71 命がけな免許皆伝試験 -その3-
ストーンゴーレムには弱点がある。
顔の部分にある核だ。しかも、核は表面から見えるようになっている。
つまり、そこを狙えば勝てる。
それがもう一つの弱点だ。
つまり、ストーンゴーレムは常に核を守ろうと動いている。そのため、フェイントにひどく弱い。
だから、チョコに戦術を教えたら、もう俺に負けはない。
「いいぞ、チョコ!」
核に向けて突撃するとみせかけて、咄嗟に身体を回転させ、身を守ろうとしたストーンゴーレムの腕を足場にし、下に飛び、地を蹴り前へ。
下から跳びあがると思わせてそのままストーンゴーレムの股をくぐり後ろに抜けてジャンプ。
下を向いているゴーレムの完全となった死角、つまり天井からの攻撃に気付いたときには、チョコの爪がストーンゴーレムの核を捉えていた。
瓦解して消滅したゴーレムは3枚のカードに変わった。
楽勝だ。チョコにとっては。
「こっちは片付いたぞ」
俺は背後で戦うラキアとカリナに言った。
「え、もうですか」
ラキアはストーンゴーレムの攻撃に耐えながら、驚いてちらりとこちらを見てきた。
あっちはかなり苦戦しているようだ。
「ラキアくん、魔法撃つよ!」
「わかった」
ラキアはそう言うと、ストーンゴーレムから一度距離を取る。
そして、
「ファイヤーボール!」
カリナが炎の球を再び放つが――それもゴーレムの腕に防がれてしまった。
んー、やっぱりか。
ラキアが再び前にでて、ストーンゴーレムの攻撃に耐えていた。
「ラキア、聞きながら戦え。カリナも。今の二人の動きは単発攻撃の連続だ。連携ができていない」
「連携ですか?」
「ああ。魔法使いの一撃は確かに強力だが、それだけでは倒せないぞ。カリナの攻撃の時に退避するんじゃなくて、隙を作ろうとしてみるか」
俺はそこでほくそ笑むように言った。
「魔法を囮にしてお前がとどめをさすかだ」
「魔法を囮に……カリナ、次の魔法まであとどのくらい?」
ラキアは何か思いついたのか、そうカリナに尋ねた。
「あと20秒」
さて、どうなるのか。お手並み拝見だ。
俺はそう思いながら、懐からチキンジャーキーを取り出し、チョコに食べさせた。
ちゃんと水も飲むんだぞ。よし、いい子だ。
水筒の水をおいしそうに飲むチョコの頭を撫でる。
「ラキアくん、いけるよ!」
カリナが言うと、ラキアは後ろに下がる。
「カリナ、頼む!」
「うん、わかった! ファイヤーボール!」
これだとさっきとまるで一緒じゃないか。
カリナが放ったファイヤーボールは再びゴーレムの腕に――あぁ、さっきとまるで一緒だからこそか。
ラキアはファイヤーボールが放たれると同時に、ストーンゴーレムの左側――ストーンゴーレムにとって自分の腕が生み出した死角に入り込んだ。
「チョコっ!」
そして、ストーンゴーレムが自分の手を戻すと同時に、ラキアは動いた。
完全な死角からの攻撃、それは――それは、遅すぎた。
ラキアの剣が届く前に、ゴーレムの反対側の腕がラキアに届こうとしたとき、チョコが先にゴーレムの核を捉えた。
「ラキア、無事か?」
「え、あ、はい……すみません、スグル村長……助かりました」
「作戦は悪くなかった。次は頑張れよ」
そう言って、俺たちは再度迷宮の奥へと進んだ。
三人と一頭で進んでいると、カリナが声をかけてきた。
「スグル村長って、弱いのになんでそんなに戦い方の指示を出せるんですか?」
ぐさっ!
俺のハートに鋭い槍が刺さる。
弱い……あぁ、弱いよな。自分でも最近はちゃんと意識してるけど、やっぱり他人に言われると辛いよな。
「よ、弱いからな。工夫して戦うしかないから、魔物の動きは全部研究してるんだよ。特にこの迷宮の魔物なら、歩く歩幅から拳を振るう速度まで記憶してるよ」
そこまでしても俺は勝てないんだけどな。
前に、ハンゾウと動く鎧を倒そうとして失敗した後、実はストーンゴーレムを倒そうともしたんだよ。
クナイを持って、ストーンゴーレムの弱点の核をひたすら攻撃した。子供の拳でも倒せるはずなのに、俺のクナイの攻撃でも倒せなかったんだよな。
「研究……ですか」
「敵を知り、己を知れば百戦危うからず、だな。孫子の教えだ」
「孫子って、スグル村長の世界の人ですか?」
「あぁ、といっても大昔の……って、ラキア、何を言い出すんだ?」
俺はカリナを睨み付ける。
すると、カリナはテヘペロ……女の子じゃなかったら殴ってた。
まぁ、誰かを本気で殴ってもダメージを与えられないどころか、僕の拳に致命的なダメージが出るけど。
「まぁ、なんだ。他のみんなには黙っててくれよな。隠すことはないとは思ってるんだが」
「わかってますよ。正直、最初に村長から直接聞かされたら、頭のおかしい人だと思ってしまうところでしたから」
ラキアも少しは本音を隠すことを覚えような。
まぁ、俺も近所のおじさんが「実はワシ、火星人なんだよね」とか言い出したら、とりあえず逃げるけどな。
そう思うと、月から来たと言ったかぐや姫のことを信じた帝のことは本当に尊敬できる。
「カリナ、他には誰にも話していないな」
「はい。まぁ、ラキア君には隠し事をしたくないと思っちゃいまして」
まぁ、俺も誰にも教えられない秘密ごとを抱えたら、ハヅキちゃん相手には話したくなるよな。
最も信用できる人だけには話したいというのが人間の心情だ。
「ん? この足音は動く鎧か。二人とも、戦闘準備しろ。カリナはMPが少ないから気を付けろよ」
「「はいっ!」」
こうして、二人は俺の……というかチョコのサポートを受けながら、迷宮の最奥にたどり着き、ハンゾウが置いたと思われる巻物を見つけて帰って行った。
ちなみにだが、縄梯子もチョコは器用に登って上がれた。
流石だな。
※※※
「というわけだ」
俺は迷宮であったことを皆に隠すことなく伝えた。
不合格かどうかの判断は任せるが、まぁ、恐らく、
「合格でござるな」
「「本当ですか!?」」
二人が声をそろえて喜んだ。
え? これでいいのか?
「うむ、スグル殿も仰っていたであろう。彼を知り己を知れば百戦殆うからずでござる。二人は己の弱さを知った。それで合格なのでござる」
……へぇ、ハンゾウにしてはいいことを……ん?
なんでこいつ――俺が言った言葉を知って……あぁ、そうか。
このエロ忍者、俺の後をこっそりつけてやがったのか。
全く……お前には敵わないよ。本当に。
俺は自分の弱さも敵の強さも知っているが、なにより仲間の強さを知っているから、百戦危うからずなんだよな。
なんて思いながら俺は……
チョコの背中に乗り続けていたせいで尻の皮が捲れてしまったので、マリンに回復魔法をかけてもらうために家に帰った。




