51 鮮血に染まる村おこし -その1-
「この四人で行動するのも随分久しぶりな気がしますね」
揺られる馬車の中でハヅキちゃんがそんな感想を漏らした。
「ええ、そうね……全員バラバラなことが多かったわよね」
本を読みながら、ミコトが微笑む。
前方から流れてきた風になびく髪は芸術のようだ。
近くにいたせいで忘れていたが、やっぱり圧倒的な美女なんだよなぁ。
そもそも、俺がミスコンで優勝するきっかけを作ったのも、ミコトが圧倒的に票を集めたからだし。
「ずっと一緒にいるのはスグルくんとハヅキちゃんくらいなものね」
「スグル殿とハヅキ殿は一つ屋根の中であんなことやこんなことをやっているでござろう」
「うるせぇ、してねぇよ」
本気で羨ましそうに言うハンゾウに、俺は睨み付ける。
こいつはいつも通り忍び装束。額当てのみはビルキッタによって新しく作り替えてもらった。
額当てにつけられたのは猫の足跡の形の紋様。
役場の標識に猫の足跡の絵があったので、それを村のシンボルと勘違いしたそうだ。
で、勘違いしたのに気付いても、ハンゾウは感動してその額当てを受け取った。
結ばれるはずがないと思ってたカップリングだが、仲のよろしいことでなによりだ。
それに引き換え、俺は――
「はぁ」
嘆息をもらした。
あんなことやこんなことなんてできるわけないだろ。
ハヅキちゃんは幽霊だから触れることもできないし、マリンだって一緒に暮らしているんだから。
強いて言えば、幽霊の姿の時に俺の好みに合わせて服装を変えてくれる時くらいだ。
過激なものは禁止だが。
ちなみに、昨日は割烹着姿という母性を出した服装にしてもらった。
「コスチュームプレイの間違いでござるか?」
「妙な言葉を使うなっ!」
間違いではないので訂正できなかった。
俺、ハヅキちゃん、ミコト、ハンゾウの四人は馬車に乗り、マジルカ村からオセオン村へと向かっていた。
新しい村長の就任パーティーということらしい。
途中3回魔物と出くわした。
ハンゾウやミコトが出ようとしたが、二人は客だからと、御者をしているサイケが簡単に蹴散らした。
最初村に来たとき、飛竜におそれて真っ先に逃げ出したサイケも強くなったものだ。
「新しい村長ってミラルカさんでしたよね? マジルカと似てますね」
話題の提案ということでハヅキちゃんが言う。
「そういえば似てるな。まぁ、本人も気にしてるからあんまりいうなよ」
「はい、わかりました」
ハヅキちゃんが頷いた。
彼女は今日も黒猫のぬいぐるみ姿だが、せっかくのお呼ばれということで、ピンク色のリボンを首につけている。
うん、とてもかわいい。ただ、世間一般の彼女に対する「かわいい」とは違う感想だが。
「……………………」
黙ってハヅキちゃんを見つめた。
何か、本当に何かを忘れている気がする。
とても大切な何か。それが何か微塵も思い出せない。
記憶喪失とは違う、わかりにくい表現だが、「驚く事実があったことを忘れた」という知識を突如植えつけられたような状態だ。
下手をすれば、忘れたことすら忘れそうになるのを堪え、俺はハヅキちゃんを見た。
ハヅキちゃんはハンゾウと、ミラルカについて話してる。
「ミラルカ、確か年は20歳になったばかりだとか。楽しみでござるな」
「ハンゾウ、余計なことをしたら追い出すわよ」
「もちろんでござる。だが、向こうから声をかけてきた場合は仕方ないでござろう?」
何が仕方ないというのか?
だが、安心しろ。そんなことは絶対にありえない。
「あまり変なことばかり言うと、ビルキッタに言いつけるわよ」
「そればかりはご勘弁願おう」
とっさに土下座の姿勢を取るエロ忍者。
三人の雑談を聞き、何訳の分からないことを考えてるんだ? 中二病でも発病したのか? と俺は頭を横に振った。
「ところで、ミコト……例の話だが」
「大丈夫よ、気配はないわ」
ハンゾウが付いて来たのがミラルカ目当てだとすれば、ミコトが付いて来たのは俺の身の安全を配慮してのことだ。
この山で出くわした謎の気配。その正体がわからない。
ラコに監禁されていたことがわかった時、ミコトはラコこそが視線の正体だと思ったそうだが、彼女はこの山には来ていないという。
ミコトの気のせいだと思いたいが、それは楽天的すぎるだろうな。彼女の実力は誰もがよく知ることだ。
上り坂から下り坂へとさしかかったところで、俺は妙な痕跡に気付いた。
「あれ? この川干からびてないか?」
確か、地図ではこのあたりは川があったはずだ。
「スグル殿が見ていたのは古い地図でござろう。ここにあった水源は昨年の地震で塞がったそうでござるよ」
「え? それかなりやばくないか? 確か、オセオン村ってこの川沿いにあった村だろ?」
「その点は心配いらないでござる。オセオン村はもともと二本の川に挟まれた土地でござるから」
「あぁ、そういえば、そうだったな」
地図を思い出して俺は安心した。
交わることのない二本の川。その川がもっとも接近する場所にオセオン村がつくられたらしい。
「本来川に流れる水はどこにいったんでしょうか?」
ハヅキちゃんが首を傾げて言う。
まぁ、そういう場合は、大体地下に流れるのが普通だろうか?
土砂災害などの警戒もあるが、この前、このあたりはハンゾウに調査をしてもらったからな。
そういう危険は今のところないだろう。
干からびた川か。
鮭のような魔物がいたら困るだろうなぁ。
と思っていたら、
「…………ハンゾウ」
「…………うむ」
二人が頷きあい、前方に走って行った。
馬車よりも速いその速度に、サイケは思わず馬車を止める。
「なんだ? おい、サイケ、追いかけろ!」
「わかりましたよっと!」
サイケが鞭を鳴らし、馬車の速度を上げる。
ただ、その声には緊迫感はない。
まぁ、二人が危ないってことはないのは誰もがわかっている。
速度があがったことで、馬車が大きく揺れ、身体の軽いハヅキちゃんが大きく上下する。
「ハヅキちゃん、つかまって!」
「はい!」
ハヅキちゃんの前足を握り、抱き寄せる。
「あうぅ」
「え、変なところ触った?」
「いえ、抱き寄せてもらったのに、スグルさんの体温を感じられないのが寂しくて」
本当に悲しそうに言うハヅキちゃんを見て、俺はちょうどよかったと思った。
俺の体温がものすごく上がってるのがばれないで済んだ。
「村長達は相変わらずバカップルですね」
「黙って運転しろ!」
「はい、わかりました」
サイケは嘆息を漏らして了承する。
やばい、かなり恥ずかしいな。
そして、2分ほど走ったところで、
「うわぁ、なんて数だ」
前方にいたのは、猪の魔物。
かつて、俺を鼻息だけで倒した強敵だ。
その魔物が、百匹近くいる。
そんな光景を確認したところで、雷が降り注ぎ、風が吹き荒れ、火柱が天へと登った。
ハンゾウの雷遁の術、風遁の術、火遁の術が発動したのだろう。
一気に40匹近くが消滅し、今度は猪の魔物の数を超える粘土人形が現れ、残った魔物を殲滅していった。
魔物がいなくなったのを確認し、馬車は前へと進んだ。
粘土人形達が馬車の前を走り、そして――
「おい、大丈夫か?」
俺は馬車から降りてハンゾウとミコトに声をかけた。
「ん? 彼女は?」
ハンゾウの前に見慣れぬ女性がいた。
年は俺より少し上くらいだろうか? 女子大生くらいの年齢だと思う、黒く長い髪の美女がいた。
「あの、助けていただき、誠にありがとうございました」
彼女が魔物に襲われていたということか。
「うむ、危ないところであったな、拙者の名前はハンゾウと申す」
「私はミ――」
「ハンゾウ様と申すのですね!」
ミコトの言葉を遮り、彼女はハンゾウの手を握った。
あ、ミコト、少しイラっとしてる。
いつも笑顔のミコトがイラッとしてるのが俺でもわかる。
「私はアンナと申します。助けていただいてありがとうございました!」
アンナと名乗る女性は、ハンゾウの手を握ったまま、自分の身をハンゾウへと寄せる。
そのため、ハンゾウの二の腕がアンナの膨らんだ胸元に接触していた。
ハンゾウの顔は忍び装束で隠れているのに、にやけているのが丸わかりだ。
「アンナさんはこれからどちらへ?」
俺の肩の上に乗っていたハヅキちゃんが尋ねる。
黒猫のぬいぐるみがしゃべったことに驚いた様子だったが、勝手に何かを納得したのか、平静を取り戻し、
「オセオン村を経由してミーシピア港国に向かうところです」
「そうなんですか、よかったら馬車に乗っていきませんか? このあたりは魔物が多いですから」
「……お言葉に甘えてもよろしいでしょうか、ハンゾウ様」
なんでハンゾウに聞くんだ?
「か……かまわぬと思うでござる」
「ありがとうございます。お優しいんですね」
顔を赤らめてはにかんだ笑みを浮かべるアンナさん。
何? これ、もしかして今のでフラグが立った?
ハンゾウハッピーエンドフラグ?
「うそ……だろ?」
一緒に馬車に乗る二人を見て、俺はこれから振ってくる雨か雹か槍に警戒した。
だが、空を見上げても、太陽がまぶしいだけで雲一つ見えなかった。
ハンゾウハッピーエンドって、誰得だよ……




