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67 最強にして最弱にして最強の魔物狩り -その4 -

「ゼロ! 行けるか!」

「ええ、余裕よ!」

 俺とゼロのコンビはまさに最強だった。

 本当に最強だ。

 ちなみに、ゼロとは、無の大精霊の名前。無=ゼロという安直な発想だが、俺が名付けた。

 無の大精霊、とかいちいち呼びにくいし、名前がないと不便だからな。

「ゼロ、そこは難敵なんだが」

「大丈夫よ、スグル! 私とスグルに敵はいないわ!」

 そう、俺たちは本当に敵なしになった。

 向かうところ敵なし、まさに無敵。

 俺達に勝てる相手はこの世界にはいない。

 どんな敵でも一撃ノックアウトだ!


 見事に、見事に書類整理が進む進む。


 まさか、ゼロが書類上手だとは思わなかった。

 あれか? ゼロの概念みたいなものか?

 と思ったらそうじゃないようで、俺と契約したことで俺の持つ知識と経験がゼロに共有されたらしい。

 ゼロの経験や知識は俺には引き継がれていないのに、なにか理不尽だよな。

「……よし、明日の分まで終わった! ゼロ、お疲れさん」

「ううん、楽しかったわ。書類仕事とか、生まれてから一度もしたことがなかったから」

 そりゃないだろうさ。

 俺も精霊に生まれたら書類整理はしないと思う。


 ゼロは、一部不満もあったが、俺が面倒を見るという条件のもと村に迎えられることになった。

 俺と契約してからは、俺以外に被害が出ることはない。

 それと、ゼロと契約したことで一つ、新たな問題がわかった。

 なんと、俺の短剣スキルや拳スキルといったスキルが全く作用していなかったのだ。

 ゼロの力でスキル能力を無効化した状態と、有効化した状態とを比べてもらったところ、なんの変化もないと言われた。

 これはショックだったが。

 でも、だからこそゼロと仲良くなれたのだと思うと、少しはマシな気分になる。


 だが、俺とゼロが一緒にいることに納得のいっていない人物が一人。

 ……ハヅキちゃんだ。

「……あの泥棒猫、スグルさんを独り占めして」

 いやいや、猫はハヅキちゃんだから。というか、キャラが変わってない?

 猫のぬいぐるみから飛び出して霊体となったポニーテールセーラー服美少女のハヅキちゃんが、俺に前に浮かんでいった。

「スグルさん、私達付き合い始めたばかりなんですよ! 新婚なんですよ!」

「いや、結婚はしてない」

「スグルさん、あれですか! 釣った魚には餌は上げない人ですか! そもそも、幽霊と精霊ってキャラ被ってますよ!」

 あぁ、そういえば被ってるな。霊の部分だけ。

 俺、霊に好かれる体質なのかな。

 マリンの時は別によかったのに、なんでゼロはダメなんだ?

 普通にストライクゾーンで言えば、ゼロのほうがガターだろ。見た目は幼女なんだし。

「……ハヅキちゃん、俺はゼロとは友達で、異性として愛しているのはハヅキちゃんだけだよ」

「はうっ、スグルさん、カッコいいです! 許します! ゼロちゃん、これからもよろしくお願いします」

 ……俺の彼女がチョロインな件について、そろそろ本気で考えないといけない。

 こうして、ゼロは無事、村人全員に迎えられる運びとなった。


『久しぶりですね、無の』

 仕事も終わったので、ゼロに村を案内していると、マリンがやってきた。そして、マリンの中にいるマナがそう声をかけた。

「あ、命の……こんなところにいたの?」

 どうやらゼロもマナのことを知っていたらしく、普通に反応した。

『気付かなかったんですか? それにしても、あなたの適合者がまさかこんな人間だとは』

 こんな人間で悪かったな。俺はただちょっと全人類より弱いだけだ。

『まぁ、今のあなたなら問題ないでしょう。観光を楽しんでください』

「うん、ありがとう、命の」

 そして、公共浴場に近付いたときだ。

 ハンゾウを見つけた。

「ハンゾウ、何してるんだ?」

「うむ、スグル殿。いや、これから覗きの下見をかねて覗きをしようかと思っているでござる」

「結局覗きしかしてないじゃねぇか! 本当にお前はエロ忍者――」

「お兄様の悪口を言うな」

 いつの間にかアンナが俺の後ろに立ち、クナイを首元に当てていた。

 その時だった。

「スグルを傷つけるな!」

 ゼロの声とともに、アンナがクナイを落とし、その場に倒れる。

「ゼロ、やめろ! 村人にその力は使わない約束だろ! アンナもいちいちクナイで攻撃してくるのはやめてくれ」

 俺は嘆息を漏らした。

「でも、スグル。彼女、スグルを殺そうと」

 ゼロが納得いかないように反論するが、

「大丈夫だ、ゼロ。首元にクナイを当てられたり、飛竜に腕を噛みちぎられたり、魔法で腕を吹き飛ばされたりするのは日常茶飯事だから」

 俺のセリフに、アンナもゼロもひいていた。だよな、俺も自分で言っていて少しおかしいと思う。

「……今度からできるだけ気を付けるわ」

 アンナはそう言うと、

「ではお兄様。覗きを敢行するときはぜひ私めに一声をおかけください。女湯の中で待機していますから」

 と言い残して消えた。

「ハンゾウ、お前も大変だな」

「うむ、良い妹だとは思うでござるが……」

 ハンゾウも少し困っているようだ。

 俺も引くレベルだな、あの兄への忠誠度というか、ブラコン度は。


 それにしても、本当にゼロの力は凄いな。

 あのアンナが手も足もでないとは。

「なぁ、ゼロ。お前の力って魔物相手にも有効なのか?」

「ええ、通じるわよ。竜相手でも可能だったわ」

「なら、明日、一緒に魔物退治に行かないか? 仕事も終わったし」

「……そっか、スグルは私と同じ最弱だから、魔物とか倒したことないんだ」

 ぐっ、正解だ。

「明日が来たら、一緒に魔物狩りに行きましょ」

「よし、約束だぞ」

 俺はそんな雑談をしながら、町の見物を続行した。


 そして、その日の夜。


 酒場でそれは行われた。


《ようこそマジルカ村へ! ゼロちゃん歓迎会!》


「え?」


 その横幕を見て、一番驚いているのは、もちろん今夜の主役のゼロだった。

 なにしろ、俺と一緒にずっといたのに、この歓迎会については俺は一言もゼロに言わなかった。

 全く、俺の経験を引き継いでいるんだから気付いてほしいもんだ。


 うちの村の連中は、全員が全員、祭り好きだってことに、

 つまり、飲んで食って騒げる理由があれば、祭りをしない理由がない。


「でも、私……みんなに」

「それはもう謝ってくれたからいいわよ。ゼロはお酒飲めるのかしら?」

 ミコトがジュースとワイン、二本の瓶を持ってやってきた。

「えっと……お酒は飲んだことないから、ジュースで」

 ゼロは、ミコトの横にいたパスカルからグラスを受け取り、ミコトからジュースを注いでもらう。

 ついでに、俺もジュースを入れてもらった。

「よっしゃ! みんな、グラスは行き届いたか!」

 酒場のマスターのゴメスがそう言うと、村人全員がグラスを掲げる。

「じゃあ、細かい挨拶は抜きだ! 村長、乾杯の音頭を頼む!」

「おいおい、ゼロの挨拶は抜きかよっ! って、いまは確かに挨拶できる状態じゃないか」

 だって、ゼロは目から涙が、鼻からは鼻水が出て、感動しすぎてまともにしゃべれる状態じゃないもんな。

 本当に、こういうところは子供だな。

「よし、みんな、今日はゼロのために集まってくれてありがとう! じゃあ、乾杯!」

「「「「乾杯!」」」」


 こうして、宴は始まった。

 最初は感動と初めての体験に戸惑っていたゼロだったが、皆に質問攻めにあううちに打ち解けて行き、自然と笑顔が増えていた。


 そして、歓迎会は無事に終わると思ったのだが。


「スグル……ちょっと来てくれないかな?」

「ん? どうした?」

「お願い」


 俺はゼロに誘われ、酒場を出た。

 酒場の外にも、中に入りきらない村人が飲んでいるのだが、俺達はそこから少し歩き、綿花畑の中に入って行った。

「どうした? 感動しすぎて恥ずかしく……って、おい、ゼロ、お前、その身体」

 ゼロの身体が……少しずつ薄くなってきていた。

「スグル、聞いたでしょ。私は100年前に現れて、100年間眠っていたって」

「ああ……」

 パスカルから聞いた。

 その時に一つの国が滅びたとも。

「私の力は……世界にとって異物なの。いてはいけない存在なの」

「は、何を言ってるんだ、そんな――」

「お願い、黙って聞いて! 私の力の異常さは、スグル達が一番身をもって知ったでしょ。私はね、世界から嫌われた存在なの」

 ゼロは星空を見上げて言った。

 雲一つない星空には無数の星々が輝いている。

「だから、うれしかった。本当に感謝してる。私を歓迎してくれたみんなが。私を受け入れてくれたスグルが」

「ゼロ、お前、まさか、また100年眠るなんて言うんじゃないよな!」

「そうじゃないよ。そうしたら、100年後のマジルカ村が大変なことになるじゃない」

 ゼロは寂しそうな瞳で告げた。

「大丈夫、かならずまた帰ってくる。スグルが生きている限り。何ヶ月先か、何年先かはわからないけど、必ず……ねぇ、いいでしょ。神様」

 ゼロがそう言うと、俺の後ろに……幼い少年がいた。

 神様だ。

 俺がいままで忘れていた、この自称神の少年がそこにいた。

「久しぶりだね、スグル村長」

「お前が……お前がゼロを封印するっていうのか! 自分の手におえないからって」

「そうだよ。彼女の力は危険なんだ。スグル村長、君がいなかったら彼女の封印に手こずるところだった。ありがとう、感謝する!」

「お前に感謝されるためにゼロと契約したんじゃない!」

 俺が神の胸倉をつかみ、持ち上げると、ゼロはその手を強く握った。

 もう透けて、ほとんど透明となったその手で。

「ダメ。お願い、スグル。落ち着いて! スグルはすぐに忘れるの。私のことも、この神様のことも。だから――」

「忘れる!? それを聞いて落ち着けるか。ゼロは俺の家族だ! 村に住むと決まったからには俺の家族だ」

「本当に、本当にそれだけでいいの。その気持ちだけで。神様、お願い、早く!」

「わかったよ。さようなら、スグル村長。今度あったら僕を殴っていいからね」

 神はそう告げ――

「約束守れなくてごめんね――」

 ゼロが悲しそうにそう言った。



 俺は一人、綿花畑の真ん中にいた。

 あれ? 俺はここで何をしてるんだ?

 確か、今は酒場で宴会を……あれ? なんの宴会だったっけ?

 

 なんで……なんで俺は泣いているんだ? 

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