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47 竜の谷からの暗殺者 -中編-

 赤い灯火がゆらついて見える。

 土の天井、土の壁、ランプから伸びる大きな影と、ランプを持つ小さな、本当に小さな長いぽさぼさ髪の布の服を着た女の子。ただし、普通の人間を十分の一に縮尺した感じの女の子だ。

 彼女は警戒心をむき出しにして俺を見ていた。

「目を覚ましたか、人間」

 凛とした、はっきりと聞こえる声で彼女は言った。

 小さいが、顔立ちは幼いものではない。俺より少し年上の淑女のものだ。

「あぁ、目覚めの朝としては快適とは言えないが……」

「ずいぶん落ち着いているな」

「いや、驚いているさ……」

 俺は首を下に向けて現在の状況を見た。

 体が糸で縫いつけられて身動きがまるで取れない。まるでガリヴァーになったような気分だ。

「教えて欲しい、君は一体何者なんだい?」

「我のことはどうでもいい。人間、貴様はなんでそんなに弱い? 我の体当たりでは岩を砕くのがやっと。そんな攻撃粉砕骨折するなど」

「ぐっ、好きで弱いわけじゃない……って、体当たりで岩を砕くって、君が強すぎるんだろ」

 少なくとも俺の骨は岩よりは脆い自信はある。

 板を砕く程度の攻撃でも骨折くらいするかもしれない。

「そんなことはない、我は仲間の中では最弱だ」

「仲間? 他に誰かいるのか?」

 首だけを動かしあたりを見回すが、狭い地下洞窟、他の誰かがいる様子もない。

「ここにはいない。我の仲間は北の谷にいる」

「北の谷……竜の谷か?」

「そうだ、竜が我の仲間だ」

「君は竜なのか? 変身魔法でも使えるのか、竜は」

 竜が人に化けるというのは物語ではよくある話だが、この世界では聞いたことがない。

「違う、我は竜ではない。竜にはなれない」

 だよな。少し安心した。

「そうか……俺を襲った理由を聞かせてくれないか?」

「貴様が我らを狩った人間の仲間だと思ったからだ。だが、その弱さを見ると違ったようだ。謝罪する」

 そう言い、彼女は頭を下げた。

 なんか悪い気がしてきた、彼女が竜の仲間で、仲間を殺された仇討ちに俺を襲ったとしたら、俺が黒幕になる。

 彼女が俺を襲ったのは正しい。

 もちろん、そんなことを正直に言ったらどうなるかわからないので黙っておくが。

「じゃあ、誤解も解けたし、縄を解いてくれないか?」

「縄は解こう。だが、ここから出すわけにはいかない」

「え?」

「貴様の右膝の骨は我の攻撃で粉々に砕けた。現在、アースムーブの力で強制的にくっつけてはいるが、固定されるまで三日はかかる」

 俺がこの部屋を出て魔法の効果が切れるようなことがあれば、俺の骨は再度砕け散るといわれた。

 そういうことか。監禁目的ではなく、俺の治療目的というわけらしい。

 村に戻ればマリンのリカバリーで治療してもらえるのだが、粉砕骨折状態に戻れば村に戻るのは不可能だしな。

「アースムーブって土の下級魔法だよな? 土とか岩を自由に動かす魔法」

 確か、魔法書はノームという精霊が管理しているので手に入れることができない魔法だと言われている。

 使えたら便利だなぁと思っていた魔法だ。

「よく知っているな、さすがは人間だ。そして、その効果は骨にも作用できる。我はそれで仲間の治療もしていた」

「そうか、実績があるなら従うか……俺はスグル、ここから南の村に住んでる。君の名前は?」

 しばらく一緒にいるなら名前を聞きたい、と尋ねたら、彼女は少し困った表情になり、

「我は名前がない。物心ついたときから一人だった。両親と思われる人達の遺体と荷物はあったが、我の名を示すものはなかった」

 どこか寂しそうにつぶやく少女に、

「サーチ」

 俺がシステム魔法を唱える。「貴様、何をした」と叫なれた。やば、説明してからのほうがよかったか。

「いや、これで名前がわかるから」

 名前は親が名付けたその時からシステムとして登録される。

 それ以降の名前の変更は役所に届けないといけないと聞くから、おそらく最初の名前のまま残っているはずだ。

 その予想は的中し、頭に浮かび上がった文字を読み取っ た。

【名前:ラコ 身分:なし 種族:レプラコーン】

 種族が表示されたのは初めてだ。

 もしかしたら、パスカルにサーチをかけたらハーフワン狼族とかでるかもしれないな。

「ラコ、それが君の名前らしい」

「ラコ?」

 少女はその言葉を反芻し、

「初めて聞く名だ……でも、どこか懐かしい」

 少しうれしそうな顔で彼女は俯いた。

 喜んでもらっているところ悪いが、もう一つ語っておかないといけない。

「君はレプラコーンと呼ばれる種族だ」

 レプラコーンは珍しい種族だ。

 力は強いが、数は少なく、辺境の集落で集まって住んでいたという。

 だが、数百年前、大規模なレプラコーン狩りが行われたという。

 ある時、レプラコーンの家族が地中で財宝の入った宝箱を手に入れた。

 彼らは金銀財宝に魅力を感じる種族ではないため、それを人間に売り、大量の作物の種を買って帰った。

 その話が、いつの間にか、レプラコーンは財宝の在り処を知っている種族だとして広まった。

 レプラコーンは財宝に目が眩んだ人間によって誘拐されていくことになる。

 レプラコーンは力の強い種族だが、人間の数はその強さを上回ったのだ。

 今でもレプラコーンは決まった集落を持たず、世界中を放浪しているという。

 これがこの世界におけるレプラコーンの話だ。

 俺が話しているのをラコは黙って聞いていた。

「話してくれたことありがく思う」

「いや、ラコの種族を見つけられたらと思うが、力になれそうにない」

「それは気にしなくていい。我はこれからも竜とともに生きていく。それは変わらない」

「そうか……」

「あぁ、いろいろ教えてもらった礼だ。スグルの傷が治るまでの三日間は我が面倒を見よう」

 ラコはそう語った。

 こうして、俺とラコの奇妙な共同生活は始まった。



 ラコとの生活で最初に問題になったのは絶対的な狭さだった。

 まともに動くことができない。

 だが、そう言ったら、ラコはアースムーブを使いすぐに広げてくれた。

 トイレも一緒に作ってもらったのだが、ドアもない、穴だけの部屋だったが、三日間はそこで我慢するしかないだろう。

 次に困ったのは、食事だ。

 俺がいるせいで外に食糧の補給にはいけない、だが、備蓄は十分ある。

 そう言われて安心したのだが、全て草だった。

 しかも生。

「食べられる草だ」

「いや……食べられるって言ってもな」

 さすがに勘弁と、俺は3枚のカードを取り出した。

 2枚はゆで卵のカード、1枚は岩塩のカードだった。

 どちらもマリンにカード化してもらい、非常食として持っていた。

「これは何だ?」

「ゆで卵だ。ラコ、悪いがアースムーブを使ってこの岩塩を粉にしてくれないか?」

「粉々にしたらいいのか? わかった」

 そういい、ラコはパンチで岩塩を粉々に砕いた。

 いや、うん、まぁ粉も飛び散ってるからいいか。

 俺はゆで卵の殻をむき、岩塩をつけて食べる。

「うん、うまい。ラコも半分食べてみろよ」

「あ……あぁ」

 ゆで卵は、黄身だけでもラコの顔より大きい。

 はじめて食べるのだろう、恐る恐る口を開き、

「ん、おいしいな」

「だろ? ただのゆで卵なんだけどな、素材がいいんだろうな」

「我には少し大きいが」

「おれにも少し大きいかな」

 岩塩の結晶が。ガリガリ言ってる。食べられないことはないが。

 ゆで卵のカードはあと10枚あるから、なんとか食べ物には困らないかな。

 飽きるだろうが。

 それにしても、絶対あいつら心配してるだろうな。

 ハヅキちゃんあたりは探してくれているだろう。

 マリンは……家で寝てるんじゃないか?

 三日かぁ、仕事も溜まるだろうな。

 なんとか無事を知らせたいが、俺もラコもここを出られない状況だと手段が見つからない。

 いろいろな不安もあるが、三日、いや、あと二日の辛抱だ。

 帰ったらいろいろと怒られるだろうが、仕方ないな。


 次の日。

 ラコが言った。

「スグル、すまない。面倒を見られなくなった。骨はそのままなら2日でくっつく。動くんじゃないぞ?」

「どうしたんだ?」

「人間の軍勢がこちらに向かってくる。竜の谷を目指しているに違いない」

 彼女は意を決したように言った。

「我は彼らを止めなくてはいけない。仲間を守らなくてはいけないから」

「それって……」

 俺は呟いた。

 人間の軍勢……それってもしかして。

 いや、もしかしなくても、俺を探しに来た村人達みんなじゃないか? 

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