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7 時間をかけない人事面接

 役場に戻ると、金髪縦ロール狐耳少女がやはり待っていた。

 まぁ、俺が案内したから当然だが。

 外出中の看板を眺めて荷馬車の御者が座っている。

 俺は彼女の横まで行くと、「よう!」と声をかけた。

「あら、あなたは先ほど案内していただいた。どういたしました?」

「村長のスグルだ。さっきは言い忘れてすまなかったな」

「あなたが村長様でしたの?」

 金髪縦ロール狐耳少女は目を丸くすると、荷馬車から降りて頭を下げた。

「これは大変失礼しました。ガルハラン商会のパスカル・ガルハランと申します」

「まぁ若いってよく言われるよ。ガルハラン商会の人間か、いつも世話になってる」

 俺はそういい、手を前に出した。パスカルは一瞬の躊躇も見せずに俺の手を握ってきた。

「こちらこそ、祖父が大変お世話になったようで。村長様のことを大変優秀な経営者だと申しておりました」

「ははは、あの爺さんらしいな」

 俺は笑顔で言った。

 そうか、彼女が俺の嫁候補だった孫娘か。まだ小さいが美人だ。ただ……やはり狐耳は気になる。

「今日は注文していた荷物を持ってきてくれたのか?」

 ガルハラン商会には石材や木材を大量に注文してあり、分割で運んでもらっている。

「いえ、この村に商会を構えさせていただくために参りました」

「商会? ガルハラン商会の支店をこの村に?」

「はい、村の将来性に祖父が気付き、私が参ったわけです」

「なるほど……で、本当はこんな村に来たくはなかったが、期限付きの修行みたいなものだからと言われたか?」

「……率直に申しますね」

「関係をはっきりさせたいだけだ」

「期限付きの修行というのは事実です。五年の期限でこの村に来ることになりました。ですが、来たくなかったというのは違いますよ。祖父の認めた方がどんな方か興味がありましたから」

 彼女がまっすぐ俺を見つめてくる。

 きれいな瞳で、吸い込まれそうになる。

 あの爺さんにしてこの孫ありというわけか。

「正直、ありがたい話であるのは間違いない。とりあえず、スキル証明書はあるか? なかったら教会で発行できるが」

「こちらです」

 パスカルが一枚の紙を出す。

『パスカル 15歳 身分:なし スキル【商売18】【計算16】【接客12】【魔物使い9】』

 商売はもう十分一人前レベルだが、玄人の域には達してない感じか。

 魔物使いは文字通り魔物を操るスキル。モーズを操るには持っておいた方がいい。

 発行日は一昨日の日付になっている。変更はないだろう。

 年齢は15歳、俺より1歳年下か。思ったよりは近い歳だな。

「見た目の幼さは母親がワン狼族だからです」

 ワン狼族は西の大陸のさらに西の山の中にすむ獣人族だと聞いた。

 パスカルがいうには商売を開拓するためにそのワン狼族の村にいった彼女の父親がワン狼族の娘に一目ぼれして結婚したそうだ。

 彼女の耳はその遺伝によるものか。

「商売は許可する方向で話を進める。書類作成に時間がかかるが、準備を進めてくれても悪いようにはしない」

「ありがとうございます。それと、商売を取り仕切っている方にお話をしたいのですが」

「あぁ、それも俺だ。販売は酒場のマスターに頼んでいるが」

「なるほど、それで祖父と知り合ったわけなんですね。失礼しました」

 パスカルが恭しく頭を下げる。

「では、次に石材を持ってきたのですが、村の建築を担っている方とお話したいのですが」

「それも俺がやってる。受取印を押すから待っててくれ」

「そ……そうでしたか。それは失礼しました」

 パスカルが恭しく頭を下げる。丁寧な子だ。

「では、こちらにものすごくお強い冒険者の方がいらっしゃるとうかがったのですが、その冒険者の方とお話できますか?」

「あぁ、それも俺に話をかけてくれたらいい。俺自身は弱いが、一応リーダーってことになってる」

「へ?」

 彼女は肩を信じられないって感じで俺を見て、

「村長、あなたは一体どれだけの仕事をなさっているんですか?」

 そう尋ねた。

 改めて聞かれたこともないので、少し考えた後、

・村の財制管理。

・人材管理。

・交易の最終管理。

・建築の指揮監督。

・冒険者の指揮。

・村おこしのための一人戦略会議。

 最後の項目にいたっては、夜に自室でやっているんだが、俺はひとりでなにやってるんだ、と泣きそうになる。

「とまぁ、こんなもんだ」

「あなたは……なんて馬鹿なことをしてるんですか! 独裁政治でもするつもりですか!」

「そんなつもりはないが、任せられる人が見つからなくてな」

「見つけられなかったら育てる努力をなぜしないんですか! 見ていると、この机は誰も使っていないせいで物置きになっているではありませんか!」

 パスカルが秘書用の机を叩く。

 机の上に乗っていた書類がその衝撃に一瞬だけ宙を浮いた。

「じゃあ、パスカルが手伝ってくれ」

「え?」

「商会の空きの時間でいいからさ。とりあえず、財政管理と交易の管理を任せたいが」

「待ってください、それはどちらも村の重要な部分ではないですか!」

「だからこそ価値はあるだろ?」

 つまり、俺はパスカルに村の収支の最終管理をしてもらいたいと打診した。

 だが、それは簡単なことではない。

 明らかにガルハラン商会に有利すぎることをした場合、この村の評判が大きく下がり、それは彼女にとってもマイナスになる。

 もっとも、それを理解しながらに悪用して、甘い汁だけ吸ってあとは知らないという商人もいるだろう。

「あなたは私のことを信用して、そういうことを言ってるのか?」

「俺が信用しているのはあんたの後ろ盾だけだ。パスカルじゃない」

 俺は言い切った。

「信用ってのは長く付き合ってれば得られるもんでもないから」

 例え10年付き合っていても裏切るものは裏切る。

 MMOの中でギルドのサブマスターにギルドマスターの座を奪われそうになった俺がいうのだから間違いない。

 むしろ、裏切るのはいつも腹心に近いものだ。明智光秀しかり、ブルータスしかり。

「信用を作れないようなら仕事は返してもらう。期限は5年後とかじゃなくて、早ければ明日にもな」

「……全く、村長が仕事を放棄するなんて信じられません。ですが、やらせていただきます! ガルハラン商会ではなく私の力で!」

 どうやら、優秀な秘書をただでGETできたようだ。

「では、まずは秘書業のお給金についても決めないといけませんね」

 撤回。そう甘くはいかなかった。お給金については時給制を採用。

 思ったよりは高い金額ではなかった。

「最後に、パスカルに知っておいてもらわないといけない重要な話があるんだが」

「なんでしょう?」

「そろそろ帰ってくるころだし、行こうか」

 そう言い、俺はパスカルを伴って役場を出た。

 まだ遠くだというのに、その影ははっきりと見える。パスカルも絶句している。

 村人たちはもう慣れたもので、拍手で彼らを出迎えた。

「……話には聞いてたけど、すごいわこりゃ」

 今日、村に来たばかりのビルキッタは呆れて笑い出した。

 パスカルにいたっては空いた口がふさがらない様子で、

「スグルくん、そろそろドラゴン狩りやめないと、全滅しちゃいそうよ。三か月は狩りを中止しないといけないわ」

「そうか、わかった。まぁストックも十分にできたし、いいと思うぞ」 

 巫女装束のミコトとそれだけの言葉を返したとき、男達の間からハヅキちゃんが出てきた。

「スグルさん、ただいまです!」

 ハヅキやんはそういうと、猫のぬいぐるみから霊体を抜き出し、俺の目の前に具象化した。

 セーラー服ポニーテールのハヅキちゃんに笑顔で答え、酒場で待ってるように頼んだ。

「拙者、ただいま帰ったでござる」

 風のように忍び装束のハンゾウが登場した。

「姫、ごらんください、これだけのカードが取れました」

「鋼鉄にミスリル、アダマンタイトもあるじゃない! こんなに取ってきたの?」

 ビルキッタは歓喜の声を上げた。

「アダマンタイト……幻の鉱石じゃない……でも、それよりも……」

 パスカルが声にならない声をあげる理由。

 粘土人形によって運ばれてくる飛竜の姿を見たからだ。

「ちなみに、ほとんどあのミコト一人で倒したと思うが、あの黒い服のハンゾウも似たような実力を持っているぞ」

 それを聞いてパスカルは呟いた。

「何? この村?」

 こうして常識人パスカルは、この村特有の洗礼を受けた。

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