68 最強にして最弱にして最強の魔物狩り -その5 -
全く、うちの村の連中にも困ったもんだ。
アンナの歓迎会を二回もするなんて。しかも、歓迎会の横幕に、アンナの名前だけが消えているとか、どんな歓迎会だよ。
俺は歓迎会の計算をしながら、悪態をついた。
それにしても、不思議なことに、それ以外に今日の仕事がなかった。
昨日頑張って終わらせた記憶はあるのだが、一人で終わる量ではなかったはずだ。
もしかして、俺の中で第三の能力に目覚めたとか?
第一や第二もまだ目覚めていないけど。というかそんな能力が眠っているとも思えないけど。
「……まぁ、つまらない仕事をしなくていいのは助かるよな」
俺は誰に言うでもなく一人でつぶやいた。
「書類仕事なんてつまらないよな」
さらに呟く。ダメだ、落ち着かない。
つまらないはずの書類仕事なのに、面白いと思った誰かがいた、そんな気がする。
なんなんだろ、この気分は。
「…………くそっ」
俺は手持ち無沙汰になり、役場を出た。なんでこんなにイライラしてるんだ。
全く理由がわからない。
マリンによって子供の姿に変えられたことを聞いたときも、無理やり女装をさせられたときもこんなにイライラしなかった。
昼間ともあって、冒険者たちは魔物狩りにでかけたり、畑にでかけたりで誰もいない。
子供たちが遊んでいて俺に手を振ってきたので、俺も手を振り返した。
そして、村の入り口で伸びをしていたチョコを見つけ、一緒に散歩することにした。
チョコが一緒なら、魔物に襲われても追い払ってもらえるからな。
俺一人だと、三時間あれば92%の確率で死ぬとバッカスに言われたから絶対に一人では出ないよ。
結局、魔物に遭遇することもなく、俺は草原に座った。
そういえば、このあたりの魔物が急にいなくなったって言ってたな。
「…………眠い……チョコ、悪い、少し寝るから魔物が来たら起こしてくれ」
俺はそういってチョコの背を撫でると、草原の真ん中で大の字になって寝ることにした。
チョコも俺の横に座る。
「やぁ、お待たせ――大丈夫?」
俺はそいつを思いっきり殴っていた。
目を覚ますと、チョコが止まっていて、神が、自称神様の少年が俺の前にいたから。
子供を殴るのは趣味じゃないけど、殴らないと俺の気が済まない。
結果、俺の拳が砕けただけだった。神は硬かった。チクショウ。
でも、気付いたら拳の怪我はすぐに治っていた。
「まぁ、夢だからね。怪我は治るし、痛くなかったでしょ?」
「……お前、よくもゼロを」
「ゼロちゃんを封印したから、それを知らせようと思って」
「どこに封印した! 俺が解いてやる!」
「でも、目覚めたらここでの記憶がなくなっちゃうんだよ?」
「それでもだ! 記憶はなくなっても心はなくならない! 今日一日で俺はそれを確信した。ゼロがいないとイライラするんだよ」
完全にゼロのことを忘れているのなら、俺はイライラしていなかったはずだ。
それは、記憶消失が完全ではないことを意味する。
そして、完全ではないのなら、きっと突破口が見つかるはずだ。
「記憶がなくなっても心はなくならない……か。なら、教えてあげるよ、スグル村長」
自称神は語った。
ゼロを封印すると、どうしてもその周りの空間に悪影響を及ぼす。
岩に封印したら、土の力がなくなりスカスカの岩になる。
海の中に封印したらその周囲1キロは魚の住めない場所になる。
それは世界のバランスを司る自分としてはよくないと。
だから、もっとも影響のない、というか影響が全くでない場所を探した。
「さて、いきなりだけど、スグル村長。君は僕から恩恵がないっていったけどさ、今日から君に恩恵を与えようと思うんだ」
「……いきなり何の話だ?」
「言葉のままの意味だよ。スグル村長。君にチートな能力を与える。いままで最弱設定にしていたからね、そのお詫びで、そうだね、ミコトさんとハンゾウくんだっけ? その二人を足して倍くらいの能力にしてあげるよ」
急にそんなことを言われた。
なんで、急にそんなことを――
「そして、実はゼロちゃんなんだけど、まだ封印してないんだよね」
「は?」
「だから、君の中に封印させてくれないかな? 君の中に封印したら、君の周囲30メートル以内には姿を現せるようになる」
「……本当なのか?」
「うん。ただし、ゼロちゃんは君の力を常に封印し続ける、相互封印の状態になる。ゼロちゃんは他への影響を与えることはできない、君の力をゼロにするために全ての力を使わせる。そのため、君は最弱になる。ゼロちゃんの力を使って魔物狩りなんてこともできない」
つまり、ゼロは精霊としてのほとんどの力を失い、俺はいままで通り最弱のままになる。
そうなると、この神は言っている。
「まぁ、結論は急がなくていいよ。ゆっくり考えて――」
「ゼロを俺の中に封印してください」
俺は土下座して頼んでいた。
「さっき殴ったことは謝ります。昨日の無礼とともに。ですから、俺の中に――ゼロを」
「いいのかい? そうすれば、君は元の最弱。ううん、今後どんな恩恵を貰っても最弱から抜け出せなくなるんだよ?」
「家族と再会できるなら俺は永遠に最弱でいいよ」
俺がそう言うと、自称神様――いや、神様は笑って、
「君ならそう言うと思ったよ。じゃあね、スグル村長。また会おう」
消えていった。
まったく、神様もウソが下手だよな。封印する場所がないだなんて。
実際、ゼロは百年間封印されていたんだから、封印する方法は必ずあるはずなのに。
目が覚めると――横にゼロが寝ていた。
チョコも一緒になって寝ている。
全く、俺もゼロも魔物が出たら何の抵抗もできずに死んでしまう最弱の存在なんだから、チョコには寝ないでほしかった。
「おい、ゼロ。起きろ。そろそろ村に帰るぞ」
横に寝ている無力の大精霊ゼロを揺さぶり起こす。
それにしても、ゼロは大精霊なのに何の力も持っていなんて、本当に俺みたいだよな。
「ん……んー、おはよう、スグル……あれ? なんで私達、ここにいるんだっけ?」
ゼロは目を覚ますと、辺りを見回した。辺りといっても草原しかないけれど。
「あぁ、昨日仕事が早く終わったから草原に散歩に行こうって話をしたんじゃなかったっけ?」
「そうだったっけ。うん、そうよね」
俺はチョコを起こすと、二人と一匹で元来た道を帰っていく。
あれ? なんか今朝はやけにイライラしていた気がするけれど、今はとても楽しい気分だ。
「どうしたの?」
「いや、何かいいことがあったみたいなんだけど、なんだかわかるか?」
「私にわかるわけないでしょ」
「いや、わかってくれよ。一応、俺たちはずっと一緒にいるわけなんだし」
と無茶な要求をしてみるが、まぁ、本当にわからないよな。
何がこんなにうれしいんだろ?
「……ねぇ、スグル。ありがとうね」
「ん? どうした?」
ゼロが急にお礼を言ったので、俺は首を傾げた。
「何か急にお礼を言いたくなったのよ」
「そうか。俺もだ。ありがとうな、ゼロ」
俺はそう言って、家族のゼロの頭を撫でた。




