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57 鮮血に染まる村おこし -その7-

 ハンゾウが戻ってきて、馬車の中にスグルくんがいなかったと知らせた。それは当然の話。むしろスグル君が乗っていたら驚いたわ。

 そして、ハンゾウには悪いけど、彼にはそのままマジルカ村に向かってもらった。彼女の助けが必要になるから。

 事情を説明したら、ハンゾウはうれしそうに消えるように走り去った。

 その日の晩にはハヅキちゃんが戻ってきて、役場で聞いたきな臭い話を教えてもらった。

 それはスグル君の監禁を示唆する情報だった。


 そもそもの話の発端は、ガイードさんの息子、ミラルカさんの父であるマイルさんの自殺だった。

 三年前の領主会議、そこで何があったのかはわからない。

 それからマイルさんはおかしくなり、自ら命を絶った。それから三年間。ガイードさんが再び村長として手腕を振るってきたのだが。

 彼には肝臓の病気があり、もう先は長くないと医者に告げられた。

 その結果、ミラルカさんが村長になることになったのだが、ガイードさんや村民全員がマイルさんの死の原因は領主会議でのストレスであることは間違いない。

 なんとか来年の春までにはオセオン村をオセオン町に格上げしようと村民全員で頑張ってきた。

 そんな時にマジルカ村が持ちかけた乗合馬車の開通案は渡りに船だったそうだ。

 村に訪れる人の数も増え、オレンジの出荷量も増えた。

 三年前からガイードの秘書をしていたミラルカも町経営スキルを覚えるまでに至り、これでオセオンを町にできる。

 そう思った時だった。

 領主同盟の執政官から連絡があり、町に格上げするかどうか直接村長に話に聞きに行くという。

 ただし、町に格上げするのは三つの村の中で一つのみ。

 ガイードさんはわかっていた。

 いくらオセオン村が成長したといっても、マジルカ村の成長の恩恵を受けたにすぎないと。

 このままではマジルカが町になる。

 ならば、執政官がマジルカ村に行く時にスグルくんがいなければいい。

 村の情報通の男により、マジルカ村の査察の日がわかった。

 その時に村長がいなければ、町への格上げの権利が失われる。


 そのために、ガイードはスグルくんを監禁した。ミラルカさんを村長にした後に。

 そんなのすぐに全てが露見するに決まっている。

 と思ったのだが、全てが終われば、ガイードさんが独断でしたこととして出頭するらしい。


 実際、過去に同じ方法で町になった村が存在するそうだ。

 当然、そのせいで町になれなかった村とは不仲になり、いまでもその村はよそ者を決して中に入れない鎖国状態になっていると聞く。


「スグルさんの監禁されている場所もわかりました。村の貯蔵庫です! すぐに助けに――」

「ダメよ。今はダメ。大丈夫、スグルくんは無事よ」

「でも、監禁されているんですよね。早く助けないと!」

「スグルくんは自分の意志で監禁されてるの。大丈夫、近いうちに全てが終わるわ


 三日。

 彼女が言ったことが事実なら、三日以内に全てが終わる。

 そして、私は彼女を信じるしかない。



 期限の一日前。スグルくんが描いた物語のキーパーソンとなる女性をハンゾウが連れてきた。

 いろいろと条件を付けられたらしいが、最終的には彼女は快く了解してくれたそうだ。

 ハンゾウと彼女は、翌日、時が来れば現場に向かうことになる。

 あと、ハヅキちゃんは別の用事のため、先に現場に向かってもらった。


 そして、あっという間に予定の日が来た。

 彼と一緒に。


「久しぶりですね」


 馬から降りる背の低い、タキシードとシルクハットの男に私は笑顔で挨拶した。 


「ん……君は確かマジルカ村の……ミコトさん、でしたかね。どうして君がここにいるのかね?」


 白々しく言うその男の名前はジークス。かつてマジルカ村の前村長であるシルヴァーとともにスグルくんをマジルカ村から追放した都市同盟の執政官。


「これは、執政官のジークス様ですね。よくオセオン村においでくださいました。本来ならこちらから挨拶に伺うところをわざわざ起こし下さいましてありがとうございます」

「前村長のガイードです。ところで、ジークス様は今はマジルカ村に行かれているはずでは?」


 そう、この日は本来、ジークスはマジルカ村に行っていると彼らは聞いていた。


「え? なんのことです? 明後日この村に訪れることはお知らせしていましたが、マジルカ村の査察の日程はまだ決まっておりませんが」

「ジークス様、査察の日が早まったということでよろしいでしょうか?」


 ミラルカさんが笑顔で尋ねると、ジークスは首を振り、


「いいえ、今日は善意の通報者から、なんでもマジルカ村のスグル村長が監禁されていると知らせを聞きましてね」

「スグル村長が? そんな……」

「ミラルカ村長、あなたが知らないとは言わせませんよ。なんでも善意の通報者によると、村人全員が知っていると聞きます。ガイード前村長一人の犯行だとかそういう言い訳は聞きませんよ」


 もしもジークスの言っていることが本当なら、村はどうなるのか。

 村人全員が犯罪者。さすがに子供たちは無罪だろうが、そうなると、大きな問題がおきる。

 つまりは村長になる人間がいなくなる、こういう場合、都市同盟から人員を派遣してオセオン村は以前のマジルカ村の状態になる。

 そうなったら、この村の自治権が奪われるのも時間の問題となる。


 全て、スグルくんが予想したとおりに。


「スグル村長が監禁されている? そんなの何かの間違いです」

「そうですか。では監禁されている場所が食糧庫の隠し部屋だそうなので、そちらを見させてもらってもよろしいでしょうか?」


 とたんにガイードの顔色が悪くなった。

 なぜそこまで知っているのか? そういう顔だ。


「わかりました、それならご覧ください」

「ええ、見させてもらいましょう」


 そして、私達は村の食糧庫へと向かった。

 村の奥の崖を掘りぬいて作った洞窟。

 小麦粉が多く保存される食糧庫のなかに入っていき、まるで最初から知っていたみたいに、ジークスは隠し扉のある壁を押した。

 そして、そこに、ベッドがあった。布団が膨らんでおり、

 明らかに誰かが寝ている。


「ふむ、これはどういうことですかな、ミラルカ村長」

「そうですね、どういうことでしょうか? 不思議なこともあるものですね、起きてください!」


 ミラルカさんがそう言うと、ベッドから誰かが起き上がり、


「はい……おはようございます」


 ベッドから出てきたのは――ミラルカさんだった。


 何が起こったのかわからないジークスはミラルカとミラルカを見比べる。

 双子? ドッペルゲンガー?

 いや、そうではない。

 私も最初は騙されたけど、そうではない。


「では、あらためまして、ようこそオセオン村へ。私はマジルカ村で村長をしている――」


 案内していたミラルカさんは自分の髪をひっぱり、


「スグルです。いやぁ、こんなところで会うなんて奇遇ですね、ジークスさん」


 カツラをとってスグルくんは挨拶をした。

 その声が、スグル君の胸の中に隠れているハヅキちゃんのものから、スグル君本人の声へと変わる。


「それにしても、どこに監禁しているんですかね、僕は。あ、おはようございます、ミラルカさん」

「おはようございます、スグルさん」


 二人の村長の悪戯は、こうして成功した。

 でも、スグルくんの悪巧みなんて、まだはじまったばかり。

 彼がしようとしていることは、この村を、ううん、この大陸を大きく動かす作戦だったから。

スーちゃん再登場回でした。

次回はスグルくんがどうしてこうなったのかの裏話。


あと、いろいろとごめんなさい。

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