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友人Aの反逆日記  作者: みくじ


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14-7

 色々とあった1月ももう終わる。

 本当に色々とあったのだけれど結局はつまらない日常が待っていた。


 一人暮らしをしていた部屋は引き払い元々住んでいた家に戻った。ただし、両親は海外出張で、姉弟は留学へ行ってしまったので一軒家という場所は変わったけれど一人暮らしという状況に変化はない。

 出張や留学は書類上事実なのだが実際のところどうなっているのかは分からない。そもそも高野山でのあれこれの時にザマス眼鏡に処分されている。あの時は冗談だとか言っていたが実際のところは分からない。

 もっとも、斎藤潤の両親や姉弟は正直俺にとって関係のない人物だ。非日常に巻き込まれた時点で斎藤潤の肉親への感情は排除してある。そもそも俺は斎藤潤ではないのだからその肉親といっても何ら関係のない他人なのだけれど。

 強いて言えば俺同様巻き込まれてしまったことは不憫に思う。


 実は20代半ばのおじさんだと判明した俺だけれど社会的認識的には斎藤潤という16才の高校生。高校生であるからには高校に通わなければならず規則的な生活を強いられている。自分でおじさんという事は抵抗があるのだけれど急に10才も老いれば精神も老け込む。

 そして通わなければならない高校にも変わりはない。幸い今回は転校生は無かった。それでも見た目上ごく普通の人物が中心となり不可思議に盛り上がる。それを周りは許容し、それを助長するように盛り立てる。


 斎藤潤として些末な変化はあるけれど全体としてみれば何も変わっていない。

 いつもの日常、ありふれた平穏だ。

 そして俺が望まない非日常が支配した世界でもある。


 その中で些細ではない違いがあるとすればオセアニアさんや北陸連中と連絡が取れないくらいだろう。テイラー氏も学校を退職した。一身上の都合らしい。

 これについては、まあ、予測していた。

 魔力爆発が有ったのだから北陸連中が平気なわけがない。


 勿論それについて百合師匠やザマス眼鏡からの報告はない。現実は不親切で一から全てを説明してくれるなんてことは無い。仮に説明が有ったとしても真偽を確かめるすべがないのだから意味がない。

 彼ら彼女らがどうなったか分からない。だが楽観的な予測はすべきではないだろう。端的に言えば消滅したのだろう。あるいは運が良ければ俺との関係性を遮断させられただけで終わっているかもしれない。


 とはいえ彼ら彼女らの安否を確認するつもりはない。多少苦労して手に入れたモノではあるのだが拘る必要のあるモノでもない。所詮は駒。必要になればまた集めればいい。

 そもそもその為のマツウラ(捨て駒)なのだし。


 実年齢20代半ばのおじさんでありながら高校に通わなければならない俺は授業をサボって屋上でスマホゲーに勤しんでいた。授業をサボる理由は至極簡単で授業が面倒だから。妖気が非日常的な力があれば試験など何とでもなる。

 百合師匠たちが掌握する学校なのだから普通の学校より融通が利く。そうでなければ主人公様は既に退学になっている。

 それにニンゲンを辞めている俺には学力など必要はなく進路というモノも考える必要がない。俺がここにいるのは所詮数合わせ。居ることに意味があるのであって何かをしなければならないわけもない。


 教室で不貞寝をしていても良いのだけれど教室はちょっと遠慮したい。

 凡人たる俺には今のレオインとしているローズマリー・キャロルは精神的攻撃力が高すぎる。平然とそこにいて、主人公様をそれを無垢な笑顔で受け入れているのは狂気としか思えない。


 そんな訳で俺は屋上でスマホゲーに廃課金して時間を潰している。

 軍資金はザマス眼鏡が提供してくれるので気にする必要がない。この街この学校で斎藤潤でいるための最低限は彼らが用意してくれる。

 人様のお金で、それも際限なく使えるクレジットカードほど魅力的なものは無い。

 ただ、問題があるとすれば廃課金で手に入れたキャラクターにはあまり愛着がわかないという事。やりくりをして苦労して手に入れたキャラは大事に出来るのに金という力でぶん回して得たキャラには愛情が薄れてしまう。そんな俺は色々と教育されてしまったのだろう。


 それでもただただ時間を潰すためにスマートフォンをタップし続ける。

 無心で苦行に取り組んでいると不意に手からスマートフォンが落ちる。正確には右腕が消え支えを無くしたスマホが落下した。



「あなたはここで何をしているのですの。それもこの街に戻ってきてからずっとそうですわよ」

「仕方がないじゃないですか。クエストを進めるには素材を集めないといけないとかいう多段階式。正しく苦行ですよ。マジでなんでこんなことしているんだろうね」

「……何の話をしているんですの?」



 何の話と言われればイベントの話です。


 頭が痛そうにこめかみを抑え呆れて見せる金髪巨乳の美少女。

 音も無くあらわれたのはキャロル(偽)改めロジィ。この疑似人格は主人格であり創造主であるはずの俺を無視して勝手に実体化をしてしまう。不意に右腕が無くなるのは面倒この上ないのだけれど言って聞くようなモノでは無いので諦めている。

 作り出した俺が悪いのか基になった噛ませ犬系お嬢様が悪いのか。


 取りあえず落としたスマホを拾いクエストを完了させてからゲームを終了させてスマホをしまおうとして、スマホが再び手から滑り落ちる。ロジィが実体化してしまったので片腕、それも利き腕ではない左手だけでの作業は少々慣れない。

 片手で横着して扱う事は普段からあるのだけれど腕ごと無いというのは少しバランスが崩れるようで体の扱いが難しい。それもロジィが戻れば普通に腕も生えてくるので慣れた感覚も忘れてしまうのがさらに厄介。

 自分で仕出かしたことなので仕方がないとはいえ片腕が無いという事は少々不便だ。


 そんなことを感じながらスマホを拾おうとすると横から手が伸びてきて盗み取られてしまう。勿論この場にいるのは俺以外にロジィだけ。

 ロジィは拾ったスマホをクルクルと遊ばせる。言外にこれは返さないと言っているようだ。



「改めで聞きますわね。あなたはここで何をしているのですの。ここというのは授業をサボって遊ぶことを指していませんのでそういった勘違いはなさらないように」

「学校では実体化は避けるようにといったはずですけど。誰かが観たら色々と厄介でしょう」

「お気遣いなく。周囲の警戒くらいは出来ますので。勿論周りに一般人は居ませんわ。ですから真面目に答えてください」



 ロジィはかなりご立腹のようだ。

 それは美少女ゲーに廃課金する中年オヤジを蔑む女子高校生、というモノでは無く真っ当に普通の疑問と怒り。オタクに対する忌避はあるかもしれないけれどそれが全面ではない。

 その理由は分かっている。ロジィがこうして勝手に出て問い詰めてくるのは今日に限ったことではない。そして聞かれることはいつも同じ。


 何をするのか、だ。

 そして何をしているのか、だ。


 結局、俺はフォレストを名乗る黒幕の1人を前に反抗もせず無条件降伏に近い形をとった。態々ローズマリー・キャロルに手をかけて力を得てその制御のために疑似人格を作り出したにもかかわらずだ。

 そして斎藤潤という配役に収まってこの街に戻ってきて特に行動を起こさない。配役になり切って物語に登場することを拒否して、かといって物語から逃れたり物語を壊すような動きをしない。

 つまらない日常に戻って既に5日が経過している。相変わらず主人公様の周りではドタバタコメディが繰り返されている。それを感知しても我関せずを貫きスマホゲーで時間を無為に消費している。

 ロジィからすれば何をしているんだとモヤモヤするのだろう。



「何をしているか、か。それは暇ですることがないから時間を潰しているんですよ。配役上ここを離れるわけにはいきませんしね」

「あなたはその配役から逃れたくて私を取り込んだのではなかったのですの?」

「ええ、そうですよ」



 生憎俺は心優しき善良な生き物ではないし全てを手に入れたいという傲慢な生き物でもない。世界の命運など知ったことではないし、世界の支配権などに興味はない。

 俺が願うのはあくまで平凡で凡庸で、面倒のない日常。

 俺が俺としてのんびりと暮らせる場所さえあれば問題ないのだ。


 その為には斎藤潤という配役は邪魔でしかない。ならばその配役を強いる者たちに抗う必要がある。抗うことの出来る力がいる。少なくともその為に行動して、キャロルに手をかけた。


 けれどどれだけ力を手に入れても所詮は凡庸で力のない存在。自惚れるつもりはない。小さな個人がどれだけあがいたところで世界は変わらない。個人に出来ることは範囲が決まっているものだ。

 ならば、だ。そう、あれだ。やらなくていいことはやらない。やらなければならない事なら手短に。という奴だ。


 ネタはさておき結局のところ百合師匠たちがしていること、竜泉寺零王を中心とした物語が完結しなければ俺の配役も終わらない。そして俺にはその物語を打ち切りに持っていくほどの力は無い。

 ならば、自分の出来る事の範囲を見極め最善の状況を待つべきなのだろう。

 思惑を巡らせ物語を作っていく者たちの隙をつくしかない。


 もっともそう考えている者は俺だけではないだろう。そしてそういった邪魔者がやって来ると想定して面倒な奴らは事を進めている。だからそう簡単にはいかない。

 けれど幸か不幸か俺は斎藤潤という配役を与えられ物語を最前線で観戦させられている。

 ならば、だ。

 その時が来るまで待てばいいだけの事。

 どうせ物語は否応なくあれに降りかかる。そしてあれはそれを周りに振りまく。



「物語はまだまだ続くんです。だからご安心を。このまま何もしない、という事はありませんから」

「あくまで機会を窺っているといいたいのですの?」

「そんなところです」



 もっとも、意欲的に何かをするつもりはない。出来ればこのまま何もないつまらない日常が続けばいいと思う。おじさんであることも受け入れるし無意味な学校生活も許容しよう。

 けれどそんなことも言っていられないのだろうな。


 俺たちの戦いはまだまだこれからだ。


 なんて終わったりしないかな。

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