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45 なじみすぎた異世界人

 結局、ハンゾウが見つけてきた温泉の源泉候補は、どれも深い場所にあったり、岩盤が硬かったりして使い物にならなかった。

 唯一使えそうな場所は最初に見つけた山頂の向こうにあるもので、大きく迂回してお湯を安全な場所まで運ぶとなると工事費もバカにならない。

 酒場のテーブルで憩いの山の地図を見て悩むのも疲れてきた。

「ゲームだと温泉を掘り当てたってだけで大成功なのにな、現実は厳しいわ」

「現実が厳しいと思うのは、それだけ求める理想が高いということですね」

「そう言われたらそうなのかもな。高望みしすぎなのかもな……って、カリナ、いたのか」

 横にいたのは、緑色のサイドテール髪の少女、カリナ。

 俺と同い年くらいの少女で、ラキアとともにドラゴンレンジャーズ見習いとして頑張っている。

「ラキアは一緒じゃないのか?」

「村長? 私とラキア君、二人で一組みたいな扱いしてません?」

「悪い、そう思ってる」

「そうですね、皆さんそう思ってるみたいです」

 カリナはパンケーキを食べながら笑顔で言う。

 卵多めのパンケーキ、卵の安定供給の効果で値段もだいぶ下がった。

「一口食べます?」

「いや、気持ちだけもらっておく……パンケーキか、養蜂場でも始めるかな」

「ヨーホージョー?」

「ほら、ラキアにドゥードゥルを狩らせて卵を集めさせてるだろ? あれと同じで、ハチの魔物、ハニービーを集めてハチミツを集めるのも悪くないかなって」

 西大陸では砂糖がそこそこ貴重なため、甘味は果物に頼るところが大きい。

 ハチミツが集まればいい取引材料になる。

「それがヨーホージョーですか……はむ」

 パンケーキの最後の一口を食べて、カリナは「ハチミツたっぷりのパンケーキもおいしそうですね」と言った。

「あぁ、うまいぞ? あと、バターもたっぷりつかって……牛乳だとモーズか、でもモーズになると大きな建物が必要になるな」

「モーズは強いですからね、建物でも簡単に壊されそうです。スケープゴートにしてはどうです?」

「スケープゴート? 山羊の魔物か?」

「はい、逃げる速度は魔物の中でも指折りですが、山羊肉と山羊乳とカシミアを落とします」

 山羊肉は100%で、山羊乳は70%、カシミアは20%の確率で落とすらしい。

「山羊乳か、独特な臭みはあるらしいが、使えるな。でも逃げ出す魔物なら、村の中に逃げられたらやっかいだぞ?」

「人用の出入り口とスケープゴート搬入口をわけて、人用の入り口を小さくしたら人より大きなスケープゴートは逃げられませんよ」

「お、そのアイデアいただき」

 カリナはのんびりしているようでしっかり考えてくれているようだ。

「あとはスケープゴートがどこにいるか調べて手に入れたらいいな」

 俺は地図を丸めて紐で結ぶと、別の紙でさっそく山羊牧場の計画を書き出す。

 養鶏場と違い、一つの建物に一匹にしたほうがいいな。

 山羊肉と山羊乳とカシミアの相場は……あぁ、忘れた。

「マスター、山羊肉の相場覚えてる?」

 厨房の奥にいるゴメスに声をかけると、すぐに返事が返ってきた。

「うちの仕入れ値じゃカード1枚10キログラムで、1200ドルグってところか」

「1キロ120ドルグ……100グラム120円くらいか……」

 ちなみに、1ドルグ10円計算。

 結構お手頃な値段だな。日本の鶏もも肉より少し高いくらいか。

 日本での山羊肉の相場は知らないが、きっとそれよりは安いのだろう。

 ただ、あくまでも酒場の仕入れ値なので、市場で買うとしたらもっと高いのかもしれない。

「山羊肉がとれたらジンギスカンパーティーでもしたら、新たなブーム……にならないな。せめてメディアをもう少し発達させないと。サンドカライの町にいってグルメ本の企画でも持ち込むか」

 出版技術もほとんど発達していないからそれも難しいだろうな。

 日本の版画印刷レベルだったか、この世界。

「村長、楽しそうですね」

「楽しいもんかよ……仕事が増えて寝不足だ」

「でも、いまの村長の目、冒険をしているラキア君みたいですよ」

 そう言われて、俺は考えた。

 楽しいか。村を成長させることばかり考えて、頑張ってるのは亡き両親の弔いみたいなもんだと思っていたが。

 まぁ、いろいろ考えて、村が成長していって、多くの人に感謝されるのは嫌ではないが、楽しいとか考えたことなかったな。

「って、違うな」

 いや、待て!

 俺はゲーマーだ。魔物を狩りたいんだ。

 モ○スターハンターなみに、大きな魔物を狩って、肉をやいて、こんがり肉かよ、でも腹減ってるから食うぞ、うわ、まず、みたいな生活をしたいんだ。

「バッカス、俺でも狩れそうな魔物はどこかにいないかな」

 カウンターの向こうでグラスを拭いていたバッカスに尋ねると、

「村長でしたら、プチジェリー相手なら3対1でなんとか倒せるレベルですね」

 と答えた。プチジェリーといえば、スライムのような魔物、ジェリーの中でももっとも弱いとされる魔物。

 まぁ、まずはそこから頑張れってことか。勇者もスライムを倒して成長したんだし。

「……どこにいけば倒せるんだ?」

「あ、村長、勘違いしないでくださいね。村長3人がかりでプチジェリー1匹ですから」

「ひど、俺プチジェリー以下なのか!?」

 弱い弱いとは思っていたが、そこまでとは。

 いや、冒険者ランクが【S-】だった時から、もしかしたら? とか思ってたけどな。

「村長、元気だしてください。プチジェリーは子供でも踏みつけたら倒せる魔物ですが」

「カリナ、傷口に塩を塗る行為はやめてくれ」

「でも、村長って普通に生活できるだけの力はありますよね。少なくとも徹夜で仕事をするだけの体力はありますし」

「本当に、こっちの世界の謎だよな、そこは。俺の弱さの秘密を解析したら逆に強くなる方法とかわかるかもな」

 詳しく話を聞こうとバッカスを見ると、彼はいつの間にかいなくなっていた。

「なんで俺は弱いままなんだ?」

「そうですねぇ。村長が別の世界から来たからじゃないでしょうか?」

「やっぱりそこだよなぁ……」

 ミコトやハンゾウの力は元の世界からのものっぽいけどな。

 マリンの魔法も、あの魔法書を見る限り日本でなんらかの魔法の鍛錬を積んでいたのだろう。

 ハヅキちゃんはもともと幽霊だったしな。モニターに映ってたときから黒猫のぬいぐるみだったし。

 ――ん?

「なぁ、カリナ、変なこと言わなかったか?」

「私はいつも真面目な話しかしていませんよ」

「いや、俺がどこから来たって?」

「別の世界から来たんですよね?」

「な、なんで……?」

「村長ってもともとは旅人とか言ってるのに、この周辺の魔物の分布しか知らないし」

 カリナが言うには、スケープゴートはオセオン村周辺に生息する魔物のようだ。

「なのに変な知識はいっぱいありますし、さっき、こっちの世界って言ってたじゃないですか。他の世界を知ってるみたいな言い方ですよね」

「あ……言ってたな……」

 今まで誰にもツッコまれたこともなかったうえ、疲れがたまって油断していた。

「だから、別の世界から来たのかなぁって思ったんです」

 的を射ている。

 いや、待てよ、だからって異世界からの住人なんて言われて信じるか、普通?

 常識的に考えてそんなこと信じないだろ?

 俺がそう尋ねたら、カリナは何をいまさらという感じで答えた。

「幽霊のハヅキちゃんたちがいる時点で、常識がどうとか言えない村だと思いますよ。それに村長が旅人じゃなかったことは全員気付いてると思いますよ?」

 カリナが言った。

「村長の弱さで旅人って、生きてるほうが不思議ですよね?」

 で、ですよねぇ。

 ほかにも、ミコトやハンゾウの格好が、この世界に存在するどの民族衣装にも合致しないこととか、名前の不自然さとかもあげられた。

「あぁ……異世界とかそういう話は他の人には黙っておいてほしいんだが」

「別に黙っておくことでもないと思いますが?」

「いや、まずいだろ」

 なんであれだけ的確に俺が異世界人であることを言い当てたのに、そこが理解できないんだ?

 異世界人が村長とか領主会議でやり玉にあげられたら困る。

 下手をしたら迫害の対象になりかねない。

「問題ないと思いますよ。異世界人だからって嫌われるほど、村人と村長の絆は脆くないと思いますよ」

「…………」


 結局カリナは、俺が異世界人であることを黙っておいてくれると約束してくれた。

 その日、俺は一日考えることになった。

 自分が異世界人であることは一生変わらない。

 それが白日の下にさらされたとき、俺はどうしたらいいのだろうか?

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