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60 鮮血に染まる村おこし -その10 -

 オセオン村を去り、馬車はマジルカへと向かう。

 偶然、他の客はいない。

「村長、パスカルちゃんがカンカンですよ」

 御者のサイケが俺を見て笑いながら言う。

 あぁ、パスカルには大分迷惑かけただろうな。

 村長業務もそうだけど、マリンの面倒も見てもらったし。

「あぁ……仕事溜まってるんだろうなぁ」

 暫くはまた徹夜か。今朝までも大陸銀行案とオセオン温泉郷設計図を作るために徹夜だったのになぁ。

 睡眠を取らなくても平気な薬とか売ってないかな。あったら……いや、買う金はないか。

「まぁ、短い間だったけど、本当に疲れたよ。あと残った問題は一つだけだからなぁ……」

「一つ? なんですか?」

 ハヅキちゃんが俺の横で首を傾げた。

「あぁ、そろそろわかると思うんだけど……」

「そ、村長! 飛竜だ! 飛竜が襲ってきた!」

「来たか!」

 俺は前に行き、御者台から空を見上げる。

 確かにあの影は飛竜だ。

「おぉい、こっちだぁぁぁぁっ!」

 俺は空に手を振る。

 すると、俺に気付いたのか、飛竜はゆっくりと降下をはじめた。

 そして――

 飛竜から、レプラコーンの小さな少女、ラコが降り立った。

「よう、ラコ! 温泉採掘ありがとうな」

「ゆで卵のためだ」

 土魔法で温泉を採掘してもらったんだが、彼女がここに来たということは、やはり襲ってきたか。

「ハンゾウのところに、例の暗殺者が現れたみたいだな」

 俺が言うと、ミコト、ハヅキちゃん、サイケが俺を見てきた。

 ラコだけが落ち着き、「その通りだ。突如闇を纏った魔物があの男を襲い掛かってきた」と言った。

 ラコは、もしもハンゾウが襲われたらすぐに逃げるように言ってあった。

「……本当!? 急がないと」

「いや、急ぐな。俺達が行けば足手まといになるからな」

 自嘲した。ハンゾウが毒にやられたのも俺を守るためだったからな。

「それに、ハンゾウには魔法の言葉を言ってある。万が一にも負けることはないよ」

「秘密の言葉?」

 あぁ、あれさえ言えば、ハンゾウが万が一にも負けることはない。


「ハンゾウ、もし次、あの暗殺者に負けるようなことがあったら、お前が浮気していたことビルキッタにばらすからな」


 あの時のハンゾウの顔、俺は久しぶりに命の危険を感じた。ハンゾウの中にはあの瞬間、俺の口を塞ぐ方法が模索されていたかもしれない。

 くわばらくわばら。

「そうだ、オレンジもらったんだ。みんなで食べるか」

「いただくわ」

「俺ももらいます」

「我もいただこう」

 ミコトとサイケ、ラコにオレンジを分けた。

 ラコはオレンジを切り分け、五分の四を飛竜に分けていた。

 微笑ましいなぁ。

 クチバシバードが空を飛んでいるが、飛竜にびびって俺に攻撃してこないし。

 平和だなぁ。


 なんか、山の上の方から轟音が聞こえてくるけど平和だなぁ。

 うわ、火柱が上がってる。京都の大文字焼きを思い出す。

 晴れてるのに雷が落ちた。

 って、夏なのに雹が降ってきたぞ!

 こっちにも!

「スグルくん、危ない!」

 粘土人形が飛び出し、俺に飛んできた雹を受け止めた。

 と同時に粘土人形が氷漬けになって落ちた……と同時に紙切れに変わる。

「あら……壊れちゃった、やるわね、ハンゾウ」 

 紙切れを拾い上げる。

 壊れたとかあるのか、式神。

 でも、ミコトがもう一度落とすと、再び粘土人形として復活していた。

「ここも危ないな、少し下がるか」

 それにしても、本当に危ないな。

 雹にぶつかって怪我をするならともかく、凍ってしまうなんて。

 俺はそう言い、先ほど粘土人形とぶつかって砕けた氷をつまみ――




     一瞬で全身が凍ってしまった。




「がくがくがくがくがくがくぶるぶるぶるぶるぶる」

 たき火に当たりながら、俺はがくがくぶるぶる震えていた。

 自分の弱さが嫌になる。なんで氷をつまんだだけで凍っちまうんだよ。

「口でガクガクブルブル言う人を初めて見ましたけど、はい、暖かいお茶です」

 たき火で温められたお茶をハヅキちゃんから震える手でコップを受け取る。

 芯まで冷え切ったからな……。

「一応、スグルくんをフォローしておくと、あの氷は破片でもものすごい力が込められているうえ、動くものに反応するようにできていたから、サイケくんでもきっと同じ目にあったわよ」

「……がくがくぶるぶる……それをはやくいえ」

 本気で死ぬかと思った。

 冷凍庫に閉じ込められたマグロの気持ちがよくわかった。

 生まれ変わったら砂漠に生えるバオバブの木になりたい。

 それで、同じ種族同士で争う人間共を嘲笑いたい。

「スグルよ、目が闇に染まっているぞ」

 ラコに言われて、俺ははっとなった。

「バオバブの木には水分が多く含まれているから、のどが渇いた象に削られる!」

「しっかりしてください、スグルさん!」

「はっ、ここは? 砂漠じゃない? むしろ寒い? 寒い寒い寒い……」

 ガクガク震えた。

「ハヅキちゃん、二人で温泉に行こう。設備はできてなくてもお湯はあるんだから、二人で入ろう」

「……いいですね、一緒に行きましょうか」

 よし、ハヅキちゃんも俺の提案を受け入れてくれた。

 これで風呂に入れる。

「はいはい、ハンゾウのところに行くわよ、スグルくん、それだけ口が動くならもう大丈夫でしょ」

「……温泉行きたいなぁ」

「甘えてもダメよ。今回の件、私はのけ者にされることが多かったんだから、結末くらいきっちり見届けたいわ」

 ミコトが少しすねたように言う。

「いや、暗殺事件に関しては俺も関与していないぞ。ただ、ハンゾウを襲った相手が忍法を使ってるから、元の世界がらみの事件がらみだろうなと思ってさ」

「忍者に狙われてるってこと?」

「ハンゾウのことだから、忍びの村のくノ一の更衣室を除いたとかで指名手配されたんじゃね?」

「……否定できないわね」

 それが事実なら、相手の忍者は記憶継承を持っていることになる。

 できれば生きたままで捕まえていてほしいが。

「あ、サイケ、気を付けろ! 毒針があちこちに刺さってる。ミコト、頼む」

「わかったわ」

 ミコトは粘土人形を出して、地面に落ちてる毒針を回収させる。

 少し足止めを喰らったが、先に進むと……ハンゾウの姿が見えてきた。

 無事のようだな。

 そして、その横にいるのは……ハンゾウを襲った犯人だと思ったのだが。

「なんで……」

 ハンゾウの横にいたのは、気を失って倒れたアンナだった。


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