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結論から言えば捕まってしまった。というか出頭した。
教室から脱出したものの九重はお荷物で打開策もない。そんな状況下で逃げ続けるのは不毛なのでハンターをある程度無力化したところで投降した。
九重は最後まで抗戦を希望したが策があると適当に言い包めた。
勿論策など浮かんでいない。
ターゲットである御幸は武装集団の元に連れ去られてしまい、戦犯である俺と九重は他の生徒とは別に隔離ということになった。手の届かない様な処に小さな窓しかない体育館倉庫に両手両足を椅子に拘束させ背中合わせというベタな状態だ。
「クソッ。こんな、こんな状態じゃなければ」
自身のふがいなさからか憤り、万全でないその身をジタバタさせて脱出を試みている九重。
御幸が捕まることの交換条件として九重の治療を要求したので幾分マシになっている。マシという程度なのであまり動くと部屋が鉄臭くなるので出来れば大人しくしていてほしい。
「悠希ちゃん女の子がクソとか言うのはどうかと思うよ」
「お前はっ……くっ。お前はどうしてそんなに落ち着いていられるんっつつうう」
言わんこっちゃない。騒ぐもんだから身体に響いて苦悶している。ホント自傷行為が好きなお方だ。マゾっ子なのかな。
状況が状況なのでそんな感じになるのも分からないでもないけれどそれなりの手練れならもう少し落ち着いてもらいたいものだ。
ま、どっかの莫迦に影響されてぬるく、無駄に熱くなってしまったんだろうけど。
「取りあえず落ち着いて、悠希ちゃん。そんなんだと竜泉寺に嫌われてちゃうんじゃないかな。女の子なんだから淑やかにしないと」
「ちょ、ばっ、な、なんでそこで竜泉寺が出てくるんだよ」
「なんでってこの非常時にも出るその反応が如実に語っていると思うけど?」
「うぐっ」
本人も自覚しているのか口ごもる。色々と素直になれない性格を自覚しているのだろう。
だがそれに巻き込まれている身としてはまどろっこしい。適当にどうにかしてどうにかなって欲しいものだ。今する会話でもないけれど。
そんな気の抜けた会話をしていると扉が開いた。
部屋に入って来たのは見た目50代の駄肉中背の男性。
駄肉は表情や態度の不機嫌さに加え何か嫌なものを醸し出している。さっくり言えばこいつは普通の人間じゃないんだろう、という感じだ。
「いやはや、子どもとは実に良いものですね。無知で粗暴でお気楽で傲慢で。自分のした行動に責任を感じず、代償もないと思っている。そんな存在が私は好きで、大好きで、大嫌いなんですよ」
高らかに笑う不気味な駄肉。その笑みからすると状況が変わりこちらがかなり不利な状況になったらしい。実に面倒なことだ。
しかし、そんな物語の内容など置いておくとして俺は思うのだ。
やはり現実はこうなんだなと。主人公じゃない奴の物語なんてこんなもんなのだなと思う訳だ。
マンガやラノベなんかでは敵味方に美男美女が集まる。ヒロインやその類だけならまだしもラスボスや一端の敵ですら可愛いくらいだ。雑魚キャラでさえスタイル抜群のお姉さんなんてこともある。
事実、主人公である竜泉寺は現在五人の美少女を囲んでいる。ヒロイン以外でも言い寄ってくる相手や取り囲む人物は大体美男美女だ。
その癖、またどこかで何かをしようとしていらっしゃるのだろう。
多分そいつも美形だ。
しかし、俺の現実ときたらどうだ。敵は普通の生徒や駄肉中背の汚いおっさん。逃げ回る相手は美人ではあるものの既に骨抜きという現状。
「ホントくだらないよなぁ」
ホントくだらない。
でもまあこれが普通で、これが俺のリアル、か。なんてな。
「いやはや、くだらないとは面白いことを言う子ですねぇ。私には高尚な目的があるというのに。これだから無能な子どもは」
駄肉は何を勘違いしたのか自分が侮辱されたと思い怒気をあらわにする。そして自分がどれほど高尚でどれほど素晴らしいことをしているのか、御高説は始めた。
いつも思うのだけどどうしてこう悪役とはおしゃべりなんだろう。
こうしているうちに、俺や九重を相手にしているうちに、ひそやかに事を済ませてしまえば万事うまくいくのだろうに。どうしてこう無駄なことをしたがるのだろうか。
アピールしたい気持ちは分からないでもないのだが無駄な行動でしかない。
本当に目的を思えばいつぞやのチヤのようにさっくりやってしまえばいいのに。されても困るけど。
「私は君たちに悪いとは思わないよ。これも世界というものだからね。それに…」
どんだけしゃべるんだよ、この駄肉は。
「そう言えばはっきり聞いたことは無かったんだけど、悠希ちゃんは竜泉寺の何処が好きなんだい? 優しいところ? カッコいいところ? それとも主人公のように助けてくれるところだったりするのかな? 残念ながら今日は主人公様はお休みのようだけれど」
「斎藤潤、お前は何をっ」
「何をって察しが悪いなぁ悠希ちゃん。どうでもいい話を聞きたくないから悠希ちゃん弄りして時間をつぶそうとしているだけだよ」
敵の事情や計画をしっかりと聞いてあげるなんていう義務も義理もない。そこには相手の情報を手に入れるという目的もあるかもしれないが情報が全て正しいとも限らない。
現実問題として冥土の土産として正しい情報をくれるなんてそうそういない。
もしそんなことをするようならそいつは大したことないので無視して善しだ。
「これだから子どもは」
俺の態度が気にくわなかったらしいか駄肉は唾をまき散らし罵声を紡ぎながら動けないでいる俺に蹴りを入れる。そこには特殊性はなく唯の一般人の蹴りで何度も何度も繰り返される。
「つぅう」
特殊性のない蹴りは然程のダメージもないのだが背中合わせになっている九重には十分なダメージらしい。これは失敬。
「やはり子どもというのは嫌いですね。いやはや無駄な殺生は好まなかったんですが仕方がないですね」
蹴ることに飽きたのか駄肉は乱れた息を整えながら嫌悪感を煽る雰囲気を放出し始める。
そろそろ本格的にヤバくなって来た。
駄肉がどうのこうのではなく九重が、だ。
もっとも言っては悪いが正直なところ九重がどうなろうとどうでもいい。
勿論死なれるのは困るのだが是々非々でも守りたいわけではない。重要なのは九重がどうにかなってしまった時の主人公様の反応だ。
あれなら暴走して街の1つピチュンすることだって容易いだろう。何せ世界に喧嘩を売れる御仁なのだから。怖いことだ。
そんなことを考えていると何処からか声が聞こえる。
英語で言うところのmeowであり、日本語で言うところのにゃーというものだ。
その声を探すとそれは小さな窓にありそれは唯何もせずこちらの様子を窺っている。それには人間らしい表情は無いのだがどうしてか面白いものを見るように、実に楽しそうに、見下しているように思えた。
それを見つけて遺憾ながら安堵感を覚えてしまった。
本当に遺憾である。
さて、この果てしなく不毛な出来事をさっさと何とかしてしまおう。
こんな事本来なら俺の役目役割ではないのだが現在主人公は不在であるので仕方がない。相手が雑魚で小物でしかないのも仕方がない。見返りがなく人様のヒロインを助けなければならないのだがそれも仕方がない。
仕方がない。
諦めよう。
所詮友人Aだ。
諦めてサクッと終わらせてしまおう。諦めれば何でもできる。
そんな訳で拘束具からするりと抜けて立ち上がる。
「な!?」
「どうして?」
動揺する駄肉と驚愕する九重。
高々立ち上がっただけで驚き過ぎだ。
そもそもこの拘束具だって一般的な一般人に対して使用するものだ。そこには呪いとか魔法とかそういった類は施されていない。
多分香港のアクションスターでも逃げられる。
それを一応とは言え人外がの破れなくてどうする。
立ち上がってみたものの直ぐにどうにかできるわけではないので周囲の警戒をしつつ適当に感想を素直に述べることにする。
「どうしてこう雑兵っておしゃべりなんだろうね。これから自分が何をするのかどういう行動していくのかを無駄に話したがるからとってもウザいんだよね。そういうのってあれだよな、麻雀やってて役満とかテンパって自分はすげぇんだぞってアピールしたがるあれと一緒だよな。やべーやべーってすっげえウザいの」
「なんのことを…」
「聞いてもいないのに勝手にアピってきて五月蝿いし自分で言うもんだから見え見えで誰も振り込んだりしないんだよな。だから結局上がれず終わるんだよな。その癖、上がってたら役満だったのにとか喚き散らすのがこれまたうざいんだよ」
「だから何を」
何をって別に何もないさ。周囲の様子を調べるついでの無駄話。ただの場の繋ぎ。
適当な言葉と共に探知は終了する。やはり周囲には動いている何かはいないらしい。つまりこれさえ何とかすれば終わりである。
へたり込み喚いている駄肉に適当な言葉を続けて顎に蹴りをひとつ入れて御話を終える。
「役満だろうとアガらなきゃ意味がねぇ。あがらなきゃそれは役満じゃねぇ、唯のテンパイだ」
我ながら酷い意味不明な言葉である。
特にいいたいことでもなかったのだがたぶん面倒が重なり過ぎて俺もどうかしてしまったのだろう。ストレスでも溜まっていたのだろう。
溜まっていたのだろうな。どうでもいい言葉が漏れ過ぎである。
勿論特にいいたいことでもなかったので会話に夢中で取り逃がすなんて阿保なことはしない。
これにて騒動は終了。
友人Aの物語などこんなものだ。




