15-1
つまらない日常は唐突に終わりを迎える。
1月最後の日。何も予定されていない日曜日に奴はやって来た。
やって来たというよりは物音に気付いて目を覚ましたらポッと出の面倒な御仁、百合師匠が俺の部屋にいて、がさ入れ、部屋の物を全て出して見分していた。
時計を見ればまだ朝の4時半。朝ともいえないような時間だ。
引っ張りだされたモノを見るに百合師匠の行動はそれなりに行われた後だ。少なくとも部屋に侵入して数分という事はなさそう。それ程の間俺に気付かせずに行動しておいて不用意な行動で俺を起こした、という事はないだろう。
意図的に行動し俺を起こしたのだ。
常在戦場と言えるほど警戒していたわけではないけれど俺も無能で思考停止していたわけではない。それなりに警戒していたし注意を怠っていない。参加していないものの街や周辺で起きていること、主人公様が頑張っていることは大体把握している。
その中でのこの凶行だ。
これはある種の脅しなのだろう。
俺はいつでも簡単に殺される程度の存在であると。
そこまで明確な意思表示があるかは分からないが少なくとも普通ではない。呑気に部屋を荒らされたことに怒り慌てふためく気にはなれない。
主人公様であれば相手や状況など考えずに気楽に行動出来るのだろうが生憎普通な俺はそんなことが出来ない。単純に反応をする前に色々と考え込んでしまう。
面倒な御仁は俺が起きたことに気が付くと不満そうな表情を向けて来た。
「やあ、斎藤君、おはよう。それにしてもキミの部屋は面白みに欠けるわね。青少年なのだから偏った性癖を隠し持っているはず。君はあれか、枯れているのかしら」
残念なことに俺の部屋には探されたところ困るような、あるいは面白いようなモノはそもそもない。元々あった本やらはどこぞの生き汚いダメ生物に持っていかれたしこっちの家に戻ってくるにあたって色々と身の回りは整理した
最近はサブカル的なモノにもあまり興味が惹かれなくなったという事もある。色々と興味関心が狭くなったという自覚はある。まあ、色々とあったので趣味も変わってきたのだろう。
そんな事実は伝える必要もないので面倒な御仁の面倒な言葉は無視して放り投げる。
「それで貴方はここへ何をしに、いや自分に何をさせに来たんですか」
「あら、やけに積極的だね斎藤君。私の駒になる気概でも出来てきたのかしら」
「まさか。面倒事は早めに処理したいだけですよ」
「でも、一時的にでも私の駒にはなるのよね」
「……今は自分には何も出来ませんからね。死ぬつもりはありませんよ」
面倒な御仁は不快感を掻き立てるような優越感を滲ませた笑みを浮かべる。それに反発したくなるのをため息ひとつで受け流す。憤りも自尊心も意味は無い。
必要なのは冷めた思考と客観視。
自称世界的な異能者組織の総帥。そんな人物が訳も無く出歩いたりしない。自身の精神衛生上の為に日常を必要とするかもしれないがそれに俺を巻き込む意味も理由もない。
精神衛生を守るのであれば趣味に走るのが普通。百合師匠の趣味といえば勿論百合。モブで冴えないおじさんである俺が御呼ばれするはずもない。
となれば自称総帥が俺の所へ来たという事は俺に何かをさせるためだ。勿論彼らの組織の野望の為の駒としてだ。
何故態々自ら足を運んだかはいくつか考えられる。単純に遊びでという選択肢も無いわけではないだろうがこの場合はそれが必須だから。俺にしっかりと役割を果たさせるため。正確に言えばこれから起きることに斎藤潤という主人公の友人という役割が必要だから。その役にある俺に行動を強要するためなのだろう。
正直力を集め過ぎた感のある俺はザマス眼鏡程度では何ともならない。万全時のローズマリー・キャロルや九重悠希でも何とかなるだろう。早乙女は少々面倒な気がするが何とかならないことも無い。
つまりは周囲の大体の相手であれば面倒だからという理由で要求を突っぱねることも出来る。
もっともそれをすればもっと面倒な輩が出てくるので大体においては大人しく従うつもりではいる。個人で力を得たところで出来ることには限りがある。そもそも周囲にいる人物の力も世界ではどれくらいの位置にあるのかも分からないのだし。
今はまだ俺には何も出来ないちっぽけな存在なのだ。
それは百合師匠も分かっているだろうからザマス眼鏡を使者とすることも出来たはず。
それをせず乗り込んできたという事は余程面倒なことか。
前回のような大規模な主人公育成計画。それも割かし重要なものかもしれない。
実に厄介だ。
そして俺の嫌な予想は少なからず当たっていた。
「これから君のところに竜泉寺零王がやってくる。力を貸してくれ、とね。そこで君には竜泉寺零王を手助けして導いてやって欲しい。なに、全ては準備してある。台本もエキストラの準備も終わっている。あとは主演が踊るだけだ。演目は、そうだな、『主人公の本当の力とヒロインの本当の姿』といったところですわ」
何とも陳腐な物語か。




