14-3
所詮競馬なんて遊びだ。本気になるものじゃない。
あんな奇跡は滅多にないが所詮は外れだ。
あれくらいの配当金なら今の俺には痛くない。
そう思う事にして外れたことは忘れることにした。
伊勢谷は俺やダメ生物とは違い理性が強いのか競馬からは手をひくらしい。
まあそれが無難な選択だろう。所詮他人のお金でしたかけ事なので取り戻したい金額もない。だから簡単に手をひけるのだろう。
残念ながら俺はもう引き返せないところまで来ている。
伊勢谷は仕事があると言ってどこかへ消えていった。
別にここが伊勢谷の居場所でもないので問題ない。というかようやく帰っていったのかとどこか安堵している。
置き土産として何やら資料を貰ったがそれはそのうちいつかでいいでしょう。
何がかかれているのかは知らないが今のところ俺には行動の指針となるものは無い。
それが決まって気が向いたら見るとしよう。
さて、そんな訳で、どうしよう。
現状俺にはすべきことしたいことがない。
今更学校に行こうとも思えない。一応、まだ、戻ることは可能だがそんなつもりは無い。
人外となった手前、表向きの事に気を遣う必要はないので就職し労働する必要もなくなった。
ビバニート! というわけだ。
とはいえ、何もしないでいるのも退屈だ。外界の事など知らんと寝る間を惜しんでネトゲやソシャゲに勤しむのもひとつではあるのだがそんな気分でもない。
下手に引きこもっていると主人公様の理不尽を思い出して発狂しそうになる。
何かをしたいのだが運動不足で少し運動がしたいとかそういうモノとは違う。
明確な何かをしたい気分。だが、物語に首を突っ込むのは当然却下。今更一般人として就職とかも違う。というか働きたくはない。
現実的なのは人外としての指針を決めて行動に移すところなのだが今はまだそんな気分ではない。
気分ではないというよりはまだできないというべきか。
強大な力を手に入れてしまったのだが現状その力を持て余している状態にある。仮に指針を決めたとしても行動には移せない。
ならばとりあえずそちらを整頓するべきか。
良くも悪くも主人公様の理不尽から本格的に乖離出来てしまったので面倒が舞い込んでくるかもしれない。こちらからは関わるつもりは無くとも彼方から何かしてこないとも限らない。何もしなくとも関わることが出来るというだけで目障りに思われるかもしれない。
なんだか結局は面倒事になりそうだな。
理不尽から乖離しても変わらないとか止めて欲しい。
本当に。切実に。
となると予防を含めて力を制御する方が優先の様な気がする。
何だか力を追い求めているようで嫌な気分になるのだが仕方がない。面倒の為に面倒をしよう。勿論身の程はわきまえて。
そんな訳で久方ぶりに水没村にやってきたのだが。
「結局お主は吾の下に戻ってくるのだな。愛い奴だのう」
何故かナマズさんが正妻化していた。
ウザったいくらいにウリウリと頭を撫でてくる。これが御話に出てくる大安売りの絶世の美女とかであれば嬉しいのだが俺の現実はガチのオオナマズ。頭を撫でるのは巨大なひれで、顔に口ひげがかかってかなりウザい。少し滑っとして生臭いのもかなり腹立たしい。
何故水没村に来たのかといえばここくらいしかあてが無いから仕方がなくだ。
力を制御するにしても何も知らないでは出来ない。主人公様やほかのヒロインに頼るのは当然無しで神崎のところも論外。綾香大明神やのじゃ子は木っ端過ぎるので能力関係では役に立たない。全く無能というわけでもないのだろうが主人公様の理不尽の影響下と思うと少し拒絶反応が出る。
潔癖というわけでもないのだが色々と消化できないでいる現状では影響下のモノとは関わりたくない。
そんな中で伊勢谷やダメ生物以外で影響下に無いものと言えばナマズさんしかいなかった。
見た目がナマズ過ぎてゆるキャラにすらならないナマズさんだがこれでも一応土地神。
土地神といっても最底辺でヌシとかその程度らしいのだがそれでも理不尽の影響を受けていない数少ないお方である。
「それで力の使い方を聞きに来たんですが」
「そうは言われてもな。吾は特に何をしたでもないからな。その点人間であるお主の方が分かるとおもうがの。人間は出来ないことでも出来るようになるからな」
「では、ナマズさんは出来ることしか出来ないと? 成長は見込めないと」
「まあの。残念ながら教えられることはなさそうじゃ」
ナマズさんは始めからナマズであり土地神なので努力を知らないらしい。
強くなるという意思や何かを成し遂げたいという気概もない。出来る事をして、そこにあるというのが土地神らしい。
やろうと思ったら出来た。出来るから出来た。それだけでは今までと何ら変わりない。
分かっていたことだけれどそんなに簡単ではないらしい。
やはり反復練習や確認が無難だろうか。結局は面倒が一番最短なのだろうか。
「……自分も力を上手く使えればナマズさんをヒト化できたりしないかなぁって。そうすれば旅が出来ると思ったんですがねー」
「な、なんと! そうだったのか、そうだったのだが! そうであれば吾も全力をもって協力せねばな」
ため息交じりに煽った言葉がナマズさんに刺さってしまった。
一度は離れてくれたリアルなナマズが再び迫って来る。かなり生臭い。かなりグロい。
とはいえ真面目に考えてくれるのは願ったり。
あとは本当にナマズさんがヒト化できないかとは少しだけ思っている。ヒト化した途端に美形化なんてことは期待していないけれどリアルオオナマズよりは幾分かましだろうという期待があったりもする。
ヒト化したら五十路のオバサンということもありそうだが。一先ずその懸念は置いておこう。
「一先ずお主は何を悩んでおるのだ? 何やら随分と力をつけて帰ってきたようだが」
「その力が少し面倒なんですよ。どうにも自分のモノに出来なくてですね。何とかしたいんですよ」
「そういうものかの。だが、出来ないと感じるのなら確かに出来ないのだろうな。お主の力はあまり人間臭くない。どちらかというと吾に近い。近いだけで別物だがの」
「そうですか? 自分自身ではよくわかりませんが」
「ああ、そういえば以前吾を襲ってきたモノの中にお主に似ておったモノがいたな。あやつは確か自身を人外だと名乗っておったな。ま、あれはお主と違い弱かったがの」
その昔、ナマズさんの体感なのでいつの時代なのかは不明だが、ナマズさんを殺そうとやってきたモノがいたそうだ。それは俺にどこか似ていたらしい。人外と名乗っていたそうなのである程度同じような存在なのだろう。
とはいえ似ているのは力のあり方で力の強さは木っ端だったらしい。
その木っ端の弁では人外は他者から力を奪い己の力にすることで強くなる。
人外の力は奪った相手の能力の影響を受ける。
木っ端は既に神を3体吸収して世界最高峰になっているとのこと。
最後の情報は気にしなくていいだろう。ナマズさんを三枚おろしに出来ないで世界最高峰とか大言壮語もいいところだ。
ナマズさんの昔話から思わぬ情報だが、ある程度は聞いていたことだ。
目新しいのは奪った相手の能力の影響を受けるというところか。
そしてあくまでも影響を受けるだけで奪ったモノの能力だけしか使えないわけではないということ。
「つまり自分は何でもできると?」
「どうだろうな。言うなれば出来ることなら何でも出来るということだろうよ。結局はそのモノの本質、素養次第だろうよ。吾も出来ることしか出来ぬ」
「そういうモノですか」
「そういうものだのう」
結局は当人次第。何とも使い勝手がいいというべきか適当というべきか。出来るとも出来ないとも分からないこの中途半端さが何とも。
可能性が無限大とか言えば良く聞こえなくも無いが所詮俺は器用貧乏の友人A。特別な何かが出来るとは思わない。可能性だけ無限にあっても意味は無い。単に不確定で不安定ともいえる。
しかし盲目的なヒロインと化しているナマズさんにとっては違うらしい。
「お主は随分器用だからのう。大体の事は出来るのではないかな。吾の事をヒトにするくらい簡単だろうよ。ほれ、やってみろ」
随分と簡単に言ってくれる。それだけで出来るのなら苦労はしない。
所詮は淡水魚の知能というところか。
「そうは言いますがイメージが出来ないんですよ。出来ないと思う事は出来ないというのならやはり出来ないんですよ」
「別に何かにこだわる必要はないのだぞ。結果が伴えば過程は気にする必要はない。ニンゲンはその辺を気にしすぎるからな、よう考えてみろ。お主は色々と力を蓄えてきたのだろう」
ナマズさんに迫られて顔を背けながら考える。
俺の基になっている力。大本は言うまでもなくチヤだろう。そこから呪術師であったよし子さんと物質変換のテイラー氏。あとは擬き君とあかん奴ら。そしてキャロル。
改めて考えると俺も随分と力を手に入れたモノだ。それこそ世界最高峰にまで昇ったと自惚れてしまいそうだ。ま、身近に理不尽があったのでそんな妄想は出来ないが。
さて、能力を並べて考えよう。
生き延びる力と呪術と物質変換と先読みと雑多。
姿形を変えるのであれば物質変換が無難か。問題は形を変えて本体が無事かという事。土地神というのだから人間の様に脳や神経があるわけでもないだろうが。
考えるべきはナマズさんの本体が何にあるかだ。神らしく本尊とかあると少々厄介だ。
「ナマズさんって本体とかあるんですか。依り代というか本尊とかそういうものですが」
「いや、吾は吾だぞ。強いて言えば魔力が核だろうかのう」
魔力が核というのであれば幽霊少女であるよし子さん辺りと同じか。神と幽霊を同系として扱うのが良いのかはさておき。
となると意外と簡単かもしれないな。
俺自身を魔力に変えたこともあるわけだし。
「ふーん。それなら出来なくも、ないかな」
「そうか。ならやってくれい。そそっとな」
ナマズさんの全幅の信頼が面倒くさい。
多分できるのだろうけれどそう簡単にも出来るモノでもない。下手をすればひとつのモノが変形してしまうのだ。多少気後れする、いや、しないか。所詮はナマズさんだ。失敗しても問題はない。失敗した時は俺の糧になってもらえばいいだけじゃないか。
それに既に自分を魔力に変換経験済みだ。ならば大丈夫とさえ思えて来る。
なんだかあっさりと意識が切り替わったので早速ナマズさんを擬人化することにした。
ナマズさん自身も言ったように核が魔力だけあって作り替えるのは簡単。呪文や魔法陣なんて必要はなく手で触れてイメージするだけ。ただ瞬間に終わらせることは出来ずに少しの集中が必要となった。
イメージすること数分。
夢想の完了とともに摩訶不思議煙が立ち上がりナマズさんを包む。ナマズさんを覆った煙は直ぐに霧散していきひとつの小さな影が出来上がった。
それは、見事なまでに普通の少女だった。
「うむ。出来たようだな。確かに人型になっておるようだ」
5メートル大のオオナマズから150センチ程の人型に縮小したのだが当の本人は気にした様子はない。まあ本人が気にしていないのなら問題はない。
ヒト化された結果美少女とかではなく本当に普通の少女。瞳は大きくなく細すぎることも無い。顔は丸すぎることも角ばってもいない。体躯も中学生程度で出過ぎず大きすぎず、髪の色も黒で瞳の色も黒で普通の日本人風。
中学生程度の特に可愛くも無く、けれど醜悪でもない、特徴もない普通の女の子。
まあ、普通とは言ったが決して悪くない。レオインズの様な絶世の大安売りな美少女を見過ぎているのであれだが普通というのも悪いわけではない。
それにリアルババアが出来ると予想されていたのでそれを考えるとこれは大当たりではなかろうか。
兎も角、ナマズさんを普通の女の子に変換することが出来た。
これで良し。
ん?




