62 鮮血に染まる村おこし -その12 -
「本当にここでいいのか?」
マジルカ村まであと少しというところで、ラコがここから帰ると言った。
町まで飛竜と一緒にいけばパニックになるだろうという理由だ。
まぁ、村の皆なら話せばわかってくれると思うが、行商人とかいたら、確かにやばいかもしれない。
「あぁ、約束のゆで卵は後日頼む」
「絶対に持っていくよ」
ラコはそういうと、飛竜の頭に乗り帰って行った。
ありがとうな。
一週間も離れていないというのに、マジルカ村に帰るのは随分と久しぶりという感じだ。
「ここがお兄様の住んでいるマジルカ村ですか。我々の里を思い出しますね」
「拙者は里の記憶はないが、故郷という意味では同じでござるな」
馬車から降りて、アンナとハンゾウは二人でそんな会話をする。
「……まぁ、アンテナが立たないのは仕方ありませんが」
そういって、彼女はスマホを確認した。
って、スマホ!?
「アンナさん、スマホ持ってるんですか?」
「……持っていたら悪い? 忍者は狼煙で合図を送ってるとでも思ってるなら死ね」
「ダイレクトに「死ね」発言キタァァァァ」
怖いよ、この人。
殺意びんびんきてるよ。
もう俺のレベルだと視線だけで殺されかねないよ。
「アンナ、その機械は何でござるか?」
「はい、お兄様! 携帯電話です。本来は離れた人と会話するためのツールでしたが、万能ツールとなっていますね。ですが、電波が届いていないので、ほとんど使えません」
「いや、携帯は知ってるから。それより、どうやって充電を――ぐっ」
思わず吐血した。え、まじで視線だけで俺ダメージくらった?
死ぬの? これ、死ぬの?
いや、たぶんストレスで胃を痛めただけなんだが。
過労でただでさえ胃が弱っていたからなぁ。
「どうやって充電をしてるのでござるか?」
「はい、手回し式充電器を持っていますので、それで充電をしています」
そういって、アンナはハンドルのついた充電器を取り出す。
あ、あれ、ラジオも聞けるタイプのやつだ。
まぁ、ラジオ放送なんてしていないこの世界には存在しないんだが。ラジオの電波なんて空気中に漂っていないが。
「あ、スグル! ハヅキ! おかえりー!」
遠くから、とんがり帽子の魔法少女、マリンがやってきた。
「マリンちゃん、遅くなってごめんなさい」
「おう、マリン、元気にしてたか?」
俺はマリンの頭をぽんと叩き、お土産のオレンジを渡す。
うん、なんだろ。
生意気だとか思ってたけど、アンナと接してからは可愛いやつに思えてくるな。
「ところで、なんでスグルは口からトマトジュースを大量に出してるの?」
「あぁ、うん。大丈夫、いつもより傷は浅い」
「え、怪我してるの」
「いや病気のほうだ」
「じゃあ、リザレクションね」
マリンはそういうと、俺にリザレクションの魔法を使ってくれた。
あ、体が癒されていく。
「あ、そうだ、マリンちゃんにも報告しないといけませんね」
「え? 何を?」
「実は、このたびスグルさんと正式にお付き合いすることになったんです」
ハヅキちゃんはぬいぐるみから霊体として出てきて、俺の腕に抱き着くような姿勢をとった。
なし崩し的とはいえ、告白しちまったからな。
いつか告白するとは決めていたけど、ああいう形になるとはな。
でも、ハヅキちゃんの顔を見ると、間違いでした、とは言えないし。
「ま、そういうことだ。それで、マリンなんだけど」
「…………そうですね、マリンがいたらスグルはハヅキとあんなことやこんなこともできませんね」
「しないよ! ていうかガキが何心配してるんだよ」
「マリンがいたら好きな衣装を着せてポーズをとってもらったりできませんね」
「…………いや、なぁ、マリン。そこはほら、うん」
しないとは言い切れない。
ていうか、絶対にしたい。
「スグルさん、もう、早く言わないと、マリンちゃん不安になっちゃってますよ」
「マリン、一緒に住んでいいんだぞ。ていうか、お前を一人にしたら何をしでかすかわからんからな
「ふふ、マリンちゃん。実はスグルさん、マリンちゃんがいないと張り合いがないんですよ。前にマリンちゃんが魔法学園に行ったとき、暫く寂しそうにしてましたから」
「なぁんだ、そうならそうと言ってくれたらいいのに。あ、そうそう、私もスグルに報告しないといけないことがあったの」
「俺に報告?」
なんだろう、嫌な予感がした。
いやいや、そうそう嫌なことがあってたまるか。
そうだ、きっと育てていた朝顔が花を開いたとかそういう報告だろう。
うん、朝顔を育てるとか、マリンらしいな。
「実は、このたび、水の大精霊ウィンデーちゃんと契約しまして」
「ウィンディー?」
ウィンディーネか?
火のイフリート、地のノーム、風のシルフと並び、四大精霊と呼ばれる水の精霊。
大精霊と契約を結んだ、それはすごいじゃないか。
俺が笑顔でマリンを褒めると、
「うん、それで――」
マリンが話している時、村人の集団が俺を見つけ――
「おぉい! 村長! 帰ってきたのか! 早く来てくれ、大変なんだ!」
「トイレの中が水浸しになっちまって、イートアントは勝手に畑に避難して作物を食い荒らすし」
「なんでも、水の精霊が暴走してるとかで――」
「はやくなんとかしてくれないと、汚物がトイレから逆流してくるぞ!」
笑顔が固まったまま、マリンを見る。
「ドウイウコトダマリン?」
「えっと、あはは」
マリンが笑ってごまかす。
刹那――井戸から水が出てきた。
その姿はまさに巨大な水の獅子。
その上に、目を真っ赤にした女の子の精霊がいた。
「アンナ!」
「はい、お兄様」
その前に立つのは、ハンゾウとアンナ。
「火遁の術!」
「火遁の術!」
『合体奥義!! 鳳凰天翔!!』
二本の火柱が一つのまとまり、巨鳥の形の炎が現れる。
そして、最後に、
「私もやってみようかしら、あのノリ」
そういうと、裾から100枚の式神をばらまいた。
その式神は粘土人形へと姿を変え、
その100体が融合していき、巨大な粘土人形へと姿を変えた。
水の獅子、炎の巨鳥、粘土の巨人。三つ巴の戦いが今始まる。
って、粘土の巨人と炎の巨鳥は協力しろよ!
なんで三つ巴の戦いになってるんだよ!
そうツッコむ前に、粘土の巨人によって弾かれた水の塊が俺に飛んできて――ただの水なのに俺はその衝撃で意識を失った。
はは、俺の村は今日も平和だなぁ。
やけくそ気味にそんなことを思いながら、俺はとりあえず意識を手放した。
さて、今日はどんな花畑が見られるかな。




