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66 最強にして最弱にして最強の魔物狩り -その3 -

 今まで、飛竜やら暗殺者やらが来ても、ミコトがいるから、ハンゾウがいるからと楽観視していた。俺は何度も死にそうな目にはあっていたが。

 でも、今回はやばいということがわかった。

 マナが言うには、無の精霊がきたら、怪我をしてもマリンの回復魔法ですら役に立たない。

 他の大精霊でさえ、無の大精霊には近づくことができない。

 そんな化け物なのだという。


 ……全てを無効化する大精霊。


 下手したら……ハヅキちゃんの物理攻撃無効、魔法攻撃無効のスキルだすら無効にしてしまうのではないだろうか?

 幽霊ってHPが曖昧だ。下手したら一撃喰らっただけで死んでしま……あ、もう死んでるから、消滅してしまう可能性がある。

 そんな相手だ。

「……見張りを強化しよう。無の大精霊が現れたら、すぐに逃げる。絶対に戦うな。村中に伝えてほしい」

 それが、俺の出した答えだった。

 村を捨てる可能性があるという。村長として、一番辛い結論だった。

「わかったわ、みんなにつた――」

 刹那、ミコトがその場に倒れる。

 ミコトだけではない、マリンもハヅキちゃんも……いや、ここにいた俺以外の全員が倒れてしまった。

 マナの声も聞こえなくなった。

 まさか――

「間違いない。あの時と同じよ……」

「ぐっ、みんなはそこにいろ!」

 俺はそう言うと、助けを呼ぶために宿から出た。

 そこで見たのは――村中の人が倒れた光景だった。

 見張りがいたはず……いや、違う。

 見張りがいても、この力の前に力なく倒れたんだ。助けを呼べなかったんだ。

《一つの国が滅んでいます》

 マナの言葉が反芻されて蘇る。

 その時、俺はそいつを見た。

 闇……そう、闇に覆われた何かを。

 小さな何か。

 そいつがゆっくりと俺に近付いてきた。

 いや、俺じゃない。俺の後ろにはマリンがいる。

 大精霊の狙いがマリンなのだとしたら……こんな化け物とマリンとを引き合わせたらどうなるか。

 中にはハヅキちゃんもいる。ミコトも、他の人も動けないこんな状態。

 ハンゾウとアンナは……ダメだ、無の大精霊が向かってきた方角に二人はいたんだ。

 おそらく、この力の前にすでに倒れている。

 ならば――戦えるのは俺しかいないじゃないか!

 そう思い、脇にあった宿屋の壁を掃除するときに使っていたらしいモップを手に取り、

「うわぁぁぁぁぁっ!」

 と走る。剣の素振りは毎日していた。

 死にそうな目にもあったが修行をしてきた。

 せめて、かすり傷でも負わせて、少しでも、少しでも村から遠ざけられたら。

 ハヅキちゃん達が助かる可能性が、1%でも……0.01%でも上がれば。

 俺のそんな思いで振りかぶったモップの柄は無情にも――


「うげっ」


 クリティカルヒットし、無の大精霊をぶっとばした。

 おぉ、ホームランだ。昨日牛丼を食べていないし、パパでもないのに立派なホームランを打つことができた。

 うん、元ネタ知らないよな。俺もリアルタイムでは見ていないけどな。

 

 その闇の塊は村の端に落ち……両手をついて起き上がろうとして滑った。

「あれ?」

 もしかしてこいつ……すごく弱い?

 そう思った刹那――、無の大精霊が跳んだ。俺めがけて。

 俺の鳩尾に頭突きをくらわせる無の大精霊。

 ものすごく痛い。今朝飲んだスープが逆流しそうになる、だが、耐えられる!

 俺は無の大精霊の足を握り、力の限り振り回した。

 無の大精霊はぐるぐるとまわって、ハンマー投げのハンマーのように再び飛んでいく。

 だが、そのまま飛んでいった無の大精霊は宿屋の壁を蹴り反転して俺に再び跳んできた。

 拳を前に突き出して。

「やってやらぁぁっ!」

 俺も拳を前につきだし――

 ダブルクロスカウンターが見事に決まった。決められた。

 大地に倒れる俺。くそっ、燃え尽きちまったよ。真っ白に。

 無の大精霊も同じのようで肩で息をしているように倒れている。

「お前……強いな」

 俺が笑って言うと……

《あんたもね》

 声が……可愛い女の子のような声が聞こえた。

 え?

 俺が首を動かすと、俺の横で倒れていたのはマリンよりも小さな女の子だった。

 黒いドレスを着た、黒い髪、黒い瞳の少女。いや、むしろ――

「……幼女」

 俺がぽつりと呟くと、彼女は呆れたような瞳で、

《これでも800歳を超えてるんだけどね》

 800歳か。1万2000歳とかそういうのを想像したから、幼いともいえるな。

《どうして、あんたは私の力場の中でそんなに自由に動けるの? 私の周囲1キロに、全ての人物を最弱にする力場を張ってるのよ》

「え? 俺、自由に動けたけど?」

《……あぁ……そういうことか。あんた、もとから最弱なのね》

 ぐっ、心に深いダメージを受けた。

《普通の人はね、急に弱くなったりすると、まともに立つことすらできないのよ》

「ずっと水の中にいると、陸に上がったときに身体が重く感じるみたいなものか」

《そうね》

 日本人にわかりやすいようにいうのなら、宇宙空間に1ヵ月いた宇宙飛行士が地球に還ったときまともに歩くことができないのと同じなのだろう。

「なぁ、なんでミコト達を攻撃したんだ?」

《私は探していたのよ。私と一緒にいても平気な人を》

「なんで?」

《私と一緒にいたら、みんなが苦しむ。100年前もそう。私が人間の多い国に入っただけで、その国の人は全員逃げて行ったわ》

 無の大精霊は言った。

 とても強そうな人達がいたから、彼女なら自分の力を受け止めてくれると思い、抑えていた力を解放した。

 でも、全員倒れてしまい、蹴っても動かない。それどころか、僅かな蹴りだけで大怪我を負う始末だったという。

 マリンが放った軽い魔法が俺にとっては致命傷になるように、無の大精霊の軽い蹴りが免疫のない人間からは致命傷になるということか。

《ねぇ、あんた。私の契約者になってよ》

「無理だ。お前がいたらみんなが一緒にいられない」

《大丈夫よ。あなたの身体にいる間は私の力はあなたにしか通用しない。でも、あなたには影響ないんでしょ?》

「……そう……なのか?」

《ええ。お願い、これ以上、一人じゃ耐えられない。きっと力になるわ》

 俺は考える。

 とても考える。

「契約をしないでも俺の中に入れるのか?」

《可能よ……でも、力を少し抑えないと外に漏れてしまう》

「力を抑えたまま声を出せるか?」

《出せるわ》

 考える。

 彼女がウソをついている可能性も。

 だが、そんなの思いつかない。俺とこいつは互角のようだが、実は俺の足はもうがくがくになっているほどで、正直、これ以上戦いを続けたらやられるのは俺のほうだ。

 そうなったら、彼女を止められる人は誰もいない。

 そんな状況で、彼女がウソをついてまで俺と契約する必要はない。

「なら、俺の中に入って皆に謝れ。皆が許してくれたら、お前と契約しよう」

 そう言いながら、俺は思ってしまった。

 こいつとうまいこと共存すれば、俺、最強になれるんじゃないか?

そんなにうまいこといくわけない。

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