15-3
主人公様と一応の黒幕様を送り出した俺は荷造りを始めた。
防寒対策として厚手の上着を探し出す。日帰りでは終われないだろうから着替えも持っていくべきだろうか。のんびりと着替える余裕はないだろうけれど何日も同じ服同じ下着というのはちょっと。
いやそこは妖気とか魔力とかで何とかするか。それを言い出してしまえば防寒対策も必要ないのだけれど。
そんなことを考えながら選んでいると服がするりと腕から落ちる。というかするりと腕が抜ける。
そして腕が無くなったと同時に別のものが生まれる。
腕が無くなったのは勿論ロジィが人型を取ったから。現状ロジィが俺に何かを言おうとするとき人型を取る。本質的には俺の一部なのだから腕の中からでも語り掛けることは出来ると思うのだけれど彼女にとって何か意味があるのだろう。
まあ、ヒトの意識を腕に埋め込むのも変な気がするので深入りしないけれど。
とはいえロジィが勝手に出てくのは悪いとは思わないが急に腕が無くなるのはちょっと厄介だ。一応ロジィは状況を見て出現してくれるので問題ないは無いのだけれど俺個人には迷惑が掛かっている。持っていたものを落とすしちょっと驚く。
現状ロジィが身体を作り出すためには腕しかない。俺と彼女との繋がりは大してなく精々彼女を殺したという事実。そしてそれが俺の右腕で行われたという事。
それくらいに関係性が薄い。
どうしたものか、と考えるとそう考えるのが馬鹿らしく思えた。
勝手に出て来たロジィは人のタンスや押し入れを見てひとりでにダメ出しをしている。元が大企業のご令嬢という事もあって物事に厳しいのか、あるいは単純に俺の感性を否定したいのだろうか。たぶん両方だろうな。
一応のところロジィは俺の一部という事なのだがこれほどまでに勝手気ままに出来るのであれば何とかなるのではなかろうかと思えてくる。
ナマズさんではないけれど所詮力など適当で何とかなる。出来ると思えば出来る。ならば出来るとしておこう。多分できるはずだ、何かきっかけがあれば。
そういう事にしていつか実行しよう。
どうせこの後奇妙なあれと出会うのだから依代は何とでもできるだろう。
ロジィの今後は今後として問題は彼女が出てきた理由だ。
正直なところ彼女が出てきた理由は分かる。けれど聞かなくても何となく分かるが聞かないのは怠慢だろう。言わなくても分かる、聞かなくても分かるなどそれを言う方の傲慢だ。
ロジィを生み出したモノとして最低限対応してやるのがまともというモノだ。
「それで、何用ですか。自分は荷造りをしないといけないので忙しいのですが」
「ようやく動くのですね。それで、これからあなたは どうするのですの? 竜泉寺零王に協力するんですの? それとも御話を壊しに行くのですの?」
「残念ながら外れ。両方ともしませんよ」
やはりロジィの心配は俺の行動らしい。心配というよりは興味に近いかもしれないが。あるいは死してなおこき使う相手がどれだけ価値があるかという値踏みかもしれない。
あるいは単なる暇つぶしかもしれない。何せ会話中も衣類のダメ出しが続いており俺の方には見向きをしないのだから。
まあ、別にかまわないけれど。
ただ、ロジィは俺にとって重要な戦力なので蔑ろには出来ない。聞かれている以上一応は応える必要があるだろう。相手がどんな態度であったとしても。
それに俺は別に明言を避けてもったいぶる親友役では無いので素直に白状する。
「取り敢えずは配役通りナビゲーターをする。これは回避できないでしょうから」
「あなたの目的はその役とやらからの脱却なのでしょう? ならどうしてそう大人しく受け入れるのですの? 今のあなたなら逃げ出すなりして拒むことは可能なのでしょう?」
「確かに逃亡して全てを拒めば配役から逃れられるでしょう。けれどそれに意味があるのか。現状を拒んでの逃走なんて敗北と変わらない。別に勝ち負けとかを気にするつもりはありませんけど。かといって物語を邪魔するのかといえばこれもNOです。残念なことに物語は小さな1人が動いたところで変化しない。頑張って暗躍する人も馬鹿じゃない。リスク管理もするだろうし失敗しないように手を打ってある。だから掌で踊らされているのに気が付いたからといって簡単に壊せるものではない」
「でも、あなたの言うところの主人公様はそれが出来るのでしょう?」
「それを乗り越えられるのはあくまで主人公だから。そう整えられているから出来るというだけなんですよ。というよりは、周囲に御膳立てしてもらい頑張った体で乗り越えていくのが主人公と呼ばれる存在なんですよ」
「そういうものかしら」
「そういうモノなんですよ」
主人公は主人公だから主人公なのだ。
何を馬鹿なと思うのだけれど世界は物語はそういう事になっている。だって誰も奇跡を起こせない主人公など興味がないだろう。逆境に打ち勝てない、大成を為せない人物を主人公とは思わないだろう。
異世界転生して騒いで殺される。お終い。
そんなモノを主人公とは呼ばない。
のんびり系を謳っているネット小説だって大体主人公は無双するのだ。
もっとも、俺としては竜泉寺零王が本物の主人公ではないことを願うばかりだ。当の本人は快楽物質ドバドバで悦に浸れるのかもしれないがそれにつき合わされる周囲社会も考えて欲しいモノだ。
ホント、主人公ってしっかりと考えると迷惑な奴だよな。自分の欲望のために社会を捻じ曲げたりするのだから。
ファンサービス的に前作の主人公が出て来たと思ったら最終的に主人公を食っちゃう、というか主人公に成り代わっちゃう奴とかいるし。種を開花させて自由に生きる奴な。
それは置いておくとして。
「兎も角、物語を書き換えるにはそれ相応の力がいる。努力と年月も必要とする。それすらを乗り越える俺TUEEEもありえなくもないですが、残念ながら自分はそれじゃありませんから」
「ではあなたは何をするのですの?」
「取り敢えずは相談かな。主人公様とか黒幕さんとかそういうのから離れた状況で動ける人に、この物語ってどう思いますか、って聞いてみるかな」
俺の日常に蔓延る非日常の面倒なところは其処に催眠、洗脳のようなモノがあるという事。全ての人が物語を作り上げるために無意識的に協力してしまう。ある種呪いが掛けられている。
その洗脳か呪いが掛けれている状況下では主人公様万歳となる。理不尽で可笑しな状況でも主人公を褒め称えて持ち上げる。
クソッタレだ。
そんな感性を持つことが可笑しいのかさえ今の俺には判断できない。
別に誰かと同じでありたいとか平凡でありたいとかそういう訳ではない。単純に誰かと話してみたいというだけの事。
そしてそれに都合の良い相手がちょうどいる。
それが現在アラスカにいるという早乙女乙女。
白髪赤眼色白と色素が薄いアルビノ少女。そして竜泉寺零王という主人公におけるメインヒロイン。彼女もまた俺と同じく物語に遊ばれている存在。寧ろ俺以上に弄ばれている不遇な少女といってもいいかもしれない。
その不遇ささえ主人公様のご都合主義で美談にされてしまうかもしれないけれど。
兎も角彼女と邪魔者を不純物がない状態で相談が目的。
可能であれば協力関係を結びたいところだが、難しいか。彼女はローズマリー・キャロルとは違い竜泉寺零王という少年が欲した存在。おそらくまだ物語から退場すること死ぬことは想定されていない。
それでもやりようはある。出来る事がある。
そう信じ込んで行動するしかない。




