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友人Aの反逆日記  作者: みくじ


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14-6

 化け物の痴態が落ち着きキャロル(偽)の体力が尽きかけた所でようやくザマス眼鏡が動いた。



「師匠、そろそろ本題に入ってください」

「ん? ああ、すまないね。久方ぶりで熱くなってしまった。それにいつもと違いローズマリー・キャロルの抵抗がないのでついな。こればかりは斎藤君に感謝だな」



 かなり不本意な形で化け物から感謝されてしまったのだが気にしても仕方がない。ザマス眼鏡が外見年齢上年下の化け物をサラッと師匠呼びしているのも流しておこう。


 なんだか色々と馬鹿らしくなった俺は周囲の木や草で椅子を作り落ち着くことにした。立派で座りやすいモノを作ることは出来ないが簡易的にも落ち着けるくらいのものは数十秒もあれば作れる。流石は非日常的な力だ。

 椅子に座り落ち着いた俺は取りあえず相手の出方を窺うことにした。



「それで百合師匠、自分たちに何か用件があるのですか。勿論キャロルと絡みたかった、というだけでも構いませんが」

「何でしょうかその胡乱な呼び方は。生憎私はその手の煽りには慣れてますのでそういった手は通じませんよ」

「別に策のつもりはありませんよ。単純に口をついてしまっただけなのでお構いなく」

「そうですか。では御話をしましょう。と、その前に私の分の椅子も用意して頂けますか?」



 百合師匠、もとい化け物に頼まれて椅子と机を適当に用意する。化け物自身が作り出した方が早いのだろうに手伝ってくれない。こうして俺に力を使わせてその性質でも確認しているのだろうか。モブである俺にそこまで真面目になるかは疑問だが。


 山林の中で椅子に座り向かい合う4人。何ともシュールな状況なのだが気にしたら負けなのだろう。机の上にはティーポットとカップが並べられ優雅なティータイムを用意されているのも気にしたら負けなのだろう。

 ザマス眼鏡よ、何故素直に百合師匠にお茶を注いでいるのだ。とかも気にしたら負けなのだろうな。


 ティーブレイクをしばし挟んで百合師匠がまず口を開いた。



「さて、改めてだね。初めまして斎藤君。私はフォレストと呼ばれるモノ。宿り木、あるいはミストルティンと呼ばれる異能者集団の総帥でもある。斎藤君からすれば竜泉寺零王を使ってあれこれしている組織の親玉、といった方が分かりやすいかな」

「ええ、後者の方がしっくりきます。つまりここへ来たのもあれについてですか」

「そうですが、あれ呼ばわりは随分ですね。斎藤君の親友なのでしょう?」

「斎藤潤としてはそうなのでしょうね。ですが自分はそれではありませんし」

「そうなのですか?」



 心底驚いた表情をして見せる化け物。それは可愛らしくともすれば引き込まれそうな魅力を帯びた綺麗な表情。これが所謂女狐というモノなのだろう。

 だが、面倒と分かることに態々踏み込むような事はしない。女狐はどう接しても面倒なのだ。それに親友扱いされるのは今更だし、それについて過剰に反応して拒絶したりしない。

 それに則した行為を強制されれば別の話だが。


 中身のない意味のない会話に警戒を続けていると化け物は女狐の仮面を外し普通の人間っぽく笑ってみせた。



「そう警戒しないでください。これでも私は斎藤君にお礼を言いに来たのですよ」

「……自分のおかげで竜泉寺零王の能力がまた進化できたから、ですか」

「ええ。そこまで分かっているという事は私たちに協力してくれたという事かしら」

「御冗談を」



 普通の人間の様に、ヒトとしての感情を持った人間の様に笑ってみせる化け物。一般的にはこうして茶目っ気を見せることで共感などを得るのだろうが俺としては何とも空々しい限りだ。

 化け物は所詮化け物。凡人を理解できない。

 理解できないから推測して操ることが出来る。それっぽい行動で手玉に取るのが化け物たちの手管だ。


 それにしても宿り木、ミストルティンか。中二病御用達の北欧神話に出てくるモノだったはず。神を殺したとかなんとか。うろ覚えの知識だがザマス眼鏡の神を殺すことが目的、というのはあながち冗談ではないのかもしれない。

 勿論化け物や宿り木たちが何かをするにしても俺とは関係のない話であるのだが、何とも胡散臭い展開になって来た。平凡で凡庸で、面倒のない日常が望である俺には不要なモノだ。

 とはいえそうも言っていられないのだろうな。それなりに力を得たとはいえ未だに処理班系登場人物、斎藤潤のままなのだし。化け物もこうして会いに来てくださったわけだし。



「それで、本来の目的は何ですか。お礼を言って終わり、という訳でもないのでしょう」

「あら、斎藤君に会いに来たというだけではいけないのかしら」

「そういう普通の人間のようなモノはいらないです。ましてや小娘のようなそぶりは似合わないですよ」

「これでも私は容姿には自信があるのだけれど? 斎藤君の好みには合わなかったかな?」



 面倒なので化け物の遊びには乗らない。主人公様であれば面白おかしく喚いてくれるのだろうが生憎そういう若い精神は持っていない。外見からするに俺の年齢は20代半ばなのだし。

 それにこの手の美人系化け物は外面を偽っていることが多い。年齢を1桁鯖読みしたり外見をいじくりまわしたり、それこそ性別まで変えたり。

 目的を果たす過程で、神を殺す為の準備の過程で長い年月を経て性癖をこじらせたという事もありそうだ。例えば、百合好きが行き過ぎて自分の性別を変えて百合を自分で作り出して楽しんでいるとか。

 まあ、百合師匠の性癖は置いておこう。


 百合師匠、もとい化け物とザマス眼鏡が来た理由は何となく分かっている。

 結局のところ俺は斎藤潤を辞められていない。主人公様の阿呆な力を感知して、その改変から逃れることが出来たとしてもそれは意識だけ。俺が竜泉寺零王の親友的立場にいる斎藤潤であることには変わりない。

 だから連れ戻しに来たのだ。俺が手に入れた力、組織や関連性など無意味だと分からせ俺の過ごす場所はあの街、あの学校、主人公様の傍にしかないのだと分からせるために。


 それをする理由は竜泉寺零王の為。竜泉寺零王が俺を斎藤潤だと認識しそれが事実であると世界を改変してしまったから。そして竜泉寺零王の成長を促し安定性を確保するためにはあまり周辺を弄るのはよろしくない。


 あまり想像できない、というよりは吐き気がするような想像だが、斎藤潤が消えたあるいは死んだと知った時竜泉寺零王に少しはストレスがかかるかもしれない。そしてその結果化け物たちの計画が、あるいは世界自体にダメージを与えてしまうかもしれない。

 個人的には俺が消え去ったところであれは新たな斎藤潤を作り出すだけだと思う。俺はあれとまともな人間関係を築いていないしあれもまた真っ当な人格をしていない。それはキャロルの件からも推測できる。


 化け物たちもあくまで保険なのだろう。確定ではなくあくまで可能性の話で、それがどれだけ小さくとも排除できない以上無理したくないというだけの話。

 重要なのは主人公とその物語で所詮俺はモブ、些末な人物だ。



 ここで俺の抵抗に意味は無い。

 直接的な抵抗をすれば化け物様に消し炭にされるだろう。問題が起きる可能性があるが所詮モブ。重要視されない。利用価値があると判断されれば生き永らえるが、価値無しあるいは害で判断されればあっさりと切り捨てられる。

 消し炭になった後は適当な設定をつけられて事実を捻じ曲げた結果が残るだけ。あるいはヒトの死さえも計画に利用するかもしれない。


 全てを放り投げて逃げ出せばこの面倒な御話から逃れられるかもしれない。この場で化け物から逃げおおすことはそれほど難しいことでもない。

 ただ、現実と向き合わず逃避を選択した場合、俺は何者でもなくなり崩壊するかもしれない。今の俺は名前も存在も与えられたもので俺だけのモノでは無く、俺だけのモノは何もない。自分自身の生きる意味や目的を探すほど出来た存在ではないのだが唯無為に良きれるほど無垢でもない。

 人外の力に身を任せ化け物に成り下がるかもしれない。勿論その先にあるのは自己満足もない哀れな消滅だけ。


 結局あれこれ走り回った俺の頑張りは意味をなさない。

 出来ることは長いモノに巻かれて生き延びるだけ。所詮凡人1人が何かをしても大勢には影響しない。

 それでもこうして敵御大将が出張ってきてくれたのは悪あがきがそれなりに意味が有ったという事なのだろう。というより意味が有ったと思いたい。


 俺が取れる選択は今だ現状を受け入れることだけ。

 結局、斎藤潤としてあの街あの場所に戻ることになった。

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