれたらしい。気を失った九重の後頭部にかかる圧を役得だなと思いつつも浸ってはいられないのでさっさと体を起こす。

 そして見上げた前には見知った生徒が立っていた。


 眼鏡に綺麗なロングストレートの黒髪。制服に着崩しはなく膝まであるスカートに紺のレギンス。凛とした雰囲気でややきつめな目元。


「委員長か。意外だな」


 目の前に立っていたのは我がクラスの委員長様だった。



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