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物語から離脱してしばらく観察していると主人公様は神崎の引率の元、飛行機でアラスカに向かうらしい。向かうのは主人公様と九重と神崎だけ。
今回の事は主人公様の我が儘なので基本組織は協力しないというスタンスらしい。早乙女に関しての情報も色々と渋られている様子。
どうやら百合師匠の伏線配置とかもあるようだ。協力的だった組織が完全に信用できるモノでは無いと思わせたり、その中でもヒロインはやっぱり大切なモノだと思い込ませるように仕向けているらしい。
やはり主人公は逆境の中で、理不尽の中で育つモノなのだろう。
どうでもいいけれど。
俺は主人公様たちが空港に向かう間にさっさとアラスカへ旅立った。
早乙女がアラスカにいるといっても正直アラスカがどの様な場所か知らない。世界地図で言えばカナダの西で、一応アメリカであるというくらいしか知らない。アラスカといってもかなり広大だし。
まあ、知らなくとも何とでもなるわけだが。
百合師匠から渡された資料で早乙女がいるらしい場所を確認して、そこへ向かうための方向を探して後は一直線で向かうだけ。
空を飛んでいくのだから障害物や飛行ルートを気にする必要がないので簡単の一言。
飛行方法も羽を生やしてとかではなく普通に移動。床に寝そべりテレビを見るかのような体勢での飛行である。それはもう飛行ではなく別のように見えるのだろうが空を飛んでいるので飛行だ。
残念ながら俺は其処に美学や形式など持ち込まない。簡単に出来るのだから自ら難しくする必要はない。
何故空を飛べるかといえば出来るからだ。
というか人外外道と呼ばれるのであればそれくらいで来てもらわなければ困るというモノだ。
流石に戦闘機や飛行機のような速度は出せないけれどスポーツカーくらいの速度は出せる。それに伴う負荷や気温やら酸素やらもおおむね何とかなる。
本当は飛行機に乗ってとか考えたけれど色々と面倒なので諦めた。普通に航空券を買ってだと時間がかかるし目的地にしっかりと着くわけでもない。
主人公様と一緒に向かうのでは意味が無いし時間削減には生身が手っ取り早かった。
戦闘機などを拝借しようかとも考えたけれど面倒事を増やすのは得策ではないので自重した。
多少の事は百合師匠か神崎あたりが頑張ってくれるだろうがそれも過度に期待すべきではない。別に一般の方々に追われたところで生きるのに困らないが、生活が出来ないのであればかなり困る。
そんな訳で大人しく空を飛んだ。
「ホント、あなたの力は変わっていますのね。これほど汎用的な能力はありえないと思うのだけれど」
大人しく空を飛んだらロジィに呆れられてしまった。
そのロジィも空気抵抗や摩擦などお構いなしで平然と空を移動している。彼女は一応俺の一部なので同様のことは出来る。出来るというか俺が移動していると自動的について来る。
一応ロジィは俺の身体なのだから当然といえば当然か。なんかややこしいな。
まあ、某ありったけの夢をかき集める海賊に出てくるバラバラさんはバラバラになっていたけれど。
自分の認識外に体があるというのはどういう感覚なのだろうか。
仮にロジィが空気抵抗に負けて飛ばされていったりしたらどうなるのだろうか。一応腕なのでヒト化を解けば腕に戻るのか、それとも腕が飛ばされることになるのだろうか。
なんとも奇妙になりそうなので気にしないでおこう。
流石に自分の身体をフライドして宅配するような佐藤さんには成りたくないし。
閑話休題。
飛行に関して言えばロジィ、ローズマリー・キャロルだって炎で翼を生み出して空を飛んでいた。物理法則とか色々なモノを無視して空を飛んでいたのでそれと変わらないような気がする。
けれどロジィ曰く違う。
能力には向き不向きがあって、それに合わせた努力をしなければ何も出来ないという。炎による飛行もあくまでローズマリー・キャロルに適性があり訓練した結果である。炎を扱える異能者が全て同様の事が出来るわけではない。らしい。
異能とは本来生まれ持った才能が有り、それに胡坐をかくことなく己を鍛えて初めて大きな力を得ることが出来るという。確かに真っ当で普通の異能であればそれが王道なのだろう。
真っ当で普通な異能ってなんだって話は置いておくとして。
「そこは、まあ、自分は人外、あるいは外道と呼ばれる存在から造られたようなモノですし。その親にしてもせせこましく生きるためとはいえ世界でも有数の存在らしいですしね。そこから生まれた自分は器用貧乏がSSS+らしいですからね」
「それにしても狡いですわよ」
「今のロジィであれば同様の事も出来るはずですが。気になるならご自分で調べてください」
残念なことに、生憎俺は真っ当な異能者でもなければ望んで力を得たわけでもない。成り行きで、流された中で必要に駆られて蓄えてしまったに過ぎない。色々偶然が重なったイレギュラーだ。
だからそんなものは知ったことではない。
理論とか設定とかそう言ったモノは気にしない。
出来るのだから出来る。それで十分。原理とか法則とか調べる必要もない。
ロジィも一応は俺の一部。能力の使用方法とかを理解するのが面倒という事で補助的に生み出したロジィだけれど力の源は俺なので俺が出来ることは等しく出来る。
気になるならご自由にだ。
「……死んだ今更出来ても仕方がないですわ」
少し自嘲した笑みを浮かべるロジィ。
こうして普通に会話出来ているが所詮彼女は偽物。死体遊びから生まれた劣化模造品ともいえる。その記憶があるロジィは色々と複雑らしい。
力があれば自分の人生を変えられたのに、とでも思っているかもしれない。
少なくともロジィの、ローズマリー・キャロルの人生は納得のいくものではなかったのだろう。
もっとも、俺だって造り物だ。
どっかの傍迷惑な自己中悦野郎に人生を改変されて、ノコノコ出かけた先で殺されて、側が良いからといって死なされず良い様に使われる。その後も色々と適当に遊ばれて使われる。
こうして考えると俺も色々と酷いな。
まあ、それだけで打ちひしがれてしまうほど真っ当な人間ではない。所詮凡人は状況に適応して妥協して生きていくしかないのである。
ま、同族だからといって慰めとかそういうのはやっていないので気にしないけれど。
「そう言えば、ロジィは早乙女の事をどれくらい知っていますか」
「どれくらいって、そうですわね。日本にあった異能の非人道的な組織で実験動物にされていた娘。竜泉寺零王の能力が開花した時に居合わせた娘。というくらいですわね」
「まあ、世界的にはそれが正しいんでしょうね」
「……どういうことですの?」
自前で飛行できるといっても時間はかかる。
日本とアラスカの距離はおよそ5700キロ。そして俺の飛行は時速350キロ位。単純計算で16時間以上の長旅だ。実に退屈だ。
退屈ついでに主人公様のハイライトといこう。
もう目を背けてばかりはいられないようだし。
会いに行く早乙女乙女というモノにも関係するのだし。
ついでにロジィという聞き役もいるので退屈しのぎにはなるだろう。
竜泉寺零王という偽りの主人公の物語。
自称どこにでもいる普通の高校生。
そんな奴のヒロインとなってしまったモノの物語。




