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8 十からはじめる迷宮探索

 パスカルが秘書として働いてくれることになり、仕事が捗るかと言われたら確かにそうなのだろう。だが、パスカルは優秀すぎた。

「村長、木綿の売り上げもわずかにですが伸びておりますし、そろそろ干し肉の販売価格を上げていきましょう。価格のほうは――」

「村長、村に来るものが増えると予想されます。宿屋の建設について議案書をまとめました。人員については――」

「村長、綿花に使っている肥料ですが、最近、新たに開発されたものがありまして、一区画だけ試しに肥料を使用してみては――」

 と、次々に仕事を用意してくれるので、仕事量が減ったかと聞かれたら、むしろ増えた気がする。

 彼女はそれに加え、商会の経営も手を抜いていないのだから凄い。

 商会のほうは、最初は空き家を利用していたが、今は支店となる建物が完成し、そちらで仕事している。

「それにしても、ミコトさんのお人形はすごいですね」

 今は役場の昼休み。昼食後、少し働いてからの休憩時間である。休み時間は昼食とは別の時間に取ったほうが効率がよくなるという彼女の提案で用意された。

 緑茶を飲んで一休みしていた。今まで役場では安いからという理由で麦茶を使っていたが、眠気防止やリラックス効果などを考えるとこっちのほうがいいとして、パスカルに売りつけられた。彼女も飲むんだから少しはまけてほしいと頼んだのだが、役場の経費ですと却下された。

「あんなに早く店を完成させていただけるとは思いませんでした。あの人形、本店にも一体ほしいですわ」

 パスカルがお茶を飲みながら、「何よりお給金が必要ないところが素晴らしいです」と言う。

「あれはミコトから離れたところにいると元の紙切れに戻っちまうんだよ。だから、建築中はミコトは村の中にいただろ?」

「そうなんですか、ドラゴン狩りができないから休んでいらっしゃるのかと思ってました」

 パスカルはその粘土人形の仕組みについては深く追求はしない。

「それも間違いじゃないけどな」

 俺は笑顔でお茶を飲む。

 少し苦味が強いので甘い食べ物が食べたくなるが、パスカルに言えば高い砂糖菓子を売りつけられるだけだ。

 しかも砂糖菓子は本当に砂糖を固めただけのお菓子だ。クリスマスケーキに乗っているサンタクロースを思い出す、ちょうどそんな味だ。

「あら、村長、うれしそうですね」

「あぁ、昔を懐かしんでな」

「それだけでしょうか?」

 パスカルがじと目で尋ねる。

「まぁ、明日の仕事が楽しみであることは否定しないよ」

 ようやく俺にもまわってきた、ロールプレイングゲームらしい仕事。

 ハンゾウが発見した迷宮に関して、都市同盟の広域冒険者ギルドから情報提供の依頼があった。

 迷宮の詳しい位置、中の構造、魔物の種類やドロップアイテムのカードの情報などが欲しいというのだ。

 それは冒険者を村に呼び込むためには必要な情報だったので、すぐに提供したいと思った。

 そこで俺は思ったわけだ。この目で見てこその情報提供だろうと。

 仲間を信用していないわけではない、信用していないわけではないが、やはり人から聞くのと、実際に見るのとでは報告書の重みも異なる。そういうわけで、明日、俺はハンゾウたちと一緒に迷宮に行くことになった。

 そう、明日、俺は迷宮を探索する!



 迷宮は村の南の樹海の中にある。

 樹海というイメージからしたら危ない魔物が出てきそうなのだが、そこは迷宮の特性により、その数は極端に少ないらしい。

 迷宮の魔力鉱は魔物を形成するための魔力を集めて、迷宮の中に魔物を生み出す。一定以上の魔物が迷宮の中に出現しない限り、魔物が迷宮から外にでることはない。

 というものだ。

 つまりは安全地帯というわけか。

「このあたりはキノコが豊富でござる」

 とハンゾウは拾ったキノコを背中に背負ったカゴの中に入れる。緊張感は皆無だ。

 ビルキッタにキノコ鍋をごちそうするんだと張り切っている。

「ハヅキちゃんもここの迷宮に来るのは初めてなんだっけ?」

「はい。森だとこの身体は動きにくいので」

 そうだよな。猫のぬいぐるみなら木の根っこを超えるのも一苦労しそうだ。

 ミコトやハンゾウも肩に乗せて運んでくれると思うのだが「今はスグルさんの肩以外には乗りたくないです」とうれしいことを言ってくれる。

 モテ期きたなこれ。ハヅキちゃん限定だけど。霊体のときはかわいい女の子だから素直に喜ばしいことだ。

「ここでござるよ」

 それは、巨大な樹だった。

 幹の一部に穴が空いており、そこに縄梯子がつけられている。

「では拙者から先に――」

 ハンゾウが先に降りようとしたところをミコトがチョップを入れた。

「み、ミコト殿、ここは拙者が先に」

「いやよ、今日、私下着履いてないの」

 俺の目線が思わずミコトの袴に向く。ミコト、とんでも発言かましやがった。

 ハンゾウは血涙を流して「やはり拙者が先にいかしてほしいでござる」と言ったが、ミコトはそれを無視して縄梯子を使わずに大樹の穴から飛び降りた。

 豪快にもほどがある。

「くっ、帰りこそは必ず」

 そういい、ハンゾウもまた梯子を使わずに飛び降りる。

 あ、ええと、俺は梯子を使ってゆっくり降りさせてもらうからな。ハヅキちゃん、あいつらと比べて幻滅とかしないでね。

 穴から10メートルほど降りたところで、俺は迷宮へと降り立った。

 高さ5メートル、横幅5メートル程度の通路が十字に伸びている。

 迷宮の中は淡い光を放っていて、松明なども必要はない。魔力鉱の光だと聞いているが、こんなに明るいのなら家の照明にも使えそうな気もする。

 ただ、魔力を集めたらそれだけ魔物を生成させることになるので実用化は難しそうだ。

 俺は方位磁石で方向を確認すると、方眼紙と画板と鉛筆を取り出し、地図の作成を始めた。全てガルハラン商会から購入している。村で一番の上客だろうなとか自負したい。

 オートマッピングが主流の現代ゲームだが、レトロゲームも楽しんでいる俺からしたらこの作業もまた趣があると思う。ウィ○ードリィシリーズユーザー必須の作業だ。

「スグルさん、楽しそうですね」

「まぁ、本来の俺の趣味はやっぱりこっちだしな。経営ものも嫌いではないんだが」

 やっぱり迷宮探索にはロマンがあるよな。

「迷宮って魔物の他は宝箱とかはないんだよな」

「宝箱はないでござるが、隠し部屋ならあるでござるよ」

「マジか? でも宝箱がないなら中に何があるんだ?」

「魔物が大量にいるでござる」

「モンスターハウスかっ!?」

 俺は思わず叫んだ。

「それを言うならモンスタールームでしょ?」

 ミコトさんにつっこまれるが、やっぱり不○議なダンジョンシリーズをやっているものからしたら、モンスターハウスと呼びたいよ。

 なんでも、開閉式の扉があるにはあるのだが、魔物には開けられないトビラらしい。ただ、魔力鉱があるからその部屋にも魔物は生成される。そして、生成され続け、魔物が大量にいる部屋になるとか。つがいでハツカネズミを飼ってしばらく後みたいな状態だな。共食いみたいにならないのか気になるところだ。

「まぁ、この迷宮の隠し部屋は全て調べたからもう心配ないでござるよ……お、どうやら魔物のようでござるな」

 ハンゾウがそう言う。もちろん俺には全く気配は感じないが、ミコトさんも気付いていたようだ。

 ハヅキちゃんの全身の毛は逆立ってはいない。気付いていないというよりかは、敵として認識していないだけかもしれないが。

「強いやつなのか?」

「いや、雑魚でござるよ」

「まぁ、お前たちからしたら全員そうだろうが」

 なにぜ飛竜すら雑魚設定だしな。

 暫く待っていると、足音が近付いてきた。

 とても重い足音が、だんだんと近づいてきて、その影が曲がり角から現れた。

「でかいっ! ゴーレムか」

 それは岩の人形だった。高さは3メートルに届こうかという巨大な魔物だ。

 どのくらい強いのだろう、と思っていたら、ミコトが歩いてゴーレムに近づいていく。

 ゴーレムはミコトを敵と認識したようで、その巨大な岩の拳をミコトに振り下ろし――

――当たったっ!

 そう思ったのだが、ミコトはその拳の横を平然と歩いていた。まるで、残像だけを残してかわしたかのように……いや、本当に残像だけを残して横にかわしたのだろう。

 ゴーレムは拳を持ち上げると、今度は足でミコトをけろうとし――その岩の足がミコトの拳と衝突した。

 ゴーレムの足は一瞬で砕けて瓦礫となり、足から割れ目が全身に広がり、ゴーレムは己の自重により崩壊していった。

 そして、がれきの山は魔力となって四散し、カードが3枚残された。

『銅鉱石』『ひび割れたゴーレム核』『400ドルグ』

 どれも通常ドロップアイテムだという。

 てか……え? そんなにあっけないの?

「ミコト、岩なんてなぐって手は大丈夫なのか?」

「ふふ、心配してくれてありがとう。でもね、魔物も人も全ての物には必ず脆い場所があるのよ。私はそこを突いただけ」

 突いただけって、それは毒針で100%魔物を殺すようなものですよ。世紀末覇者の域に達してますよ。

「もう一体くるから、今度はスグルくんもやってみたらどうかしら?」

「え?」

 すると、今度は先ほどよりも小さな鎧の騎士みたいな魔物が現れる。ただし、その中身は空っぽ。

 動く鎧はゲームの定番だが、俺に倒せっていうのか?

 うわ、動く鎧は今度は俺を敵と認識したのか、剣を抜いてかけてきた。

「安心して、スグルくんが危険な目にあうことはないわ。ハンゾウ、あれやって」

「承知した。忍法」

 ハンゾウが両手で印みたいなものを結んで、

「金縛りの術!」

 そう叫ぶと同時に、動く鎧が止まった。片足を上げた状態で、まるで石像にでもなったようだ。

「では、スグル殿、どうぞ」

「あぁ、わかった」

 俺はクナイを構えると、動く鎧に一撃を加え、その衝撃で俺がダメージを負った。

 か、硬ぇぇ、全然刃が通らない。

「スグル殿、まずは鎧の継ぎ目から」

「いいえ、やっぱり真ん中よ」

「スグルさん、頑張ってください!」

 言われて頑張ってみるが、全然ダメージが通っている気がしない。

 結局、クナイをふるうこと15分、最後はハンゾウにとどめをさしてもらい、動く鎧は、「鋼鉄」「300ドルグ」の2枚のカードへと姿を変えた。


 この日の報告を書類に書いて冒険者ギルドへ提出。

 後日、動く鎧、ゴーレムは高レベルの魔物であって、レベル20未満の冒険者ならパーティーを組んでも太刀打ちできる相手ではないことが判明した。

 俺はペンダコならぬクナイダコに悩まされながら、今日も書類に向き合っていた。

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