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43 ほのぼのできない養鶏場物語

 マリンが村に来てからもう一ヶ月がたつ。

 夏も本番だが、マジルカ村の気候は軽井沢の避暑地なみに、暑さはまだマシといったところか。

 決して暑くないわけではないが、日本の夏の暑さに比べたらまだ耐えられるもので、クーラーが恋しくなるとかそういうことはなさそうだ。

 あと1ヵ月したら状況は変わるかもしれないが。

 そして、マジルカ村に、新たな建物ができた。

「村長、なんですか? この建物」

 そう尋ねたのは、最近村に加わった冒険者のラキアだ。

 俺は7月生まれなので、今月17歳になったことにしてある。

 そのため、ラキアは俺より一歳年下の冒険者であり、俺のことをそこそこ慕っている。

 村に加わったときは何故か多くの誤解を抱えていたようだが、話し合ううちにいろいろ解消していった。

 さすがにハヅキちゃんの正体が幽霊だと知ったときはかなり驚いていたが、今では普通に会話もしている。

「ちょうどいい、ここの管理をお前に任せようと思っていたんだ」

 そう言い、俺は建物を再度見上げた。

「管理ですか?」

「ああ、新たな産業だ。まぁ、中に入れ」

 そういい、俺は扉をあける。そこは小さな空間があり、もう一つ扉がある。

「二重扉になっているんだ。まずはそこの扉を閉めてくれ」

「わかりました」

 入ってきた扉をラキアが閉めると、今度は俺が奥の扉を開ける。

 奥の部屋には大量の檻と、魔力鉱の塊が置いてあった。

 そして、全ての檻に、鶏のような魔物がいた。

「これ、ドゥードゥルですか?」

「ああ、東大陸から取り寄せた」

 ドゥードゥルは魔物の中でも最も弱い魔物の一種族で、子供が追い掛け回すこともある。

 倒すと、「鶏肉」「鶏卵」「5ドルグ」のカードを落とす。

 経験値も低く、倒したところで【鳥戦闘スキル】も武器スキルレベルもあまり上がらない。

「よし、ラキア、これらを全部殺してくれ」

「え、殺していいんですか?」

「ああ、殺すために用意したんだ。羽を飛ばしたりして攻撃してくるからきをつけろよ」

「大丈夫です、ドゥードゥルの羽くらいじゃ子供だって傷つきませんよ」

 そう言うと、ラキアは剣を抜き、檻の隙間を縫うように突き刺してドゥードゥルを絶命させていく。

 それにしても、俺の手が怪我だらけで包帯を巻いていることを見たら、俺がドゥードゥルの羽にやられたことくらい見当がつくだろうに。鶏に倒されそうになるとは、ゼ○ダの伝説の主人公になった気分だ。

 檻の中の鶏程度なら楽に倒せると思ったのだが、恐ろしいな。

 まぁ、今はその観察眼のなさに感謝しよう。

 数分で100羽いたドゥードゥルを全て絶命させ、檻の中にはカードだけが残った。

「よし、じゃあ檻を持って外に出るぞ。二重扉はかならず入ってきた扉を閉めてから奥の扉を開けるんだ」

「わかりました」

 時間はかかるが檻を出していく。

 そして、全て檻を出し終えたところで、再度ラキアが質問してきた。

「これ、一体何の意味があったんですか?」

「あぁ、この建物な、煉瓦の間に錫の壁があるんだよ」

「錫?」

「ああ、商人からリューラ魔法学園の研究資料ってのを買ってだな、錫は魔物の魔力の通さない金属らしいんだ」

 その建物の中で、魔物を殺すと魔物が魔力になって拡散。ただし建物の外には出ていかず、魔力は建物の中に停滞。

 魔力鉱の力で再度魔物として生まれ変わる。

 さすがに二重扉があるとはいえそこから魔力が出て行くこともあるが、魔力鉱に引き寄せられるため、理論上は99%魔力が保たれるという。

「明日にはさっき殺したドゥードゥルのうち99羽が復活しているはずだから、また倒す。これで、鶏肉と鶏卵の安定供給が可能だ」

 鶏卵のカードは1枚で10個の卵になる。

 ほぼ100%落とすカードなので、今日だけで1000個の鶏卵が手に入ったわけだ。

 まぁ、現在は建物の建設費やドゥードゥルの購入費や輸送費で今は赤字だが、これからはきっといい収入になる。

「手に入ったカードのうち鶏卵と鶏肉はガルハラン商会に運び、ドグルのカードはお前の取り分、ドゥードゥルの数が60羽以下になったら追加で仕入れるからな」

「じゃあ檻は出さないで中に置いたままでよかったのでは?」

「檻の中に生まれるって決まってるわけじゃないし、檻を傷つけずに剣を振るい続ける自信あるか?」

 檻が置かれている状態だと建物の中は非常に狭い。

 そこで剣を振るうことを想像したであろうラキアはすぐさま自分の考えが間違っていることに気付いたようだ。

 まぁ、一番の理由は、これらの檻がガルハラン商会からの借り物だから返却しないといけないということなのだが。

「凄いですね、村長。どうしてこんなことを思いついたんですか?」

「そんなの決まってるだろ?」

 ラキアの問いに俺は笑顔で答えた。

「我が家のエンゲル係数(しょくひ)を少しでも下げるためだ!」




 俺、剣崎傑けんざきすぐるは日本人だ。

 発売前のゲーム機、アナザーキーのテストプレイヤーに選ばれた俺は、同じくテストプレイヤーに選ばれたハヅキちゃん、ハンゾウ、ミコトと4人でゲームを開始。

 するとなぜか見知らぬ世界にいた。そこが異世界だと気付くのに時間はかからなかった。

 その後、成り行きでマジルカ村の村長になることになり、ゲームの知識や仲間のチート能力のおかげで村は成長していった。

 だが、どういうわけか俺個人の借金が膨らむばかり。

 村長としての給料を上げたら借金の返済は楽になるのだが、かつて市の職員として働いていた父の姿を思い出し、一人で暮らすには十分な給料をもらっているのだからと拒否。

 結果、俺より高給取りのハヅキちゃんとマリンに養ってもらうという恥ずかしい日常を送ってきたわけだが。

 昨日、ついにミコトと秘書のパスカルへの借金の返済が終了。残りはハンゾウへの借金だけだが、まぁ、あいつはいつでもいいだろうということで、食費は自分で払うことにした。

 だが、この世界、肉や卵、牛乳などが異様に高い。魚だけはマリンが大量に入荷してきてくれるので安く済んでいるが、それでも俺は本来、17歳の高校生だ。

 肉や卵がなくては生きていけない!

 そういう思いで、村長の職業を利用し、養鶏場を作り上げたというわけだ。

 これぞ特権階級のなせる業。

 今度は兎小屋に挑戦するか。東大陸に生息する、最弱の魔物の一種であるフワットラビットのウサギの肉は大変美味だという。

「ふははは、俺の野望は止まらないな」

「野望はいいですから、仕事をしてください、村長」

「はい、すみませんでした」

 パスカルに怒られて謝罪すると、俺は椅子に座って帳簿を書き続けた。

 結果、昨日からはじまった養鶏場の成果は俺の予想以上だった。今朝、ラキアからあがった報告では、100羽全部が復活していたという。

 さすがに部屋に入り100羽全員に睨まれたときは怖かったといっていたが、ドゥードゥルの攻撃ならほぼノーダメージで終わったらしい。

 おかげで酒場の玉子スープの値段も100ドルグから40ドルグへと下がり、俺でも気軽に手を出せる値段となった。

 ただ、養鶏場は村営のため帳簿の管理がさらに複雑化。俺の仕事はさらに増えた。

 その代わり、乗合馬車は予定よりも早く村営から民間へ委託。マジルカ・オセオン間の乗合馬車の数を一日4本に増やしたのがその理由だ。

 今はサイケとベル・マークのムッツリスケベコンビがダブルオーナーとなり、さらにドラゴンレンジャーズの中から4人が冒険者を引退、御者一筋で生きていくことになった。

 その四人は妻子持ちで、安定した生活を妻から求められたのだという。補助金を村から出しているから、御者の給料は冒険者のころよりは少し下がるが悪くはない。

「そういえば、パスカル、一つ聞きたいんだが」

「どうしました?」

「昨日、スキルレベルをはかったら、村経営レベルが20にまで上がってたんだ」

 俺の現在のスキルはこうだ。

【村経営20・計算22・商売19・身体防御12】

 身体防御スキルは、腕を落とされたときに11も増えた。なのに魔法抵抗は全く増えていないが。

 身体防御と魔法抵抗は本当に別物のようだ。

 と、今はそんな話ではない。

 村経営レベルが20に上がったことが問題だ。

「村経営レベル20、それってもしかして……」

 パスカルもそれに気付いたようで息を飲んだ。


「あぁ、町経営スキルを覚えていた」


第三章

暗殺者に狙われますか?【はい・いいえ】

ですが、本当の章題は

異世界にみんなでトリップしたら俺だけノーチートで村長として命を狙われることになりました

です。って、え? スグルに何が起きるの?

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