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54 鮮血に染まる村おこし -その4-

 ハンゾウについて一言で語れば、エロ忍者である。

 まぁ、これで全て片付くんだが、もう少し詳しく話すと、彼は俺と同じく日本人であり、アナザーキーという発売前のゲーム機で遊ぶことで、この世界へと転送されてしまった被害者である。

 ただ、この世界に来たときに全ての記憶を失っているはずなんだが、なぜかエロに関する知識はばっちり残っていた。つまりはエロ忍者である。

 ミコトの部屋を覗きにいって返り討ちにあい、ミスコンで水着審査がないと知ると血涙を流し、女湯を作るために私財をなげうつ。

 やっぱりエロ忍者でいい。


 ハンゾウ、つまりはエロのために生きる忍者が、女の秘密に接近しようというところで、逃げ出して帰ってきた。

 そんなこと、ありえるのか?

「お前、もしかしてDTなのか?」

 俺が尋ねると、

「そ……そんなことはない……と思うでござる」

 ハンゾウは不安な様子で言う。

 まぁ、記憶がないからな、DTかどうかなんてわからないか。

 だが、まぁ、少なくともこの世界では未経験ということだ。

「そうかそうか。お前がなぁ」

 俺はハンゾウの肩を叩いて言う。

 初めて、ハンゾウに親近感を覚えた。

 なんというか、今なら友達になれそうだ。うん。

 いや、いままでも仲間とかそういう意識はあったんだけど。なんというか、同じ穴の貉に見られたくないというのもあったがな。

 そうか、ハンゾウも普通だったんだなぁ。

「だから、違うのでござる。なんというか、アンナ殿が服を脱ぎ、秘密のあそこが見えそうになったところで」

 秘密のあそこって、いかにもDTくさい。

「思わず、風遁の術でシーツを捲り上げて、被せてしまったのでござる」

「え? そこで?」

 てっきり、本番直前とかそんなところだと思ったんだが。

「それで……アンナさんはどういう反応をしたんだ?」

「拙者が謝ると……泣いていたでござる」

「そりゃ……な……」

「それで、いたたまれなくなって……拙者、逃げ出したのでござる」

 ハンゾウが息を吐きだす。

 まぁ、俺にはそういう経験になったことはないが。

「これからどうするんだ? 泊まるところがないなら俺の部屋に来るか? ベッドも二個あったし」

 さすがに、これから宿屋に戻らせるのも心苦しい。

 今のこいつなら、ミラルカに悪戯をするというのもないだろうしな。

「そうするでござ――」

 突如、ハンゾウが消えた。

 と同時に、金属同士がぶつかる音が聞こえてきた。

 その音につられて見上げると、ハンゾウと、黒い影が衝突していた。

 ハンゾウが目元以外を全て布で覆っているとすれば、黒い影は、闇のオーラで全身を覆っているという感じだ。

 直後、ハンゾウが俺の前に降り立つ。

「スグル殿はここに、相手は手練れでござる」

 というと同時に、再び飛んだ。

「秘技、クナイ乱れ桜!」

 ハンゾウが言うと、黒い影の方向に無数のクナイが降り注ぐ。

 どこに隠し持っていたんだ? という数のクナイなのに、黒い影はそれらを避け、時には持っているクナイで弾く。

 正直、何が起こっているのか目でとらえるのがやっとだ。

 黒い影がハンゾウに接近した。再びクナイの衝突音。再びハンゾウがそのクナイの衝撃を利用して後ろにとんだ――ところでハンゾウの足元から火柱が上がった。

 火遁の術、ハンゾウが何度も使ったその火柱が今度はハンゾウに襲い掛かった。

 これはやばい、そう思ったのだが――

「忍法、風遁の術・火炎竜巻!」

 ハンゾウの声とともに炎の竜巻を作り上げた。

 そして、あろうことかその竜巻を掴み――どうやって掴んでいるのかわからないが掴んで、

「奥義、悪代官の術!」

 え? 何、その技?

 そう思った直後、ハンゾウが炎の竜巻を引っ張るとものすごい勢いで炎の竜巻が闇へと突撃していった。

 あ、これ、あれだ。悪代官が芸者の帯を引っ張って、「あーれー」とかするやつだ。

 それを竜巻で再現するとは、さすがハンゾウ。常識が通じない。

 黒い影はそれを横に飛んでかわすが、ハンゾウは手に持った炎を横にひっぱった。

 それに合わせるように炎の竜巻は動く向きを変える。さすがに黒い影にもそれには驚いたらしく、炎の竜巻は黒い影に迫った。

 このまま終わる――そう思った時、炎の竜巻が消え失せた。

 一体、何が起こったのか――直後、黒い影が反転、大きく飛び上がり、無数の針をハンゾウめがけて放った。

 その数はクナイの非ではない。まるでサボ〇ンダーのハリセンボン……いや、むしろハリマンボンだ。

「忍法、風遁の術!」

 ハンゾウの忍法により、ハンゾウに向かってくる針が全てまき散らされる。

 それで全て無効化できるはずだった――針がそれた方向に俺がいなければ……。

「ハ……ハンゾウ……お前……」

 俺を庇うように、ハンゾウが俺の目の前に立っていた。

「ミコト殿……あとは任せ申した……」

 背中に大量の針を受け止め、ハンゾウがそのまま俺の肩へと倒れこむ。

「遅かったっ!」

 百体の粘土人形が黒い影を襲おうとしたところで、黒い影は遠くへと走り去った。

「スグルくん、ハンゾウ! 大丈夫!?」

「俺は大丈夫だ、それよりハンゾウが」

 ハヅキちゃんがミコトの手の中から降りて、ハンゾウに刺さった針を見た。

「大変です、これ、毒針です! はやく解毒しないと」

 くっ、マリンがいたら魔法で治せるんだが。

「ミコトさんは粘土人形に井戸水を汲んできてもらって、ミコトさん自身は針を一本一本丁寧に抜いてください。できるだけ傷口を広げないようにお願いします」

「わかったわ」

「スグルさんはガイード村長に事情を説明して、できる限りの解毒薬を持ってきてください。時間の勝負です」

「わかった」

 俺はそう言い、全力で走り出した。



 村に常駐している医者に来てもらい、役場にあった薬も全部持ってきたのだが、

 だが――

「ダメです……これらの解毒薬は使えません、逆に悪化させるだけです」

 ハヅキちゃんの鑑定スキルでわかったのは、治療方法無しという結果だけだった。

「くそっ、俺のせいで……」

「悔やむのは後にしなさい。今は何をしたらいいか考えないと……ハヅキ、近くの森に行きましょう。あなたの力なら解毒に使えそうな草とか探せるでしょ」

「わかりました、今はそれに賭けてみましょう」

「あの!」

 ハヅキちゃんたちが森へ行こうとした直後、声をかけてきた女性。

 それは、アンナだった。

「ハンゾウ様が大変だって聞いて。これ、使えませんか? 私、薬に使えそうなものならいくつかもってるんです」

 アンナはそう言って、薬に使えそうな薬草や、カードを具現化して魔物の肝などを取り出す。

 ハヅキちゃんはそこから――

「あ、このドクドクガエルの肝が使えます!」

「ドクドクガエルの肝? それって危ないんじゃないか?」

 名前だけ聞いても猛毒な気がする。

「ドクドクカエルの肝は猛毒で、血液に入れば三日三晩はうなされます。ですが、ちょうどこの毒を打ち消す力があります」

「わかった、これを潰してハンゾウの傷口に塗り込めばいいんだな」

 まさに毒を以て毒を制すということか。

「はい!」

 俺はアンナが持っていたすり鉢を受け取り、それを潰してハンゾウの背中に塗り込んだ。

 ハンゾウがうめき声をあげたが、ハヅキちゃんが言うには、もう峠は越したとのこと。

 ハンゾウの体力なら明日には回復しているだろうという。

「アンナさん、ありがとう、助かった」

「いえ、これで恩返しができたのなら」

 アンナはそういい、ハンゾウを見つめた。

 全く、これじゃハンゾウ、一生アンナさんに足を向けて寝られないぞ。

 そう思いながら、俺はハンゾウを負ぶって、役場へと運んでいった。

 そして、俺も、今日はハンゾウに足を向けて寝られないな。

 背中で眠る仲間の重みを感じながら、俺は歩いていく。

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