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どうしてこうなった。
俺は自分の力を整頓するはずだったのに何故ナマズさんをヒト化することに。いや、まあリアルオオナマズと相対するよりは普通のヒトである方が良いのは確かだけれど。何だかナマズさんの為に頑張ったようで嫌だ。
「うむ、目線も低く、視野も狭い。とはいえ手足があるというのは便利じゃの。それにお主にしっかり触れられるというのは何とも嬉しいのう」
ヒト化出来て余程嬉しいのかナマズさんがウリウリしてくるのが鬱陶しい。俺も一応男なので女性に触れられて嫌な気にはならない。けれど何とも腑に落ちない。
元がリアルオオナマズと考えると心底気味悪いのだが見た目はモブな普通の女の子なので何とも表現がしにくい感情が湧いて来る。
一先ずナマズさんについては置いておくとして本来の目的である能力の整理だ。体を弄られてはいるけれど一切無視だ。
ナマズさんをあれこれしたおかげで一応俺の能力については何となく理解出来た。
感覚的な話ではあるけれど俺の力は粘土みたいなモノ。センスと感覚さえあれば何でも作れる。
その一方で想像力とセンスが無ければ作り出せない。加えて何でも作り出せはするけれどそれ自体に何かを込めるには限りがある。特にオンリーワンやナンバーワン的なモノは作れない。
所詮粘土で作れるのは模倣という事だ。
自分でも分かるような分からないようなだ。
兎も角想像力で何となくを組み合わせて出来ると思い込めれば大体できる。
キャロルについては何となく理屈付けは出来そうだ。
適当に何かにパスをつないでそこへキャロルの能力と意識を送り込めばいい。人としての意識を送り込めるかは微妙な所だけれどそこもイメージでは何とか補えそう。最悪は自分の人格を切り離して埋め込んでそこにキャロルの記憶などを上書きすればいい。
全ては思い込みとノリ。自分だけの現実、パーソナルリアリティとやらが重要という事だ。
結局はこれまでとそれほど変わらない。それなら態々水没村に来る必要はなかったのだがそこは気分だ。明確に原理や体系を気にしなくていいと分かったのは僥倖だろう。
それにナマズさんをあれこれしたことで自信がついたという事もあるので何の意味もないわけではない。たぶん。
いつまでもウリウリとしてくるナマズさんを引き離して少し真面目なモードに入る。
まずはキャロルの偽物を作るための土台作り、依り代となるものの準備。
魔力的なナニかを持ったモノ、あるいはキャロルをイメージできるナニカを用意したい。キャロルと関係のないモノを使い思い込むのは流石に難しい。
とはいえそう簡単に用意は出来ない。魔力的なナニかにしてもそう簡単に落ちていない。ナマズさんを使うという手もなくは無いのだがそれは最終手段。最底辺とはいえ土地神様なので使い道は慎重に、だ
よし子さんで使っていたのでのじゃ子に頼めば準備は可能かもしれないが今はそんな余裕はない。所詮のじゃ子なので頼んですぐに用意できるわけでもないだろうし。
キャロルをイメージできるものも無い。形見や思い出の物もない。そもそも関係性が薄いので思い出もあまりない。
俺とキャロルとの関係性は軽く戦闘をしたことと介錯したくらいだが、介錯か。
となるとかなり薄い関わりだが、俺の右腕か。
俺の身体は確かに魔力的なナニかで出来ているわけだし。安易で猟奇的で馬鹿らしい帰結だけれど思い浮かぶのはそれくらいしかない。自分のしたこと、することを考えればその程度の痛みは我慢すべきなのだろうな。
少しだけ間をおいて、心の準備をして、右腕を肩関節から引き抜く。
強化した左腕はいとも簡単に右腕を引き抜いた。
準備をして覚悟はしていたけれど馬鹿らしいほど痛みが襲ってくる。大量の血が流れて急激に体調が悪くなる。眩暈頭痛吐き気が揃って襲ってくる。ぼやける視界の中でナマズさんが何かを喚いているがそれに構っていられるほどの余裕はない。
引きちぎった右腕に繋がりがあることを確認してそれを物質変換で別物に変えていく。勿論変換は何でもいい。単純に俺とは別物に、出来ればキャロルをイメージできるナニカに変えられれば構わない。
安直ではあるがまずはキャロルの能力のイメージである炎を纏わせる。
腕が炎へと別物になったところで俺の中にあるキャロルの能力を移植させる。呪術的なつながりをイメージすれば難しくない。炎に能力が馴染むのを待って次の段階に移る。
形の無い炎から形のある者へ。
記憶の中にあるキャロルの形をイメージしてそこへキャロルの記憶の劣化コピーを流していく。
全てはイメージであり空想であり妄想だ。そうすれば出来ると思えば出来るのだ。馬鹿らしいほどの痛みと頭痛眩暈吐き気があれば余計なことを考えずに済む。
しばらくして、痛みが鈍痛に変わり身体の不調が落ち着いてきた。
ぼやけていた視界がハッキリとすると目の前には金髪巨乳のポンコツ噛ませ犬お嬢様がいた。
「自分で作り出しておいて随分な言いぐさですのね」
「何も言ってないと思うんですが」
「私は貴方でもあるのですから言葉にしなくても分かるのですのよ。全てを理解してしまうのは気持ち悪いので今はもう出来ないようにしましたが」
目の前のポンコツ噛ませ犬系お嬢様は本当に普通の人間の様に見える。文殊高校の教室で見ていた姦しい女子生徒のような装いで、それでいてあそこにいた誰かとは明らかに違う雰囲気でそこにいた。
見慣れたその姿で、それのような自意識を持っているようなので俺の妄想は現実になったらしい。
どの程度成功で何が出来ていないかは分からないが見た目としては十分妥協できるほどの成功らしい。
問題があるとすれば右腕が無くなったままという事。
今はもう血を垂れ流しておらず鈍痛が残るだけではあるが治る気配はない。いつぞやしたように体を魔力的なナニかにして復元しようとしてみるのだけれど出来るイメージがしない。体自体の変換は出来るのだけれど右腕を復元することのイメージが出来ない。
どうしたものかと考えているとお嬢様が俺の右肩に触れた。
「貴方の右腕は復元できませんわよ」
「どういう事ですか」
「どうも無いでしょう。貴方が自分の右腕で私を作ったのです。ならば私がこうしている以上元に戻らないのは道理ですのよ」
お嬢様に指摘されてなるほどと思う。俺はキャロルを切り離すために右腕を使った。ならば切り離されている以上は元に戻せないは確かに道理だ。
道理なのは理解したけれどどうしたものか。隻腕となるとそれなりに不便。けれど無いなら無いなりに何とかすればいいか。どうせ人間ではないのだし腕である必要性もないし。スタンド的なナニかを作り出すのもありか。
一先ず右腕については諦めるとして目の前のお嬢様を何とかしようか。
「それでお嬢様の方は体に問題は有りませんか。特に能力的なところが気になるわけですが」
「能力については問題ないですわ。幾分か劣化しているようですが行使するのは問題なありません」
「……記憶についてはどうですか」
「ええ、私がローズマリー・キャロルであると認識しています。勿論、オリジナルから作られた劣化コピーであるという話も覚えていますわ。あまり実感は出来ませんが」
一応キャロルの劣化コピーは出来たらしい。能力も記憶も移植で来ているらしい。能力についてはおいおい確認させてもらえばいい。本人が理解しているのであればそれもあまり必要ないけれど。
記憶については、まあ、想定の範囲内か。自分が複製品だとかは理解出来ても納得や許容は難しい。そのあたりは身をもって理解しているつもりだ。一先ず発狂したり憤怒をまき散らしていないだけでも十分だ。
俺があれこれ考えているとお嬢様の表情は困惑に変わった。
「失礼ですが、貴方は斎藤潤で良いのですよね」
「確かにそう呼ばれていますね」
「……私の記憶にある顔とはかなり違っているのだけれど。どういうことですの?」
やはりキャロルにも主人公様からの影響を受けていたらしい。俺の事は一般人だと思っていたし、同い年の同級生だと信じていた。今の俺の顔を見ても誰だか分からないらしい。
双方の状況や境遇を理解するため一先ず問答をする。
本来お嬢様は俺の一部であるので見方を変えればひとり喋り、自問自答であるのだけれど仕方がない。解離性同一性障害、所謂多重人格みたいなものだ。色々と考えて頑張ってくれる人格があるというのは便利なことだ。
お嬢様との問答で分かったのはキャロル自身にも主人公様の洗脳は及んでいたという事。
キャロルは欧州の科学系異能集団の生まれ。主人公様の背後組織とは敵対関係にある。主人公様の危険性を測ることと危険と判断したら処断することが本来の来日の目的。主人公様と接触して早々に危険性を感じ取って処断しようとしたとのこと。
けれどそこで、主人公様に靡いてしまった。他愛のないことで主人公様に心を奪われてしまう。使命など忘れてその人に尽くしてしまう。その結果、主人公に寄り添ってしまった。
勿論感情というものは不安定で何の力も働いていないという可能性もある。けれど今のお嬢様からすると何やら不自然に思うところがあるらしい。御話があまりにも陳腐で都合が良すぎる。
もっとも、真実は分からないけれど。
取りあえず双方が納得できるほどの問答は出来た。
出来たは良いけれど同時に問題が浮上した。
「それで貴方はこれからどうするつもりですの? というよりは貴方は誰であるつもりですの?」
「どうしましょうね。自分が何者で何を為したいのかが分からないんですよね。因みにそちらはどうするつもりですか」
「どうもありませんわよ。私は貴方が作り出した偽物、劣化コピーですのよ? 」
「いや、まあ、そうなんですがね」
紛らわしの為にした能力の整理が終われば問題が残るのは当然。
けれど幸か不幸か、あやふやのままで自問自答する前に面倒が舞い込んだ。
周囲とは隔絶されたはずの水没村でも観測出来てしまうほど爆発的な魔力が発生した。




